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JUN-AI ~身がわりラヴァーズ~  作者: よつば猫
巡愛
44/48

 翌日。

さっそく響に、母さんから教わった新メニューを振舞うと。

その人は大好物が増えたと感激してくれて。

そのあと久しぶりに、極上シャンプーをしてもらった。


「ん、いい匂い……」

ネロリの香りと相変わらずの快楽に、身も心も委ねてると。


「今度の休み、髪染め直そっか」

すっかり色落ちしたそれに、そう提案される。


「ありがとう。

じゃあ私も、響と一緒の黒がいい」


 その人は親への挨拶の時に、わざわざ染めてくれたのだ。

私も照明デザイナーに戻るからには、クライアントの手前、身だしなみも整えなきゃいけないし。

今は、バカップルでも一緒がいい。


 すると、ふはっと嬉しそうな笑声が降って来て……

ふっと唇に、響のそれが重ねられた。


「好きだよ、憧子さん」


「っ……

うん、私も好き……」

ふいうちの威力と慣れない言葉にやられて、甘い視線から逃れながら応えると。


「憧子さんいきなり可愛すぎるんだけどっ」

そう言われて、余計戸惑ってしまう。


「とにかくっ。

あの夕陽の世界は、髪じゃなくて照明で反映するから」

照れくささを誤魔化すようにそう切り替えると。


「うん。それめちゃくちゃ楽しみにしてる」

響は嬉しそうに目を細めた。


 照明デザイナーに戻る事と、そのいきさつは……

あの日コンビニの駐車場で、フォローのお礼や響のおかげだという感謝とともに話してて。

その時も響は、自分の事みたいに喜んでくれていた。


「あとさ……

もう1つ、反映してほしい事があるんだけど」


「なに?」


「ん……

俺の夢も、憧子さんの照明で反映してもらえないかなって」


「響の夢?」

それはちひろさんのために、カリスマ美容師になる事だろうか……


「うん、俺さ。

今の店で働いたおかげで、はっきり確信出来たんだ。

多くの人に認められたり感謝されるのも、嬉しいしやり甲斐を感じるけど。

俺は俺のやり方で、一人一人の髪を大切にして。

心から幸せに感じてもらえるような、癒しの美容を提供したいなって。

それに憧子さんの言葉があったから……

誰かのためじゃなく、自分が本当に目指したい道が決まったんだ。

いつか、そんな自分の店を持ちたいなって」


ー「響も誰かのためじゃなく、ちゃんと自分の幸せを掴んでね」ー

思い当たった私の言葉は、そんな形で役に立ってて……


「響らしくて、すごく素敵な夢だと思う。

私まで、そのお店に通いたいくらい」


「ありがとうっ。

それでさ?

その店の照明を、憧子さんにお願いしたいんだ。

俺の夢を、憧子さんの光で一緒に支えてほしい」


 なぜだか心が震えて……

涙が滲んだ。

自分の創った光が、愛する人の夢を支える。

それは、なんて素敵な事だろう。


 そう、私にも出来る事がある。

心を照らし続けてくれた響を、今度は私が照らしたい。


「……んっ、喜んで」


 そして響の幸せそうな「ありがとう」をスイッチに、脳内が点灯する。


 昼間は自然光を活かした、柔らかな照明。

陽が落ちてきたら、それを払拭するような暖かな照明。

なにより、響が施術しやすい照明。

そして心地よい光の粒やその波動で、お客さんが癒される空間を創りたい。


 それは、とても難しそうだけど……

そんな想像に楽しくなった。


 照明は建築に寄り添う光だと、よく聞いてた。

そして私は、一真の設計に照明で寄り添う夢を見てたけど……

そうきっと、夢も変化するのだ。

響の夢に、その未来に寄り添いたい。


 だけど少し、新たな夢に不安がよぎる。

一度そんな夢を失った私は、また失うのが怖いのだ。




「なぁ憧子。

俺もっともっと勉強して、世界一幸せなマイホームを設計するからさっ。

憧子はそれに、世界一幸せな照明をよろしくなっ?」


「それ、スケール大きすぎなんだけどっ」


「あれ、そんな弱気っ?

夢も目標も、志が大事なんだって!」


「まぁ、確かに……

うん、いつかそんな家に住みたいねっ」


「住みたいじゃなくて、住もうなっ?」




「起こすよ?憧子さん。

……憧子さん?」

そう覗き込まれて、ハッとする。


「あっ、ごめん……」

平静を装いながらも、胸の痛みを引き摺ってると。


 叶えられなくなった夢を知ってるその人は、私の気持ちを察してくれたのだろう。

起こした身体が、横からふわりとその体温に守られて……

気持ちがぶわっと溢れ出す。


「お願いっ、響はいなくならないでっ……」


「っ、いなくならないよっ?

何があっても、憧子さんを守り抜く。

だって俺、諦め悪いからさっ」

その言葉で……


ー「俺はまだ、彼氏のつもりなんだけど」

「諦め悪くて、ごめん」ー

いつだって引き下がらなかった響が浮かんだ。


 なんだかそんな不確かな約束でも、心の小指が繋がれた気がして……

その人にぎゅっとしがみ付くと。

さらにぎゅうっと抱き包まれて、濡れ髪がゆるりと撫でられる。


 あったかい。

あったかい。

あったかい……

そう、私たちは生きている。

きっとゆるやかに、私の愛はあたためられて……

変化していくのだろう。





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