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それでもアカウントを開くと。
ヘッダー画像に、あの夕陽海岸が映し出されて……
その切ない愛の色に想いを重ねながら、1番上の最新ツイートに目を向けると。
飛び込んで来た漢字四文字に、ドキリと心臓が跳ね上がる。
〈彼女が泣いている
中途覚醒は少しおさまったみたいだけど
やっぱりお弁当もストレスだったのかな
だとしたらもう無理はさせられないけど
俺、何としてでも眠れない日々から連れ出すから
その時はまた食べたいな〉
それは、私に対してのツイートに違いなくて。
同じくその前も、その前のツイートも……
胸がどうしようもなく締め付けられて。
突き動かされるように、1番最初のツイートまで遡った。
アカウントが作成された当初は、好きな音楽や美容師ネタがリツイートされていて……
すぐにそれが、私へのツイートのみに変化する。
〈彼女がドアの向こうで泣いている
声をひそめて泣いている
俺はどうしたらいいんだろう〉
〈また彼女が泣いている
一体どんな悲しみを抱えてているんだろう?
何とかしてあげたい〉
〈まだ彼女は泣いている
慰めを拒んで、ひとり泣いてる
俺は何も出来ないのかな〉
涙が、込み上げてくる……
ツイートされた日付けから見ても、響は最初から中途覚醒に気づいてたんだ。
だけど私がひとりにしてと拒んだから、そっと見守ってくれてたんだ。
そして……
〈彼女が泣いている
昨日は俺まで追い詰めてごめん
あの夕陽の海が、あなたの心も癒せないかな〉
〈今日も彼女が泣いている
大きすぎる悲しみも、叫ぶ事で少しは発散出来ないかな〉
やっぱり私のためにっ……
辛いはずの地元を訪れてまで、そうしてくれたんだ。
他にも……
〈彼女が泣いている
こんな俺でも救いになれてるのなら
俺があなたを支えたい〉
〈彼女が泣いている
今はそうでも、いつか俺が
あの笑顔を取り戻してあげたい〉
〈彼女が泣いている
だけど、俺があなたを守るから
今日色んな感情が込み上げて、勝手にそう決めたけど
俺に守らせてほしい〉
そんな、たくさんのツイートが列をなし……
胸が、壊れそうなほど詰まってく。
〈彼女が泣きながら眠ってる
あなたは悪くない
そっと髪を撫でたら、彼の名前を口にして微笑んだ気がした
いいよ、彼だと思っても
あなたが微笑むのなら
その心が癒されるなら
代わりに俺が、いくらでも痛みを受け取るよ〉
〈彼女が泣いている
中途覚醒は手強そうだけど
あなたが必要としてくれるなら、なんだってする
一緒にゆっくり上がってこう〉
〈彼女がいつもより緩やかに泣いている
嬉しい事はあの人の事かもしれないけど
その涙が少しでも癒えたのなら、それでいい〉
〈彼女がたぶん泣いていた
お弁当を作ってくれてるみたいだけど、まだ4時半で
繁忙期とはいえ起きれなくてごめん
ひとりで泣かせてしまってごめん
あ、いい匂い
なんか最初の頃の、たどたどしい手つきで頑張ってた姿を思い出す
いつもありがとう〉
その瞬間、感極まって嗚咽が零れた。
それでも、画面をなぞる指は止めれなくて……
〈彼女が泣いている
中途覚醒が増えてるけど、もしかして離脱症状なのかな
でもここでペースを緩めたら、気持ちに水を差してしまうかもしれないし
ごめん、もっと勉強する〉
〈彼女が酷く泣いている
ごめん
なにも出来なくてごめん
だけど生きてて欲しい
一緒に生きたい〉
刹那、その文末に激しく心を掴まれる。
だけど、私を戦友みたいと言っていたのを思い出して……
その意味で捉えた。
そうやって心強く、私を支える言葉が続いて……
〈彼女が泣いている
ほんとにごめん
けどあなたは身代わりになんかならなくていい
その分俺が、彼の身代わりも薬の身代わりも
一人何役だってこなすから〉
〈彼女がずっと泣いている
中途覚醒がまた酷くなってるけど
ひとりじゃないよ
あなたをひとりじゃ泣かせない
一緒に乗り切ろう〉
読み進めるほど、視界は涙で遮られ……
胸が疼いて堪らない。
眠れない夜を、ずっとひとりで泣いて来て……
今もそうだと思ってた。
だけど響は、ずっと寄り添ってくれていた。
そうきっと、眠そうにしてたのも目の下のクマも……
異動準備で大変だからじゃなく、私のためで。
それを気遣わせる事なく、そっと。
さらにツイートを追っていると……
心が、この上なく打ちつけられる。
〈彼女が泣いている
その涙も、全部預けてもらえる居場所になりたい
たとえあなたの心が誰かのものでも
その心を少しでも照らせるのなら
俺は永遠に身代わりで構わない〉
胸が、苦しいっ……
愛しくて、愛しくて……
苦しいほど、愛しくてたまらない。
その人は、私を身代わりとして扱うどころか。
こんなにも私自身を見守って、心配して、大事に思ってくれていて……
むしろ、1人で身代わりの役目を背負ってた。
それはもう、一種の愛だと思った。
仁愛という、人間の根本的な愛。
思いやり慈しむ、無償の純愛。
その心が誰かのものでも……
私にも向けられた、優しい愛。
少しどころか、大きくて深い愛。
欲しかった、響の愛。
そして私も……
響を愛してる。
そんな想いに埋め尽くされて、ただただ涙を溢れさせた。
響……
ねぇ響、ありがとうっ。
きっと、これからは……
泣いてる夜も、ひとりじゃないって思えるよ。




