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帝都の一コマ

「話は聞いてるわぁぁぁん、あなたが瑞樹ちゃんねぇぇぇん?」


 おかしいな、三日前にも同じ顔を見たぞ、店長が分身でもしたのか?

 メモに書いてある通りに向かってみると、俺がバイトしているマルニカ店とそっくりの店舗がそこに建っていた。

 そして店長までそっくりだった。


「マルニカにいるのわぁぁ私の双子の妹のリリベルでぇぇ、私が姉のララベルよぉぉ」


「あ、そうなんですね……納得です」


 ってそんな訳あるか!

 何で双子で両方ともオネェなんだよ。自分で姉妹って言っちゃってるし、しかもクネクネ具合までそっくりだ。

 これならハルトナにいるデンとダン、そして今一緒に依頼を受けているニーナとビッターたちの方が百倍マシだぞ。


「手紙はリリベルからもらってるわぁぁ。瑞樹ちゃんは買い付けに来たのよねぇぇ?」


「えぇ、そうです。これはララベルさんの指示で動けば間違いないという事でしょうか?」


「そう言う事よぉぉん、聡い子は好きよ!」


 そしてこっちの店長も、同じ様に衝撃波が出るかと思うほどのウィンクをしてくる。こう言うのも似たもの兄弟(姉妹)で合っているのだろうか?

 そしてララベルは「ちょっと待ってねぇぇん」と言うと、店の奥へ行き一人の少女を連れて来た。


「買い付けならこの子と今から行くといいわぁぁん。ここから遠くないし、今から済ませれば明日一日オフにできるわよん」


 気を遣ってくれているのか、俺より頭一つ背の高い美人の女の子を案内に付けてくれた。

 制服はマルニカとほぼ同じなのに長身の美人が着るとなんか格好いいな。


「初めまして、名前はナオよ。私が案内するわ。じゃ、店長行ってくるわね」


「初めまして、瑞樹と言います。お手数おかけしますがよろしくお願いします」


 そう言って俺はナオの横を歩き始めた。

 帝都の街はどの通りも活気付いており、そう意味では王都と似た様なところがある。

 まぁ都心が栄えてない国なんてないだろうから、当たり前と言えば当たり前か。

 そしてナオが言うには、リリベルがその都度本店に手紙を送り、ナオが手配して買い付けの店からマルニカ店へ直送してくれているそうだ。


「リリベルさんは誰か悩んだ子がいると、こうやって買い付けと言って気分転換にお使いをさせるのよ。それをうちの店長が受けて私が一緒に行くわけ」


 なるほど、それをわかっているから向こうの女の子達も任せろと言ってくれたのか。マルニカの皆に気を使わせちゃったな。

 そうして歩くこと十五分程で買い付けの店に到着すると、ナオも勝手知ったるが如くそのまま店内に入り店長を呼び出した。


「お、ナオちゃん、今日は二人できたのか」


「えぇ、マルニカで働いてる子が来てくれたわ」


「初めまして、瑞樹と言います」


「あぁよろしく。早速だが、何を頼まれたんだい? メモがあればそれでもいいぞ」


 気さくで優しそうな店主に、買い付けの内容のメモを渡すと一瞬だけ眉を潜めた。

 その一瞬は普通の人では気づかないだろうけど、俺は見逃さない。

 道すがらナオからこの店の事を聞いていて、俺の中では全てのものが揃うと思っていたため店主の一瞬の動きが余計に違和感に思えた。


「あの、全部揃えれますか?」


「ん? あぁ全部揃うぞ。ただ、在庫に心許ないものもあるから、そっちは揃い次第送ると言う形になるな」


 わざと聞いてみたけど、ただの杞憂だったのか?

 メモの内容を見てないから何とも言えないけど、余計なことに口は出さないでおこう。


「わかりました、よろしくお願いします。ナオさんもありがとうございます」


「いいって、これも仕事のうちだしね。あと行ってみたいところはある? 次いでだから案内するよ」


 俺がナオに礼を言うと、いい笑顔で答えてくれたと同時に寄り道を提案してくれた。

 丁度いい、それならば幾つか行って見たいところがあったから案内を頼もうか。


「それなら、マルニカの皆にお土産を買いたいのと、帝都の見所などあれば行ってみたいですね」


「いいよ、それなら美味しいお菓子が売っている通りがあるからそこへ向かいながら色々案内しようか」


 それから俺はナオに連れられて帝都の見所などを案内された。

 ナオ曰く「帝国は建国されてからまだ二百年弱だからね。見所はそんなに多くはないけど、国が権威を賭けて建てた大聖堂などはなかなかの圧巻だと思うんだ」だそうだ。


 そう言えばハルトナにいた時、マルトに案内してもらい教会で洗礼してもらったんだけど、確かにステンドグラスが綺麗だった覚えがあるな。

 帝都の大聖堂もきっとそんな感じだろう、と思ったのが間違いだった。


「何この規模……」


 ハルトナの教会なんて目じゃないね。確かにハルトナの教会も立派だったけど、それとは次元が違うぞ。

 ナオの言う『国が権威を賭けて』建てただけの事はある。


「凄いでしょ、帝国が出来た理由にもなってる位だからね……」


 自慢げに言うナオと一緒に大聖堂を見上げる。けど、その表情を横目で見ると、ほんの少しだけ影が差し、どうみても誇らしいって表情じゃなかった。


「理由……ですか」


「そうだね。その辺は自分で調べるのも面白いかもよ。さて、このままお土産を見に行こうか。近くにおいしい焼き菓子のお店があるんだよ」


 ナオは深くまで話したくないのか、その先は自分で調べろと話題を逸らして次の移動先へ案内する。

 影を差す理由が少しだけ気になるけど、本人が逸らす以上深くは追わないでおこう。帝都に滞在できるのはほんの僅かだし、その間に俺自身もやるべき事があるしな。


 そうして案内された焼き菓子のお店は、それは多種多様な物が揃っていた。マカロンやスコーンやカステラ、果てやどら焼きなんて物まで売っている。女神エレンよ、今更ながら何でもかんでも地球から取り入れるのはどうかと思うぞ。

 しかしナオが言うには、世界を旅した店主が帝都の片隅に小さな店を構えたところから始まり、その味が皇帝に認められて今では王室御用達まで登り詰めたそうだ。

 俺たちの来ている店は量販用の店舗だけど、本店の方は貴族や王室専用となっているらしい。きっと材料や製法が違うんだろう。試食した感じだとこれで十分美味しいけれど、本店の方の味も気になるな。メルに頼んで帝国から仕入れて貰えないものか。


「ありがとうございます。これなら皆満足してくれると思います」


「そう言ってくれると嬉しいよ。それにしても随分と沢山買ったね。マルニカの人達だけってわけじゃなさそう?」


 大量に買い込んだお土産の量を見てナオが俺に聞いてくる。色々見ているうちに自分用として手に取ったものも含まれ、気付けば相当な量を買い込んでしまった。

 もちろんハルトナの人達や王都の人たちの分もだ。お店の人も、俺の買い込んだ量を見て直送してくれると言ってくれた事には感謝しかない。ポーチがあるから収納には困らないけど、ハルトナ武器屋のエリンの反応を見る限りじゃ大ぴらに見せるべきじゃないからな。


「そうですね。私、王国出身なんですよ。ですので、実家や友人にも送ろうかと。でもお小遣い使い果たしたので、またお仕事頑張らないとです」


「それは大変だ。何ならこっちの本店で働く? 瑞樹ちゃんかわいいから、固定客つくだろうしボーナスも出すよ」


 可愛いって言ってくれるのは嬉しいけど、残念ながらこれを本職にするわけにはいかないんだよね。まだやる事は山積みなんだよ。


「嬉しい申し出ですけど、私もまだやる事あるので落ち着いたらいずれお願いしますね」


「いいよいいよ、急に言っちゃってごめんね。少しだけ考えてって意味だからさ」


 うーん、最近色々とお誘いを受けている気がする。ミーリスやニーナ、そしてナオだ。

 けれど俺のホームはあくまでハルトナだし、アレン達が待っている。約束もしたしな。


 それから二人で他愛もない話をしながら本店へ戻って来る頃には日は沈んで店内は訪ねた時よりも更に賑わいを見せていた。


「二人ともおかえりぃぃん! その様子だと色々とうまくいったよぉぅねん!」


 うん強烈だ。


「え、えぇ。ナオさんのお陰で買い付けもうまく行き、その足で少しだけ帝都を案内してもらいました」


「覚えがいいし可愛いから勧誘したんだけど、フラれちゃったよ」


「あらざんねぇぇん、でもしょうがないわね。瑞樹ちゃんはマルニカ店でも人気の()だもの。でもまた遊びに来てねぇぇん」


 ララベルもナオも随分と俺の事を気に入ってくれたようだ。これと言って特別な事はしていないつもりだけど、俺としても情が湧くと離れ難くなるんだけどな。だからと言って無碍には出来ないから、取り敢えず妥協案だけでも出すか。


「ありがとうございます。その代わりと言ってはなんですが、今夜はこちらでお手伝いさせていただきますね」


 俺がそう言うと、ララベルやナオ以外の店員の()も歓迎してくれた。

 いやこれは単純に即戦力が増えた事に喜んでいるだけか。

 それでも邪険にされるよりはマシだし、今もこうして一人一人笑顔で返してくれているのが嬉しい。


「皆、そろそろピークよぉぉん。頑張ってねぇぇん!」


「「はい!」」


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