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それから私は、成美の家を訪れた。
「憧子っ!
どしたのっ?急に」
「ごめん、忙しかった?」
「んーん、全然!
とにかくっ、上がって上がって~」
そう出迎えられて、ほっと胸を撫で下ろす。
成美にさっきの事を真っ先に報告したかった。
その人は一真と出会う前から、ずっと照明の話を聞いてくれてたし、いつも応援してくれてたから。
だけど本当は響にも伝えたかったから……
新店舗の近くにある成美の家に、在宅を確かめもせず足が向いてしまったのかもしれない。
「……あの、ねっ?
報告したい事があって……」
「報告っ?
なになにっ?」
「うん……
今の仕事、次の更新が来たら辞めようと思って。
それでね?
照明デザイナー、もう一回目指そうかと思ってるの」
まずはここに来るまでに出た結論から告げると、なぜか目の前の人は固まった。
「……成美?」
今さらそんな事どうでもよくて、返答に困ってるのだろうか。
そう思った矢先。
その人はなんの前触れもなく、顔を歪めて嗚咽を零した。
「えっ、どーしたのっ?」
「ごめんっ、嬉しくて。
もう我慢出来なくてっ……
よかった……
よかったよぉっ」
そう泣き出す成美。
もう私の事なんかどうでもいいのだろうと思ってたから、そんなに喜んでくれるとは思わなくて……
嬉しさで胸が締め付けられる。
「やっぱり憧子にはその世界が似合ってる。
あんなに頑張ってたんだもんっ。
絶対、戻ってくるって信じてたっ」
「っっ、ありがとう……
ありがとう成美っ」
「ありがとうなんてっ……
あたしバカだからさぁっ。
いつもごめんっ。
気の利いた事、何も言ってあげれなくて……
憧子が周りの心配をプレッシャーに感じてたからさぁっ、私は普段通りでいようって思ってたんだけどっ。
でもそれじゃダメな時もあって。
そのさじ加減がわかんなくって。
いつも憧子を怒らせちゃたよねっ?」
ぶわっと、成美の思いに涙が溢れた。
そうだったんだ……
思い返せば、私が辛くて顔を歪めた時に……
ー「あっ、照明デザイナーのアカもあったよ!」
「それよりさっ、聞いてくれるぅ!?」ー
きっと彼女は気にもしてないんじゃなくて、辛さを切り替えようとしてくれたんだ。
ー「成美って、私の事どう思ってるように見えた?」
「大事に思ってるように見えたけど……
ただ、ある意味不器用なのかなって」ー
改めて、響の言う通りだと思った。
彼女は無神経なんかじゃなく、ただ不器用だったのだ。
「ううんっ、私こそごめんねっ?
成美の思いに気付きもしないで……
ほんとにごめんっ」
「憧子は悪くないよっ。
あたしが怒らせるような事しか言えなかっただけでっ……
なのにそれでもっ、いつも来てくれて嬉しかった」
それから私たちは、子供みたいに泣きじゃくって……
今までの溝を埋めるように語り合った。
母さんの時同様、こんなふうに取り戻せる日が来たのは……
響のおかげで変われたからで。
きっとそこから、見える世界も変わるのだ。
◇
再び照明デザイナーを目指し始めた私は……
後日、響の美容室で会った前職の先輩に連絡を取った。
あの時の失礼を謝ると、響が言った通りちゃんとわかってくれてて。
さらに、しっかりフォローもされてたようで……
逆に先輩から、デリカシーがなかったと謝られてしまった。
そのおかげもあって。
お願いした復職のサポートを、喜んで引き受けてもらえただけじゃなく。
決まり次第、アシスタント的な事を手伝わせてもらう事になった。
ー「うちのお得意だから、今度来た時フォローしとくし。
あの人なら、わかってくれてると思う」ー
ありがとう、響。
その人が言ってくれた事、してくれた事は……
別れてからも私を助けて、守り続けて。
愛はそう、後から後から募るばかり。
そんな響や先輩の厚意、そしてこの事を喜んでくれた成美たちに報いるためにも。
今までのブランクを埋めるべく、空いた時間は照明の勉強に明け暮れた。
そうしてれば、この狂おしいほどの切なさも……
少しは紛らわせてた。
そんな、6月も終わろうとしていたある日。
仕事を終えて車に乗り込むと、ふいに携帯が鳴り出した。
バッグから取り出して、画面を見た瞬間。
心臓が破裂したかと思った。
表示された名前は、吉永響。
動揺しながらも、どうしようもない嬉しさが込み上げる。
早く出なきゃ、切れちゃう……
必死にゴクンと、感情を飲み込んで。
緊張を押し退けるように、応答ボタンをタップした。
「っ、どうしたのっ?」
「っ、久しぶりっ。
もう仕事終わった?」
「うん、今から帰るとこ」
「よかった、今日仕事が休みでさっ。
今、工場の前のコンビニにいるんだけど……
ちょっと会える?」
うそ、会えるのっ?
「うん、すぐ行くっ」
そう返事をしたものの。
鏡を取り出して、すぐに髪や化粧をチェックし始めて……
ハッとする。
この顔に何したって意味がない。
私より若くて、愛されてる同じ顔には敵わないのだから……
弾んでた気持ちは、一気に切なく沈められる。
だけどそれでも、響に会いたい。




