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もしかすると……
響への想いに比例して、一真への後ろめたさが増えたから。
それがストレスになって、あの手強い中途覚醒の、1番の原因になっていたのかもしれない。
だからお義母さんの……
愛は変化する、私の幸せを願ってるという言葉で、そのストレスが軽減されたのだろう。
次の日曜、お弁当を作りながらそんな事を考える。
他にもこの1週間、色々と考えた私は……
「ねぇ今日、秀人と食事に行きたいんだけど……
ダメ?」
秀人の気持ちを汲んで、その想いは知らない事にするけど。
どうしても、面と向かって今までのお礼を伝えたかったのだ。
でもそれは、秀人の想いを知ってる響を、不安にさせてしまうかもしれないけど……
「全然いいよ?」
いつだってその人は、私の気持ちを温かく受け入れてくれるから。
もっと、ちゃんと、幸せにしたいと思った。
そうして、秀人をランチに誘い出すと。
「彼氏と、なんかあったのか?」
響をそう呼ぶようになったその人から、誘ったわけを心配そうに伺われる。
「ううん、そうじゃなくて。
秀人にちゃんとお礼が言いたくて……
色々と、ありがとう」
そう握手の手を差し出すと。
「俺は別にっ……」
戸惑った様子で、そっと触れてきて……
ぎゅっとされる。
なぜだか切ない想いが込み上げて来た。
「……秀人には、言い尽くせないほど感謝してる。
ずっと自分の事で精一杯だったから、色んな事が見えなかったけど……
秀人が支えてくれなかったら、今の私はなかった。
だから……
今まで本当に、ありがとうっ」
高まる思いに涙が滲んで……
いつしか私も、ぎゅっと握り返してた。
秀人も同じ様子で……
握られた手が、さらに締め付けられていく。
だけどそれを誤魔化すように、いつもの調子に切り替わる。
「俺はなんもしてねえよっ。
っ、よしっ。
このまま腕相撲でもするかっ!」
「なんでそーなるワケっ?
けど……
いつも一真と、なにかにつけて腕相撲してたよね。
……そういえば、あの時は何がきっかけだっけ?」
おもむろにそれを振り返る。
*
*
*
腕相撲で勝負の最中。
「憧子っ!
絶対勝つから見てろよっ?」
「いや憧子っ、俺のが勝つから見てろよっ?」
「なに呼び捨てしてンだよッ!」
「なにケチケチしてンだよッ!」
「ケチでけっこー!
俺はそんだけ憧子にハマっ、」
「勝手にノロケてろっ」
一真の戦意が乱れた隙に秀人が攻める。
「おまっ!狡ィだろっ」
*
*
*
「それでも無理に勝とうとして捻挫しちゃうんだから、馬鹿だったよね……」
「……だな」
2人して、懐かしさに目を細めた。
「つか。
おまえとこんなふうに、あいつの話が出来るようになるなんてな……」
「えっ?」
ボソボソと呟かれた声は聞き取れなかったけれど。
「いやっ、やっぱり腕相撲するぞっ!
あん時のきっかけは、どーせくだらねぇ事だろーけど。
おまえが一真のリベンジしろよっ」
「はっ?
本気でっ?
こんな場所でっ?」
他のお客さんの視線が気になる。
「いーからほらっ!
おまえは両手で、あっ、顔も使っていいぞっ?」
「どーやって使うのよっ」
結局、強引にやらされたものの。
「ビクともしないんだけどっ……
痛っ!
なんでそんな強く握るのっ?」
「っ、ワリっ」
秀人の力が緩んだところで。
「隙ありっ」
「うわっ!おまっ……
ほんとにリベンジしやがった」
なんて、わざと負けてくれたってわかってる。
「じゃあ負けたから、なんか言う事聞いてやるよ」
「え、そうなのっ?
じゃあ……
これからも、友達でいてくれる?」
それは秀人にとって残酷だろうか?
だけどもし気を使って距離を置こうとしてるなら、そんな他人行儀な事はしてほしくなかった。
「それおかしくねぇかァ?」
「え……」
やっぱり残酷で我儘な頼みだったのかと、申し訳ない気持ちで戸惑った矢先。
「言われなくても、俺とおまえは一生親友だっつの」
その言葉に、ぎゅっと心を抱き締められて。
とっさに俯いたけど。
思わず落ちたひと雫に、その人は気付いたのだろうか……
ぽんぽんと、優しく頭を撫でられる。
「んっ、ありがとう……
秀人ありがとうっ……」
いつか私が、その人の力になれますように。




