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JUN-AI ~身がわりラヴァーズ~  作者: よつば猫
観覧車
16/48

「……私、ね?

前職は、照明デザイナーの駆け出しで。

さっきの人は、よく面倒を見てくれてた先輩なの。

あんな態度しか、出来なかったけど……」


 今になって、申し訳ない気持ちが押し寄せる。

心配してくれてたみたいなのに……

だけど、まだ会いたくはなかった。


「……大丈夫だよ。

うちのお得意だから、今度来た時フォローしとくし。

あの人なら、わかってくれてると思う」


「……ん、ありがとう」


 それから話の核心に向けて、ゆっくりと続きを口にした。


「私、子供の頃からね?

光とか色の世界に惹かれてて。

大学は建築科に入って、照明の道に進んだの。

夏休みには、イベントアシスタントのバイトをして……

そこで彼と出会ったの。


彼は建築士を目指す、他の大学の1コ先輩で。

その人柄に、すぐに惹かれた。

それから友達になって、恋人に発展して。

忙しかったけど、順調に愛を育んで。

お互い目指してた仕事に就いて、交際から4年経った頃だった。


プロポーズされて、婚約中に……

彼は、仕事中の現場事故で亡くなった」


 ピクッと、響の指が一瞬止まった。



「なんで彼が、って……

今でも思う。

……当時はショックが激しくて、仕事どころじゃなかったし。

彼の命を奪ったその業界に、関わりたくもなかったし。

それに携わる、自分の仕事も嫌いになった。


彼が設計して、私が照明をデザインして。

いつかそんな家に住もうねって。

そんな、ささやかだけど幸せな夢も語ってたのにっ……

叶えられなくなった2人の夢が辛くて、その仕事が出来なくなった。

私はっ、自分が目指した道からも逃げ続けて、向き合えないでいるっ……」


 はらはらと、いつしか涙が溢れてた。


 だから先輩と会って、照明デザイナーという過去を突きつけられて。

嫌いなものに対する拒絶反応や、辛い思い。

向き合えない現状や、心に潜む葛藤に……

動揺して、居た堪れなくなったのだ。


「……っごめん。

今すごく、抱きしめたいのにっ……」

響がそう顔を歪ました。


 今は施術中だし、私の頭はカラー剤まみれだから、無理もない。

だけど、自分の事のように辛そうにしてる姿を見れば……

心に寄り添ってくれてるのがわかる。


「ううん、ありがとう……」




 そして、カラー剤の塗布が終わると。


「見て、憧子さん」


 指差された窓には、ショッピングモールに併設された観覧車が覗いてた。


「……なに?」

それがなんなのだろうと、意図を尋ねる。


「最近のお客さんで、タロット好きな人がいてさ。

観覧車の事を、運命の輪みたいだって」


「運命の、輪?」


「うん、そのカードによると。

全ては変化するし、どれも必然で意味があるって。

だから……

向き合えない時間も、必要な時間で。

それにもきっと、意味があるんだよ。

それに、辛い状況がずっと続くわけじゃない。

たとえ今は運気が下降してても、必ずいつか上がる。

あの観覧車みたいに」


「……でもそれだと、そのうちまた下がるじゃない」


「うん。

でもまた上がる。

また何度だって上がるんだよ」


 また何度だって上がる……

それは希望に満ちた言葉で。

まるで希望の象徴のようだと、その観覧車を見つめた。


「だから流れに任せて、ゆっくり上がろう?」


 抱きしめられなくても、そう夕陽の笑顔に包まれる。


 ゆっくり……

そう、ゆっくり。

心でそう呟くと。


 響がオレンジフラワーティーのおかわりと、クッキーを取りに行った間に。

今年になってからあまり開かなくなった、ツイッターを開いた。


〈無理して立ち直らない。

向き合えない時間も必要で、きっと意味がある〉

改めて念を押すように、文字にして言い聞かすと。


 ふいに、観覧車とその話に触発されて。

手元の携帯動画が無性に見たくなって、それを開いた。




「何見てるの?」

見終わる間際、戻って来た響に声かけられる。


「あ……

観覧車での動画。

……見る?」

覗き込んで来たその人に、流れで訊くと。


 頷きが返されて、もう一度それを再生した。



『観覧車でーす!』

『頂上でーすっ』

一真に続いて、久しぶりのデートにはしゃいでる私。


『はいっ、憧子の変顔~!』

携帯のカメラ片手に、いきなり私の顔をいじる一真。


『ちょっ、やめてよっ』


『大丈夫だって!

なにやったって可愛いんだからっ』


『そんなわけないでしょっ。

はいっ、一真の変顔~っ』

今度は私が横からいじる。


『はあい!俺の変顔~』


『あははっ!ヤバいってそれっ』


『じゃあ勝負なっ?

憧子の変顔~!』


『えっ……』

いきなり振られて慌てた私は、とりとめのない顔を晒してしまう。


『ぶははっ!憧子可愛いっっ』


『もぉっ、バカにしてるっ?』


『してないしてないっ、ほんとに可愛いんだって!

じゃあ一緒に~っ?

2人の変顔~!』


 顔を寄せあって、変顔して、笑い合う私たち。

動画はそこで終了。


 途中、チラと鏡越しに映した響は……

少し切なげな、驚いてるような、複雑な顔をしていて。


 動画が終わると第一声。

「っ、カズマさん、イメケンだねっ」


「でしょっ?」

一真の事を褒められて嬉しくなる。


「……どんな人だったの?」


「見たまんま。

元気で明るくて、やんちゃで人懐こくて……

それで、いきなりトリップちゃう人」


「トリップ?」


「そう。

すごい建物を見たり、急に閃いたりすると。

没頭して、私の事なんて置いてけぼり」


「へぇ……

仕事人って感じで、カッコいいね。

けど、憧子さんは寂しくなかった?」


「それは全然。

むしろ、そんな彼を見つめてるのが好きだった……」


「……いいね、そういうの。

すごく幸せそう……

その、観覧車の動画も」


「……うんすごく、幸せだった」

私は……


「ん……そんな笑顔してた」


 笑顔……

もうそれの作り方も忘れてしまったけど。

なんだか今さら、その笑顔や変顔が恥ずかしくなって。

切り替えるように話を振った。


「響は、ちひろさんの写真とか動画、ないの?」


「っ、うん……

こっちに来た時、全部消しちゃった」


「……そっか。

綺麗な人?」


「うん、すごく……

あ、カラー流そっか」

とそこで話が打ち切られて、シャンプー台への移動を促される。



 私は、そのリクライニングに身体を預けながら……

再び観覧車を見つめて、瞳を閉じた。



ー「すごく幸せそう」

「うんすごく、幸せだった」ー


 なのに私はっ……

首元のネックレスをぎゅっとした。


 一真がいないのに、今下がってる私の観覧車がこの先上がる事なんてあるのだろうか……


 その時。

「あ……

気持ちいい……」

さっきもそうだったけど、相変わらず響のシャンプーは極上に気持ちいい。


「だったら毎日するのに。

ダメ?」


「いい、けど……

じゃあ、お願いしようかな」



 そうしてこの日から、極上シャンプーと頭皮マッサージに癒やされる日々が始まった。





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