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「響には幸せになってほしかったのにっ……
どうして報われない愛を選ぶのっ?」
「どうしてって……
愛って報われなくても、どうしょうもなく募るもんじゃないっ?
それは、憧子さんが一番よくわかってるはずだけど」
そう言われて、ハッとする。
確かにそうだ。
響に対してもそうだったし。
そうやって私は、一真に永遠の片想いをして来て……
それは周りがどんなに前を向かせようとしても、苦しいだけで変わらなかった。
「ん……
私はきっと、一生一真を愛してる」
「……うん、それでも。
俺は一生憧子さんを愛してる」
その途端、想いが弾けて。
気持ちがもう抑えられないーー
「ごめんっ……」
「っっ……
ダメって、事?」
「そうじゃないっ。
響を、1番に愛せなくてっ、ごめんねっ……」
愛は変化すると。
私の幸せを願ってると……
そんな言葉をくれたお義母さんの気持ちを、無駄にしてるわけじゃない。
ただ、それにはきっと時間が必要で……
「そんなのいいよっ、俺の事は全然っ」
そう答えたところで固まって。
「えっ」と混乱を示す響。
1番に愛せなくては、1番じゃなくても愛してるのを意味してて……
「……私も、響の事を愛してるっ」
瞬間、その人の時間が停止する。
それから混乱を増して。
ほんとにっ?と、かなりの動揺を見せたあと。
じわじわと実感の様子をあらわして……
「ヤバい俺……
どーしよう、嬉しすぎてっ……
ごめん、一生片思いだと思ってたから……
ヤバい、どうにかなりそうなくらい嬉しいっ……」
そう涙を滲ませた。
無償に愛しさが込み上げて、その人をぎゅっと抱きしめると。
すぐに力強く抱き返された。
「愛してるよ、憧子さんっ……
ずっと俺が守るから、ずっと一緒にいようっ?」
「んっ……
ずっと響と、一緒にいたいっ。
だけど、私といて苦しくないのっ?」
「憧子さんといられない事の方が、数倍苦しいっ。
それに、どれだけ苦しくても。
憧子さんの苦しみを、一緒に背負えてるような気がして……
それならいいって思うんだ」
「っっ、響っ……
愛してる。
ごめんねっ、だけど愛してるっ」
「っ、謝らなくていいよっ。
それに、俺にもちゃんと1番があるから……
憧子さんの、1番傍にいる事が出来る。
あなたを1番守る事が出来る。
こうやって、抱きしめる事が出来る」
その腕が、ぐっとぐうっと私を取り込む。
「だから俺、幸せだよ?
憧子さんの心がどれだけ彼にあっても、傍にいるのは俺だから。
抱き締めてるのは、俺だからっ……」
その手が、愛しくてたまらなそうにこの髪を撫でる。
感極まった私は、狂おしいほどの愛しさにのまれながら……
その胸で、ただただ涙に溺れ続けた。
それから2週間ほど過ぎた、ある日の夕食。
酢豚を口にしながら、響に食べさせてあげたい気持ちになって……
箸を止めて、壁時計を見つめた。
だけど7・8月は繁忙期らしく、そこにオープンしたての忙しさも合わさって。
今日も遅くまで働くのだろう。
復職が決まった私も、休みの日はさっそくアシスタントを手伝ったり、その勉強に明けくれてて……
あれから1度しか会えてない。
それでも会えるだけ幸せなんだろうけど……
そんな私を見かねてか、母さんの思わぬひと言。
「響くんと、また一緒に暮らしたい?」
そう、響はその1度だけ会えた日、ここへ挨拶に来てくれたのだ。
その人は自己紹介と交際の報告をすると、何の前触れもなく。
「今までご挨拶もせずに、憧子さんをお預かりしたままで……
多大なご心配をお掛けして、本当にすみませんでした」と、親に深々頭を下げた。
当然私は驚いて、響は何も悪くないとフォローを入れるも。
そんな必要はなく。
その誠実な態度と、私をここまで立ち直らせてくれたという状況に、親は感謝で受け入れてくれた。
後になって母さんからは……
「ほんとは秀人くんと付き合って欲しかったんだけどねぇ」と、勝手な妄想をぶつけられたけど。
響の事も気に入ってくれてはいるようで……
なにより、私の幸せが1番だと。
それで今も、一緒に暮らしたいのかと気遣ってくれたのだろう。
「うん、でも大丈夫。
今は会えるだけで十分だから……」
もう心配をかけたくないし、これからは今までの分まで親孝行しなきゃ。
なのに母さんは、なぜか大きく溜息をついた。
「……なに?」
「あなたの大丈夫は、大抵大丈夫じゃない時だから……
ダメね母さん、それで余計焦ってしまってたのね。
こうなったら、また響くんの所で住み込みケアしてもらうしかないわね」
「っ、母さん……」
そして父さんも、うんうんと頷いて……
じわりと目頭が熱くなる。
「っ、いいのっ?」
「行ってらっしゃい。
響くんなら安心してあなたを任せられるし。
きっと取り戻してくれると思うから」
「何を?」
そう訊くと、ふふっと笑顔だけ返される。
すごく気にはなったけど、それより今は……
「父さん、母さん、ありがとうっ」
次の日。
さっそく響の家を訪れて、再び渡されてた合鍵で中に入ると。
部屋で生首に出迎えられて、今さらビクッと驚いてしまう。
ふいに、初めてここに来た日から、過ごした日々が甦って……
胸が暖かいもので締め付けられる。
そして……
「おかえりなさいっ」
遅い帰宅をした響を出迎えると。
「っ、憧子さん来てたんだっ?
ごめんっ遅くなって……
連絡くれればよかったのにっ」
その人は驚いて一瞬立ち尽くしたあと、嬉しそうにそう戸惑う。
「ううん、驚かせたくて。
それで、ね?
今度は安心して送り出してもらえたんだけど……
また一緒に暮らしちゃ、ダメ?」
響の口ぶりを真似てそう訊くと。
途端、きつくきつく抱き締められる。
「全然いいよっ、いいに決まってる。
ヤバい、嬉しすぎる……
おかえり、憧子さんっ」
おかえり…
もうここは、私の帰る場所なのだろう。
「うんっ……
ただいま、響」
こうして。
身代わりの恋人から本当の恋人に、身変わりした私たちの……
新たな生活が始まった。




