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ばたんきゅー

「くっさぁぁぁぁ……」


「だから言ったでしょ……」


 俺が地下水路へ降りた時の初めての言葉と感想がこれだ。

 ナオからあらかじめ聞いていたけど、まさかここまで臭いとは予想外だった。

 これはさっさと地上へ出ないと嗅覚がバカになると同時に、匂いが染み付いてしまってしばらく取れなくなるかもしれないな。


「まさかこれ程とは……一刻も早く外へ出ましょう。案内をお願いします」


「そうね、こっちよ」


 そう言ってナオは自分の鞄からタオルを取り出すのを見て俺もそれに習ってマフラーの様に首に巻いて後に続く。気休めかも知れないけど無いよりはマシだろう。


「あの、私たちはどのあたりに向かっているのですか?」


 何度か曲がって随分随分歩いてからナオに質問する。

 水路の地図どころか帝都の全容すら知らない俺にとってはもう外まで出ちゃったのではないかと思うくらいには時間が経っている。

 そんな不安に気づいたのかナオは明るい声でもうすぐ終わりが近い事を教えてくれた。


「そうだね、その先の角を曲がれば初めの時と同じように地上に続く穴があるから」


 そう言って指を刺す方向に見える十字路を曲がったら、ナオの言う通りに地上に登る穴が開いており、ロープが垂れ下がっていた。その穴越しに見える丸い星々が俺に安心感を与えてくれる。短い間だったけどこの酷い匂いともおさらばだ。


「ここはまだ見つかって無いかもだけれど、追っ手が来てるかも知れないからさっさと逃げるよ」


 同感だ。ナオが顔を見られている以上安全な場所は皆無だけれど、それでもまずは自分の帰るべき場所に向かうのが妥当だろう。


「ここから食堂までは遠いのですか?」


「少し離れてるね。けど、夜警の人たちの巡回路は把握しているから見つからずに戻れるよ」


 逃げの一手に歯痒さを覚えるけど、こればかりはしょうがない。指名依頼の目的は偵察であって内部からの破壊や工作じゃない。

 情報は十分に得られたし、ここは無理せずに撤退で十分だ。


「さてこの辺りでいいかな」


 裏道を通りながら見覚えのある建物の近くまでやって来た。


「冒険者ギルドがあると言うことは、食堂までもう少しですね」


 夜も更け他とは言え、この辺りまで来るとまだ灯のついている店は何軒かはあった。

 冒険者ギルドが交代制で二十四時間開いているからか、その周辺の食堂も連動するように営業していた。ちなみに『にゃんにゃん食堂 帝都本店』は二十時で営業終了だ。

 けれど、こっそり帰るのならこんな所を通らずに裏から通って入ればいんじゃないのか?


「いやここは敢えて店長に見つかって行くとしようか」


「どう言うことですか?」


「怪しまれない為にね」


「いや、余計に怪しまれるじゃないですか」


 どう言うことよ?

 普通に考えれば、こっそり帰って何食わぬ顔で仕事に出ればバレないと思うんだけど、何か特別な事情があるのか?


「いや、実はね。どうやら私の行動を店長が怪しんでいるみたいなんだよね。あの人結構目敏いからさ、私らの僅かな変化にも結構反応するんだよ」


「それは良くも悪くもって事ですか」


「悪い所はほとんど無いかな。強いて挙げれば、あの見た目で若い男性客に迫るのは勘弁かなぁ」


「ですね」


 確かにマルニカの店長も俺の変化に素早く気付いていたな。

 よく言えば繊細な気配りだけど、度を越えればお節介が過ぎる事になる。けれどナオが言うには、「私から打ち明けるのを待っている」って感じだとか。


「で、どうするんですか?」


「自分の私服は持ってる?」


「この中に入ってます」


 そう言って腰のポーチを叩くと、ナオは頷きながら自分の鞄からも折り畳まれた私服を取り出して着替えを強要した。いや、いくら路地裏とは言えさすがに外で着替えるのには抵抗あるんだけどな。

 あ、何をする。服に手をかけるな。

 で、要するに、二人で夜中まで飲み歩いて帰って来たと言うシチュエーションを作り出したいと言う事だ。


「でもこれって、私は怒られ損じゃないですか?」


「気のせいだよ」


 無理矢理着替えさせられた俺はナオの作り出したシチュエーションを思い返すが、何度考えても怒られ損な気がする。


 けど、新たな侵入経路を教えてくれたから今回は目を瞑るとする。

 そしてナオが次に取り出したのは、透明な液体の入った小さな小瓶だった。


「お酒だよ。但し、アルコール度数が七十パーセントの強いやつだね。飲み歩いて帰るのに酔ってなきゃおかしいでしょ?」


 いやまぁそうだけど、そこまで強いの必要なくないか? リアル志向で行くのはいいけど、こだわり過ぎじゃないかな。今はそんな事どうでもいいか。


「わかりましたよ」


 俺としてもまだナオには聞いておきたいこともあるし、こんな所で波風を立てるわけにはいかない。ここは素直に聞いておく事にしよう。


「あ、それとそのお酒は……」


 ナオが何かを言う前に小瓶の栓を開け一気に煽る。アルコール度数が高い割に喉越しがいいなと思った瞬間、俺の意識はそこで途切れた。

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