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響の前では思い切り泣ける。
ただ、中途覚醒の時はひとり泣く。
夜中まで付き合わせるわけにはいかないし、この時間は一真と過ごすから。
でも、甘えられる相手がいるのに甘えられないのは、余計寂しい気がする。
その夜は長期休暇の影響か、いつになく早い覚醒で。
明日に仕事始めを控え、このまま眠れなかったらどうしようかと不安になる。
しかもそんな長い時間寂しさに晒されるなんて……
そう思って、また眠剤を追加したくなる。
だけど、辛いねって心に寄り添ってくれた響を思い出して……
なんだか今寄り添ってくれてるような気持ちになって、それを我慢した。
そしてふとその時の、眠剤だと知っていた様子の響が浮かんで。
その理由が気になった。
「ねぇ、私の薬……
眠剤だって、知ってるんだよね?」
さっそく翌朝、訊いてみる。
「……ん。
俺のお客さんが常用してて、いつもその薬の事話してるから」
「そんな話もするの?」
「うん、なんか、誰かに打ち明けたかったみたいで」
確かに、プライベートに関係ない人の方が打ち明けやすいかもしれないけど……
でもそうやって相談されるのはきっと、響が受け止めてくれるからで。
信用されてるからで。
どんなふうに仕事してるんだろう?
お客さんの心まで掴む、その仕事熱心な姿を見たいと思った。
そんな、とある日曜。
相変わらず鳴り響く着信音に……
秀人ともちゃんと話さなきゃねと、その電話に出ると。
「ぉわ!出たっ」
「なにその、人を化け物みたいに」
「いやっ、化けモンどころかっ……
可愛いよっ!憧子はすごくっ」
私の機嫌を損ねないようにか、おだてられる。
「それはどーも」
秀人は本当に。
私を心配するあまり、変に気を回して空回って……
無理をする。
徹夜で探し回ってくれた事を頭に浮かべた。
「それよりさ……
心配かけて、ごめん」
「俺は別にっ……
おまえが無事なら、それでいーけど」
「じゃあ何でそっとしといてくれなかったの?
毎週、毎週……」
「遊びに誘うぐらいいーだろ!」
とか言って、それは私を元気付けるためだってわかってる。
だから感謝はしてるし、これ以上心配かけたくなかったから、断りながらも応じて来た。
でももう……
「……ごめん、この際はっきり言っとく。
私は当分、遊ぶ気になんかなれない。
だからもう誘わないで」
すると沈黙が返されて……
申し訳ない思いで心苦しくなる。
だけど、私はもう必要以上に頑張らない。
「……ただ。
ドライブくらいなら、たまにはいいわよ?」
そう、出来る範囲でその優しさに応えようと思った。
それにこの前のデートの影響で、ドライブなら悪くないと思えてた。
「ほんとかっ!?
じゃあ早速っ、今度の日曜はどうだっ?」
沈黙が嘘のような興奮の反応。
「速攻ね……」
でもその日は確か第3日曜日。
響が休みかもしれない、そう思ってハッとする。
別に響に合わせなくていいのに……
「いいわよ?じゃあ来週ね」
「っっしゃ!最高のドライブにしてやるっ」
「普通でいいから」
いつにも増してハイテンションな秀人に、そのドライブが思いやられる気がした。
「ねぇ、次の日曜ってセミナー?」
夕食後、なんとなく気になって尋ねると。
「の、つもりだったけど。
どうしようかなって」
「どうしよう、か?」
「うん、前に受けたのと被ってるし。
憧子さんに行きたいとこがあれば、どっか連れてくよ?」
「え……
ううん、行きたいとこがあるわけじゃないの。
ただ聞いただけ」
「そっか……
じゃあセミナー行こっかな」
と、その話は意味なく終了。
だけど、つくづく仕事熱心な響に興味をそそられる。
「響は、なんで美容師になったの?」
「……きっかけは、くだらないんだけどさっ。
例の、好きなコを振り向かせたくて」
「ちひろ、さん?」
「そう。
千景とは幼なじみでさっ。
気付けば好きになってて……
だから少しでも良く見られたくて、髪とかいじってたら興味が湧いて。
そしたらセットとか前髪切るのとか頼まれるようになって、それが嬉しくてさっ。
その道を極めたくなったし、千景に勧められたのもあって……」
そしてバツが悪そうな笑顔で、不純な動機でしょ?と締めくくる。
「ううん。好きな何かが原動力になるのは当然だし、素敵だと思う」
「っ、ありがとうっ……
まぁ今じゃ、思いっきりこの仕事を愛してるんだけどねっ」
「ん……見ててわかる」
そう言うと響は、少し驚いた顔をして、嬉しそうに笑った。
「ねぇ、どんな人なの?
ちひろさん」
響の原動力となったその人が、少し気になる。
「んん……
1コ下なんだけど、しっかりしてて。
そのくせ変なとこ天然で、可愛くて。
……俺の元親友と付き合ってて、そいつを一途に愛してるコ」
もう他の人のものなんだ……
それも自分の親友の。
「……やり、切れないね。
しかも幼馴染みだから、余計忘れられないね……」
「うん、ずっと好きだと思う。
たぶんこの先も、千景以外愛せないんじゃないかなって」
その応えに、なぜだか少し寂しい気がした。
私だって、一真に対してそうなのに。




