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JUN-AI ~身がわりラヴァーズ~  作者: よつば猫
純愛
31/48

 自覚してしまったら、意識したら……

気持ちが一気に加速する。


 早く響に会いたい。

その声が聞きたい。


 仕事帰り、思わず携帯を手にしたものの。

その人はまだ仕事中だという事だけじゃなく。

この気持ちを悟られる訳にはいかないと、ハッとする。


 響にしんどい思いをさせるわけにはいかないし。

バレたらきっと、この関係が成り立たなくなって……

傍にいられなくなる。


 なのにそれをバッグに戻そうとした矢先、着信音が鳴り響く。

画面に表示された相手は、まさかの声を聞きたかったその人で。

途端、心臓が大きく跳ねる。


「どうしたのっ?」


「ごめんっ、今ちょっと手が空いて……

憧子さんもう仕事終わったかなって、なんとなく」


 どうしよう……

特に用もなくされたその電話と、思いが伝わったような状況に、嬉しくてたまらなくなる。


「んっ、今から帰るとこ。

あ、買い物して帰るけど、今日はなに食べたい?」


「え、マジでっ?

じゃあ……

さっきお客さんと話して食べたくなった酢豚っ!」


 酢豚!?

よりにもよって、そんな難しそうで手のかかりそうなものを……


「わかった。

けどあんまり期待しないで?」

先に断っておくと。


 ふはっと柔らかな笑声のあと、気遣われる。


「ほんとは何でもいいよっ?

俺、憧子さんの料理なら何でも嬉しいっ」


 その時。

「響ぉ~?

ごめ~ん、ちょっと手伝ってぇ?」

電話の向こうから、女性スタッフらしき人の声がした。


 ちひろさんならともかく、その甘ったるい呼び捨ては不快に感じて……


「ごめん、ちょっと待って」と、2人が会話をしている間。

ふと、響は私が秀人から呼び捨てされてても何も思わないのだろうか?

なんてよぎったけど……

一真と違って両思いじゃないんだし、気にもしないかと思い流す。


「ごめん憧子さんっ、もう戻るよ」


「あ、ねぇっ」

電話を終えようとした響を、とっさに引き止めて。


「……仕事、頑張ってね。

酢豚作って待ってる」

そう伝えると。


 なぜか沈黙。

変な事を言っただろうかと、内心焦ると。


「ヤバい、嬉しいっ。

憧子さんにそんな事言われたら、めちゃくちゃ頑張れる」

そう返されて、私の方が嬉しくなる。




 そしてその夜。

頑張った酢豚は、まあまあだったけど……

響はものすごく喜んで、幸せそうに食べてくれたから。

さらに嬉しさで、胸がいっぱいになった。



 とはいえ。


 ごめんね、一真……

だけど忘れてなんかない。

忘れるなんてありえない。

一真を誰よりも愛してる。

首元のネックレスをぎゅっとした。


 この前の月命日でもそうだったけど。

最近の中途覚醒の時間は、そんな思いで埋め尽くされる。


 でも、それでも、響が好きなの。


 自覚してから、中途覚醒はますます酷くなっていた。

もしかして、一時期は治まってたそれが徐々に酷くなったのは……

私が少しずつ響に惹かれてたからで。

中途覚醒の時間は一真と過ごす時間だから……

彼がそれを増やして、忘れないでと訴えてるんじゃないかと思った。

だから、記憶も覚醒したんじゃ?とも。


〈ごめんね

だけど誰よりも愛してる〉

彼に届くようにと、涙ながらに文字を呟く。


 だけど淋しくて……

寂しくて……

ねぇ響、寂しいよっ。

傍に一緒にいてほしい……


 そこで、そうかと気付く。

漠然とした寂しさが募ってたのは、響への想いが募ってたからで。

響がすでに、私の安定剤だったからで。

いつしかそれに依存してしまってた私は……

もうひとりで泣くのが、こんなにも寂しい。


 そして、響の心が決して手に入らないのも寂しい。

しかも最近はどこかよそよそしいし、キスガム以外のキスもない。


 本命に会った後だから、顔が似てる私じゃ辛さが煽られるのだろうか?

響なら甘ったるい声で言い寄られる事なんて日常茶飯事だろうし、代わりに他の人と……

そんなの嫌っ。


 そう思って、つい探りを入れてしまう。



「ねぇ、身代わりって……

1人で足りる?」


「えっ……

足りないの?憧子さん」


「私じゃなくてっ……

もうっ、響に聞いてるのに」


「俺っ?

え、そんな女好きに見える?」


「見えない、けど……

でも響も、浮気はダメだからね?」


 途端その人は「えっ」と目を丸くして。


「しないよ、浮気なんか……」

動揺した様子で口に手を当てた。


 その反応は、してると言ってるようなもので……


「じゃあなんで、狼狽えてるの?」

胸が痛みで騒ぎ始める。


「や……

ごめん、嬉しくてっ」


「……は?」


「ヤバい、どーしようっ」

勝手に1人で盛り上がる。


 なんなの、意味がわからない……

きょとんとして見つめると。


「そんなクリクリした目で見ないでよっ。

可愛すぎるっ」


「っ、はっ?」

こっちはそんな褒め言葉で誤魔化されたくない。

なのに嬉しくて、戸惑ってしまう……


「やっ、ごめん。

ちょっとでも、そんな居場所になれてるんだなって……

とにかく、浮気なんかするわけないから。

俺は、憧子さんだけだよ」

まっすぐにそう見つめられて……


 胸がぎゅっと掴まれると。

響の唇が、私のそれに温もりを移した。


 あ、久しぶりの甘いキス……


なのに、すぐそれをやめる響。

「ごめんっ、それどころじゃない時に……」


 それどころじゃない時?

そんな時を頭に巡らせ……

確かに最近は、塞ぎ込んでてそれどころじゃなかったけどと。

思い当たったところでハッとした。


 そういえばよそよそしくなったのは、記憶が覚醒してからな気がする。

だとしたら響はそんな私の心情に寄り添って、そういった行為を控えてくれてたんじゃ?


ー「あのさっ、手ぇ繋いでていいっ?」ー

そうきっと、そんな事すら躊躇うくらい。



「お願い、やめないで」

無性に愛しさが込み上げて、そう見つめると。


 その人は驚いたあと、たまらなそうな瞳を向けて……


「もうやめれない」


 甘く蕩けるキスが、何度も何度も繰り返される。



 てもそれは、片思いのキスで……

胸は切なく締め付けられていた。





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