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JUN-AI ~身がわりラヴァーズ~  作者: よつば猫
純愛
36/48

 だけどやっぱり、中途覚醒は続いた。

とはいえ、この前の月命日を境にずいぶんと治まってはいて……



 そんなある日。

その日は響が休みだっだから、急いで帰ると。

マンションのエレベーターが、ちょうど使われた所で……

中途覚醒の改善に、運動がてら階段を利用する事にした。


 でも普段の運動不足がたたって……

目的のフロアに着くなりバテて、うずくまると。

見えない通路の先から、扉の開く音がした。


「っ、千景っ……!」


「……久しぶり。

って、この前会ったけど……」


 瞬間、活発になってた心臓が止まりそうになる。

それは紛れもなく響の声で、相手は呼ばれた通りちひろさんに違いなくて……


 どうしてここに!?

その疑問を、すぐさま響が投げかける。


「なんで、ここにっ?」


「突然ごめんねっ?

お店の方に行ったら、今日は休みって言われて。

それで、おばさんに住所聞いて……」


 得体の知れない不安で、胸がざわざわ痛み始めると。


「ごめんなさいっ!」

いきなり謝るちひろさん。


「っ、なんで千景がっ?

っっ、俺こそごめんっ……

謝ってすむ事じゃないけど、ほんとにごめん!」


「ううん、もういいのっ。

大した事じゃなかったのに、私が混乱しちゃったせいでっ……」


「千景は悪くないっ。

混乱して当然だしっ、全部俺がっ……」


 そうやって、お互い自分を責め合って……

その流れで、ちひろさんから事の真相が明かされた。


 彼女が彼氏である響の親友に、この事を打ち明けたのは……

混乱の最中、何があったのかと尋問されたからで。

だけど彼氏の激昂で我に返り、誰にも言わないで欲しいと固く口止めしていたらしい。


 でも嫉妬からその約束は破られて……

その彼の暴走により、響を孤独に追いやってしまったと。

そして自分を想う彼の手前、どうする事も出来なかったと。

その人は泣きながら謝っていた。


「っ、俺はいいよっ。

それだけの事をしたと思ってるし……

千景は何ひとつ悪くないっ」


 そう告げた響は、泣いてるその人を抱きしめているのだろうか……

身代わりの私に、いつもそうしてくれてるように。


 どうしよう……

これ以上聞いていられないほど、胸が痛い。

けど2人がどうなるのか気が気じゃなくて、この場から動けない。


 当前響は、私以上に動揺しているのだろう。

部屋に上げるわけでも、場所を変えるわけでもなく、その場で話は続けられ……


「私、ね?

響の事は、兄妹みたいに思ってたから……

告白された時は、ものすごく驚いたし。

響を信頼してたから、その後の行動にはショックを受けた」


「っっ、ごめんっ……」


「違うのっ、聞いて?

だけどそれで、初めて男として意識して。

だから混乱して……

今思えば、響との絶対的な関係が壊れるのが怖かったんだと思う」


 絶対的な関係……

そんな関係に、泣きそうな気持ちになったけど。

もし泣き声が漏れてしまったら、ここにいるのがバレてしまう。


「でも事を大きくしてしまって……

響に申し訳なくてっ……

それからは響の事ばっかり考えるようになって、自分の気持ちがわかんなくなった。

だけど響がいなくなって、やっと気づいたの」


 いや、言わないで……


「私にとって、1番大事な存在だって」


 ぼろっと、涙が不可効力に零れ落ちた。


 響は今、どんな顔をしているだろう。

どれほど胸を高鳴らせてるだろう。

それはきっと、響が欲しくてたまらなかった言葉で……

そして、この関係の終わりを意味する言葉で。


 ダメっ!

泣いちゃダメっっ……

必死に息ごと閉じ込めた。


「っ、彼とはねっ?

それからすぐに、別れたの」


「っ、えっ!?」


「響のせいじゃないっ。

私が心変わりしただけ……

あんな事がなくてもきっと、響がいなくなった時点でそうなってた。

でも彼はもちろん、巻き込んじゃった両方の親とか、なにより響に申し訳なくてっ……

今さらどうする事も出来なかった。

だけど、この前会ったら気持ちが溢れちゃって……

それに、響は帰って来たいんじゃないかと思って……

それでねっ?

この1か月、親同士のわだかまりを解いて仲直りさせてたのっ。

けど驚かせたくて、秘密にしてもらってたの」


 もちろん響は、驚きの声を漏らして。

私は、到底敵わない本命の純愛に……

この身代わりを、用済み宣告された気がした。


「それとねっ?

彼の事も大丈夫だから。

今じゃいい友達で……

聞いたよっ?当時の事」


 そう語られた話によると……

どうやらその彼は、響からちひろさんへの想いを聞かされてる内に。

いつしかその気持ちと同化して、響を裏切る形で付き合い始めたようだ。


「元々は俺が先に裏切ったから、おあいこだよなって……

だから響は、もう何も気にしなくていい。

いつでも帰って来ていいからねっ?」


「っっ、ありがとう……

ごめん、ありがとうっ……」


 その声は泣いていて、孤独と罪悪感の深さを物語っていた。


「ううん、遅くなってごめんねっ?

長い間、苦しめててごめんねっ……

会いたかった」


 それは、永遠の片想いが実った瞬間で。

決して実る事のない、私のそれを前に……

ぶわっと、やるせない涙が溢れた。


 堪えきれず、静かに階段を下り始めると。

ちゃんと想いを告げる声が聞こえた。


「今でもずっと、響が好き」


 その声は少し籠っていて……

2人は抱き合っているのだろうか。

そこに聞きたくも聞くまでもない響の答えが、容赦なく私を追いかける。


「っっ、俺も……

ずっと千景に会いたかった」


 わかっていても、それはこの胸を大きく切り裂いて……


「……だけどごめん!

もう、付き合ってる人がいるんだ……」

その辛そうな声に、胸がさらに抉られる。


 私のせいでっ……

必死に嗚咽を飲み込んで、階下に急いだ。


 そうだ、響はそういう人だった。


ー〈俺は永遠に身代わりで構わない〉ー

人に無償の純愛を与えられる人だから。


 そして、優しくて私の事を心から心配してくれてるから……

ー「ずっと俺が、憧子さんの安定剤でいるからっ」ー

その約束に縛られてるんだ!



 駐車場の車に戻るなり。

声をあげて、一気に涙を解放させた。


 響が好き、愛してるっ……

響を、響との時間を、失いたくないっ。


 だけど私は、ちひろさんのように……

居場所を取り戻して、響を孤独や罪悪感から救ってあげる事も出来なければ。

ただ響を、一番に愛してあげる事すら出来ない。

迷惑や心配をかけることしか出来ないっ。


 なにより、ちひろさんは……

響がずっと愛して、手に入れたくてたまらなかった人で。


ー「会いたいんだっ!

千景が好きなんだよっ。

ずっと!」

「愛してる!

愛してるよっ……

ごめん、愛してる……」ー

そんな切ない叫びが、頭の中に響き渡る。


 なのに私との約束のせいで、身動き出来なくなってるのなら。

私が響に与えられる愛は、してあげれる事は……

響を安心させて、この身代わり関係を終わらせる事。


ー「じゃあ、誓いのキス。

憧子さんを、生涯守るよ」ー

この前の甘い冗談に、胸が切なく潰される。


 でも、それでも!

両思いなのに結ばれない悲しさは、何よりもわかってるから……





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