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「ちょうど起きたとこだから気にしないでっ」
そう快く迎え入れてくれた成美に、感謝を告げると。
さっそく本題を切り出した。
「あの、ね?
秀人が煙草をやめたのって、私がそれで取り乱したから?」
ー「煙草は憧子の為にやめたんだよね~」ー
成美はきっと、秀人の気持ちも知っている。
「まーねぇ……
あの頃は憧子につきっきりだったしね」
やっぱりそうか。
そしてその人の気持ちは……
ー「俺は2人が幸せなら、それでいいと思ってた」
「でも今幸せなら、それでいい」ー
愛する人が生きていて、幸せならそれでいいと言った私に。
その気持ちがすごくよくわかると言っていた、その気持ちは……
「ねぇ秀人って、私の事……」
そこまで口にしたところで、自惚れてる気がしてためらうと。
「ずっと好きだったよ」
見透かした成美に、答えを突き付けられて。
胸がものすごい力で締め付けられる。
ずっと、って……
"2人が幸せなら"
それはきっと、私と一真の事で。
「まさか、一真が生きてた頃からっ?」
「うん……
トリップしてる一真くんを、幸せそうに見守ってる姿に、惹かれたって」
「うそ……
どーして今まで教えてくれなかったのっ?」
「あたしが知ったのは一真くんが亡くなってからで……
憧子、それどころじゃなかったから。
だから秀人くんも、打ち明けられなかったんじゃないかな。
苦しんでる憧子に、余計な負担をかけたくないって」
「っ、そっか……
っっ、そっか……」
胸と言葉が詰まって、涙が滲む。
しんどい思いをさせたくなくて、想いを口に出来ない辛さはよくわかる。
そして、他の人に向けられた愛を傍で見守り続ける辛さも。
だけど秀人はこんなにも長い間、その辛さと想いを募らせながら……
ー「俺があいつの代わりに守ってやる」ー
そっと身代わりになって、支えてくれてたんだ。
それは、どれほど辛かっただろうっ……
ー「好きなら傷付いたっていんだよ」ー
ふいに浮かんだその人の言葉に、涙がぐっと押し出される。
しかもその人は……
ー「愛してんなら頑張れよっ」
「憧子の事、頼むな」ー
どんな思いで応援してくれたのだろうっ。
私はこんなにも愛されて、大事に思われていて。
なのにその気持ち答えられないのが苦しいっ……
「……ごめんね。
憧子を苦しめたくはなかったんだけど……
でも秀人くんは、一生打ち明けるつもりはないだろーからさっ。
永遠に知られる事もなく、存在しない想いとして扱われたら、あまりにも可哀想じゃない?
だけど憧子がそんなふうに受け止めてくれただけでも、その想いに涙してくれただけでも。
秀人くんはともかく、その想い自体は報われると思うよっ?」
そう言って成美は、私の頭をよしよしと撫でてくれた。
「んっ……
教えてくれて、ありがとうっ」
ごめんね、秀人……
今まで気付かなくてごめん。
その想いに応えられなくてごめんっ。
だけどありがとう。
そんなに想ってくれて、ありがとうっ……
「……なんだか自分だけ申し訳ないっ。
秀人にそんな思いをさせて……
一真にも寂しい思いをさせてるしっ」
「っ、一真くんっ?
なんでそう思うの?」
「なんでって……」
そこで私は……
響への想いに比例して、一真との中途覚醒時間が増えた事や。
それに伴って記憶の覚醒が起きた事。
さらに響と本当の恋人になった直後に、2度目の覚醒が起きてた事を説明した。
「偶然とは思えなくて……
一真が寂しがって、忘れないでくれって訴えてるような気がするの」
「なるほどねぇ……
まぁ関連付けちゃうのも分からなくはないけどさ、あたしはそうは思わないかなっ。
それに、なんかの番組で心理カウンセラーが言ってたんだけど。
ショックが大きすぎると、脳で処理できる限度を越えるらしくてさ。
その場で処理されなかったりするんだって。
だから時間が経って、それを受け入れられるくらい回復した頃に。
フラッシュバックしたり、夢の形で脳処理が行われるケースがあるんだって」
目の前にあった透明な、私を塞いでたカーテンが……
シャララと開けられたような気がした。
「……そう、なの?
もしかして記憶が覚醒したのは、私が回復したから?」
「そーだよきっと!
だから一真くんの気持ちまで考えれるようになったんじゃないっ?
だって前は、一真くんが悲しむって言われるのを嫌がってたくらいだしっ」
確かに私は、それにうんざりしてた。
ここにいないのにどう悲しむのかと。
なのにその人が寂しがってるなんて、おかしな話で……
「だからさっ?
そんなの自分の捉え方次第じゃないかなっ。
結局は響くんのおかげで回復したから、一真くんの気持ちを考えれるようになって、秀人くんの気持ちも受け止めてあげれたんだよっ」
響のおかげ……
そうか、響が私の安定剤だから。
脳が安心して、記憶を覚醒出来たんだ。
そしてここまでの回復がなければ……
秀人の気持ちを知っても、プレッシャーにしかならなかっただろう。
だから成美の言う通り。
想いを受け止める事が出来ただけでも、良かったのかもしれないし……
ちゃんとしっかり受け止めたい。
「けど憧子って意外と鈍感だよねっ。
響くんの気持ちにも気づかなかったワケだし。
秀人くんだって、なにげにアピールしてたと思うけど」
「秀人はっ、あのキャラだから冗談だと思ってたし。
2人とも……
一真を永遠に愛してる私を、好きになるなんて思わないじゃない」
特に響に至っては、ちひろさんの存在があったし。
ツイッターのユーザー名にも、まだその名前が入ってるし……
「まぁ確かにねぇ……
でもあたしは、憧子がうちの店に連れて来た時から、響くんの気持ちに気づいてたけどね~」
「そんな前からっ?」
とっさにその時の事を巡らせて……
インパクトの強い、響と秀人の衝突を思い出す。
そんな2人が、さっきは……
ー「見守るだけで、後悔しないんですか?」
「あいつと同じ事、聞くんだな」ー
後悔しないのかと訊いた響は、秀人の気持ちに気付いていたのだろう。
そして"あいつ"というのは、一真に違いなくて……
「……ねぇ、成美。
一真も秀人の気持ち、知ってたのかな」
「みたいだね。
だからプロポーズ前に、ほらっ」
*
*
*
「なぁ憧子……
このまま俺と付き合ってても、いいのか?」
「え……
何言ってるの?
当たり前じゃない!
なんでそんな事訊くのっ?」
「いや俺、仕事が忙しいし。
一緒にいてもトリップばっかで、いつも寂しい思いをさせてるだろ?
もっとお前の事を第一優先してくれて、俺と同じくらい。
いやもしかしたら、それ以上に愛してくれるヤツがいたら……
そいつと一緒にいた方が、幸せなんじゃないかって」
「勝手に決めないでっ!
私は一真といるのが幸せなのっ。
どんなに寂しくったって、一真といたいのっ……
ねぇお願い、そんな事言わないでよ」
「っっ、ごめんなっ?変な事言って。
俺も、憧子の幸せが1番だからさ……
じゃあこれからも離さないから、覚悟しとけよっ?」
*
*
*
「憧子、そんな話ししてたよね?」
そういえば……
そうか、その話に出て来た"そいつ"は、秀人の事だったんだ。
「あたし、思うんだけどさっ。
そーやって1番に憧子の幸せを考えてくれた一真くんだから。
寂しいどころか、憧子が泣いてるより幸せな方が安心すると思うよっ?」
「っ……
っっ……
そうだねっ……」
ー「俺も、憧子の幸せが1番だからさ」ー
そう一真は、そんな素敵な人だった。
なのにごめんねっ……
ー「考えてるのは、どーやったらそっちの都合を受け入れてもらえるかだけでしょっ!?」ー
いくらマリッジブルーだったからって、ほんとにごめんっ。
だけど、せっかく響がその後悔を和らげてくれたから……
同じ苦しみは繰り返さない。
でも代わりに……
その夜。
携帯を開いて、さっそく文字を呟いた。
〈ねぇ一真、ありがとう。
私は本当に幸せだった。
これからもずっと愛してる。
たとえ変化しても、愛してるから〉
愛は今でも、どうしようもなく募ってく。
どうかこの想いが、愛するその人に届きますように……
そしてその日を境に、中途覚醒がピタリと治まった。




