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3月。
繁忙月の響は、第3日曜の今日も遅くまで働いてて。
秀人も、響の存在を知ってから誘って来なくなっていて。
最近は休日をぼうっと過ごす事が少なくなった私は、今日も響の代わりに掃除に励んでた。
「いつもありがとう、すごく助かる。
でも、無理はしなくていいからっ」
帰って来た響に労われる。
「ううん、平気。
それに、何かした方がよく眠れるし」
淋しさも紛れる。
だけど、一真に対しての淋しさは変わらないはずなのに……
新たに感じてる、この淋しさはなんだろう?
ふと、淋しさで逆ナンしていた頃を思い出して……
なんて事をしてたんだろうと、おかしくなってた自分に今さら驚く。
きっとその頃は、それほど追い詰められていたんだろう……
それに気付いたという変化も、響のおかげに他ならなくて。
そんな響や、変化を私自身の力だと言ってくれた事に報いるためにも。
本当に自分で変化を起こしたいと思った。
今までは、例え相手が専門家だろうと。
誰かのアドバイスでどうにかなるような問題じゃないと、決め付けてたし。
それを試して効果がなかった時、もっと絶望に追い込まれそうで怖かった。
でもこれまでの変化を前にして、何か効果があるんじゃないかと思った私は……
相変わらず治まらない中途覚醒の、改善に向けて。
翌日から、その方法を調べ始めた。
その結果、原因としては……
ストレスや運動不足が、特に当てはまり。
身体をあまり動かさず、ぼうっと過ごしてた休日や、ストレスが強い時に中途覚醒が多かった事に納得した。
そして改善方法を調べていくうちに、睡眠ホルモンのメラトニンを増やす事にたどり着く。
掛かり付けの心療内科医から耳にして、聞き覚えのある名前だったけど。
その生成には、幸せホルモンとも呼ばれるセロトニンが欠かせないらしい。
すると、サイトによって多少の違いはあるものの。
セロトニンの生成に適した食材として、バナナが出て来て驚いた。
バナナは、それに必要な栄養素を全て含み。
朝陽をしっかり浴びる事がこのメカニズムに重要なため、朝食でバナナや乳製品を摂るのが効果的と記されていて……
偶然だろうか?
でもそれをしてくれてる響は、私が眠れないのを知っていて……
確かそう、眠剤を見られた後にそれは始まった。
もしかして私のために?
これを調べて、わざわざ早く起きて、簡単とはいえ苦手な料理を?
それも毎日、どんなに疲れてても欠かす事なく。
それだけじゃなく、セロトニンを増やすには……
笑う事は無理でも、話す事や思い切り泣く事も効果的らしく。
響は私にそれをさせてくれてる。
他にも、シャンプーや頭皮マッサージなんかも効果的との事で……
頭皮には睡眠に効果的なツボがたくさんあって、長年の不眠症が改善された例も多いらしく、私もいつもそれで眠気を誘われてた。
なにより驚いたのは……
セロトニンが活性化されるという、1日5分以上のリズム運動。
特にガムを噛む事が勧められていて……
そういえばキスガムで口移されものは、味が長続きするものだったと思い返す。
そして効果が現れるには、3ヶ月ほどの継続が必要らしく。
確かに、私が眠気を感じ始めたのは最近で……
この前眠剤なしで眠れたのも、初めてのキスガムから3ヶ月を過ぎていた。
ここまで偶然が続くと、もうそうじゃなくて。
響の睡眠改善プログラムとしか言いようがない。
私の知らないところで……
誰に感謝されるわけでもなくっ……
そう思って涙が込み上げる。
きっと、このプログラムを直接勧められてたら……
プレッシャーになったり、そんなの効果ないって拒んでた。
それを想定してたからじゃないかもしれないけど。
私の力だと言ってくれた響だから、恐らくこのプログラムを明かすつもりはないのだろう。
その人はただ、寄り添うように、そうっと支えてくれていたのだ。
響……
早く響に会いたい。
その日、「ただいま」の声を聞くと。
すぐにその人に駆け寄って……
「おかえりなさいっ」
思わず抱きついた。
「え、どうしっ……
なんかあったのっ?」
あった。
だけどその人が明かさない事を、口にするわけにもいかず。
「うん……
ちょっと、嬉しい事があって」
「嬉しい事っ?……どんな事?」
「……秘密」
「え、秘密っ?
すごい気になるんだけどっ。
……でも、嬉しいなら良かった」
そう抱きしめられて、もっと嬉しくなる。
私も響に、何かしてあげたい。




