魔族の王で
今回は完全に魔族回となっております!!
新たなるキャラがたくさん登場します!!
「うっお美しい…この娘を牢獄に入れることなどできません…」
特殊スキル「サキュバス」の力だ。
このスキルは常時発動型であり、いつでもリーシャと目が合えば、強い意志でもない限り、恋に落ちる。
この三人は、ただの三人ではなかった。
リーシャは青い髪に、ピンク色の目、角の生えた、美しい顔。更に言うと、ゼエンの許嫁である。
もうひとり、ゼエンには側近がいた。
それがマカン。
マカンはゼエンの執事でもあり、歳は六十代ぐらいに見えるが、背筋が伸びて、白い髪には、「経験」というものを感じざるをえない。そんな三人だった。
話を戻すが、リーシャに恋に落ちた衛兵共に、上王は激高し、
「チッ、忌まわしき小娘ごときに、心を奪われるとは。貴様らに命はないと思え!!」
と叫ぶ。 その言葉が響くうちに、上王の後ろから、男がやってきた。
「上王様、それは少々酷ではありませんか。この者たちは哀れなこと脳がないのです。脳のないゴミとして生まれてしまっただけなのです」
その男の名は―――第一王子黒崎ガイナ。
ゼエンとは対立関係にあるものだ。
「第一王子!!」
リーシャが叫び、マカンが睨む。
「あら。こんなとこにもゴミがいたとは。こっちへよってこないでください。菌が移ってしまうでしょう」
長い袖で口元を覆いながらガイナは言う。
このガイナ軍団の服装は和服であり、ゼエンたちは洋風の服装である。
どこをとっても対立しているように見えるのは、ガイナたちが意図的に変えたからだ。
今の所、世論では原則から見て、第一王子であるガイナが優勢となっている。
だが、ゼエンを推すものもいる。なぜなら、
―――王族の力はゼエンに受け継がれているから。
ゼエンもガイナも、王族の血を引くが、母親は違い、由緒正しき家門の中で見ても、ゼエンの母親の方は王族との関わりが強かったからだ。
王族だけは必ず、第一王子か、第二王子が、
特殊スキル「黒艶俊美」を得る。
これは魔族の中では四字熟語となっていて、意味は「ゾーン状態に入ること」である。
しかし、ゼエンはそのスキルの半分、「黒艶」しか得ていなかった。
黒艶瞬美というスキルは、目に見えないほどの速さの斬撃を繰り出し、逆に相手からの攻撃は絶対に当たらない、というスキルである。
しかし、ゼエンは目に見えないほどの斬撃を繰り出す、という力しか受け継いでいなかったのだ。
ゼエンを推すのはそれでも構わず、強いものに従う、戦闘狂だけなのであった。
「そろそろ、行きましょう、上王様。ここは空気が汚いです」
そう言って、ガイナたちは立ち去ろうとした時、
「なによ私達をゴミ呼ばわりって!!そして無いより!!」
「黒崎様を侮辱いたしました」
怒気の混じった声で、リーシャの声をマカンが引き言う。
「あんたたちなんて、ゼエンが余裕でやっつけるわ!!」
「脳がないですね。そもそもあなた達を黙らせることだって、私達にはできるのですよ?」
「できないわ!!だってあなたはゼエンよりも弱いんだから!!」
その瞬間、ガイナの雰囲気が変わる。
明らかな激高。しかし、その怒りを抑えるように、ガイナは静かに嘲笑を浮かべ、
「そうか、そんなに言われたいのか。あのことを」
その瞬間にリーシャとマカンの顔がこわばる。
長い沈黙が訪れた後、二人は口を開いた。
「………悪かったわ」
「……本当に……申し訳ございませんでした」
絞り出した声で、言う。その目には言葉とは裏腹に激しい憤りが感じられた。
「それだけか?王子への口の聞き方がまだ悪いように見えるが」
そういった上王の顔には邪悪な笑みが宿った。
「そうだな。私の靴を舐めろ」
ガイナは気味の悪い笑みを浮かべる。
しかしその笑みは一秒もしなうちに消えた。
真横から感じる、鋭い殺気に。
こわばった顔でガイナは、ゆっくりと顔を横に向ける。
髪先が黒みがかった、赤い髪の中から、ゼエンの赤と黒の冷たい瞳がガイナを捉える。
途端にガイナの体は恐怖で動かせなくなった。
「ガイナ、やりすぎだ。これ以上、こちらの身内を罵倒すると言うなら、貴様は今すぐ、俺と戦いたいのだと、解釈させてもらうぞ」
「な…小癪な!!力で物を言おうと、世論ではこちらが勝っているのだからな!!」
ガイナは言う。上王はひたすら空を睨み、
(そうだ。せっかく、先代が死に、第一王子は王座につける歳となった。後少しで、この魔王国を手に入れられるというところで…!!まあ、いつかは権力だけじゃなく、武力でも潰せるようになる)
「ここは一旦引きましょうか。貴様らは慄えて待てばよかろう。貴様らの死を」
そう捨て台詞を残し、ガイナ軍団は去っていった。
ガイナは年下相手、なんなら、弟にビビって去ることにひたすら、屈辱感を味わっていたそうだが。
「ふぅなんとか撃退できたな。俺も、殺気出すの大変すぎるから〜」
「やっぱり!!ゼエンは別に怒ってないと思ってたよ!!」
「黒崎様……先程のことは……」
言い終わるより前にリーシャが口を挟んだ
「ちょっと、マカン!!その呼び方やめなさいよ!!ゼエンのことはゼエンでいいって言われたじゃない!!」
「しかし…」
「ゼエンでいいと言っているだろう。そう呼ばないのなら、俺がマカンのことをメーナ様と呼ぶぞ」
「うていいぉぢゅぁそそそそそふぁあっ?そ、そんなことは決して!!あってはなりません!!ならば私がゼエンと、お呼びいたします!!ああああ」
「やっぱり、お前はバカ真面目だな」
はははっとゼエンは笑う。
「ところで……あのこと って何だ??」
「あ、いえ…」
「なんでもないの!!」
必死な二人を見れば、ゼエンは察して、
「言えない…か。まあ、いいぞ。二人が話してくれる名で俺はいくらでも待つからな」
そう言って笑いかける。
リーシャとマカンは少し悲しそうに、笑って言った。
「もちろんです」
と。
次回予告
スッキリとした心で、拍真は学校へ向かう。
明日は一日中魔族の授業。うっすらと波乱の予感がするものの!?
次回《魔族》