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どうしたものか

更新が遅くなって申し訳ありません。

「おっす、瑞樹ちゃん。今日も来たぜ」


「いらっしゃいませ〜! 空いている席をどうぞ!」


「瑞樹ちゃん、お水ちょうだい!」


「は〜い、今行きま〜す!」


 バイトを開始して一週間、仕事には慣れてきて俺は店の新しい看板娘(笑)になりつつあった。

 誰だ、(笑)を付けのは……

 こんなコスプレ喫茶みたいな食堂だけど、冒険者や商人など色んなお客が入り乱れるほど出入りが多かった。

 そして接客業よろしく、お客と話す機会も多く色んな情報が入って来ているが、今のところ有力なものは無い。

 それとベルム達とは一度だけ会っているけど、そっちも収穫は無しだ。まぁまだ始まったばかりだ、ザッツ達は性急過ぎて見つかったと思うから俺たちは落ち着いて情報を集めよう。


 それから更に一週間が過ぎた時、冒険者の常連客から奇妙な話を聞くことが多くなった。


「まただよ。俺の知り合いで帝都に向かう街道沿いで奇妙な魔物に襲われてよ、そいつが言うにはその魔物は皮の胸当てをつけていたって言うんだ」


「そんな事があるんですか? 怖い話ですね、何でしょうかそれは」


「ギルドも調査中だけど、まだ何もわからずじまいだな。瑞樹ちゃんも街から出る時は気をつけなよ」


「心配してくれてありがとうございます。気をつけますね」


 ふむ、ザッツから知った状況から更に進んで、この街でも少しずつ表面化して来たって所か。

 この街のギルマスに直接聞いてみたい所だけど、帝国と繋がっているのか独立しているのかわからない状況で動くわけにはいかないから何とも難しいな。

 その辺りは俺じゃなくてベルム達になんとかしてもらうしか無いな。


「と言う話を聞いたのですが、ベルムさん達の方で何か耳にして無いでしょうか?」


 夕方、俺の休憩時間を狙って来たのかベルムが一人で来て、一番隅で一緒に夕飯を食べていた。

 この世界にコスプレ喫茶と言うものがないからか、大の大男が一人で入って来て恥ずかしいと言う思いがない様だ。

 その代わりにと言うわけじゃないけど、俺の為に通ってくれている常連さんたちは目から赤い涙を流しながら夕飯を食べていた。


「あの男は誰なんだ……」


「まさか瑞樹ちゃんの?」


「んなわけあるか!」


「言うな、言うなぁぁぁぁ!」


 お前ら全部聞こえてるぞ。要らん噂は広げてくれるなよ?

 それより今は仕事の話だ。


「あぁその話は既に掴んでいる。俺たちも少なからず進展した事を伝えに来た、仔細はここに書いてある」


「わかりました、お預かりします……なるほど」


 その内容は、ビッターが件の薬を手に入れたと記されていた。

 入手経路はザッツ達と同じ轍を踏むのを警戒し、更に二つほど仲介を入れたとか。けれど、その分費用は二倍かかった。こちらの身元がバレない様にする為だからこればかりはしょうがない。


「ザッツが持ち帰った物と同種かはわからないが、これも資料として持ち帰るつもりだ。しかし、遠回りでも入手出来てしまう事と街道沿いに見かける事を考えると、一般的とまでは言わないまでもこっちの冒険者にとって公然の秘密にでもなっているのか?」


「そんな⁉︎」


 俺は思わず声を上げて周りを見渡してしまった。

 周囲で騒いでいた常連客達も俺の声を聞いて心配そうに顔を向ける。


「す、すいません。ちょっと驚いてしまっただけですので」


 俺がそう言うと、手が止まっていた常連客達が安堵して食事に戻った。

 そりゃ驚きもするだろう。ベルムの発想は俺には全く無かった。その考えを肯定してしまうと今ここにる常連客達も入手している可能性だってあると言う事だ。


「すまない、考えが飛躍していた様だ。しかし可能性の一環だとでも思ってくれ」


 そうだ、その可能性も捨て切れないのはわかっている。

 けれどもしそうだと考えると、気になる疑問も湧いてくる。


「もし、そうだと考えると、薬による魔物がもっと増えてもおかしくないですか?」


「あぁ俺も考えたんだがその辺りはな……」


 お互いにそこからは黙ったままだった。

 そして答えが出ないまま食事が終了し、解散となった。

 その後はバイトを無難にこなしつつも、ベルムとの会話が頭に残り若干上の空気味だった。



 公然の秘密かぁ……

 下宿先の大浴場で独り言の様に呟いてはバイト先である『にゃんにゃん食堂』に来る常連の冒険者達のことが頭に浮かぶ。

 スケべ心は満載だが、それでも明るく気さくでいかにも冒険者ライフを満喫していますって感じの連中だ。

 何に気兼ねする素振りもない様なあいつらの懐にあの薬があるのか? 考えたくもない可能性だな。

 確かに劇的に強くなれるだろうが所詮は付け焼き刃であり邪道だ。

 そんな物に手を染める位なら必死に【身体強化】を覚えて欲しいものだ。魔力は自前だし、そのかけ具合で倍率は思いのままだ。代わりに消費量は半端ないけどね。


「じゃあ何のためにそんな薬を出回らせるんだろう?」


 過去にそれを使った敵の状況を思い浮かべる。なんて名前だっけ、あの黒尽くめだった奴。

 俺が追って来た時に飲んでそれからすぐに変化したっけ。

 そしてザッツが合流したパーティーメンバー。俺が会ったわけじゃないけど、聞いた状況では逃げていたメンバーを助けた後に変化したと言ってたっけ。

 この二つの違いって何だろう? 薬の完成度か? それとも運か?


「ダメだ、情報が足りなさすぎる」


 沼にハマりそうな考えを放棄して俺は風呂から上がった。

 今考え過ぎてもしょうがない。もっと情報が集まってから皆と考えよう。





「瑞樹ちゃぁぁぁぁん、何か悩み事かしらぁん?」


「い、いえ。それ程深いものでも無いので大丈夫です」


 朝一番で店長から呼び出しを受けたと思ったら心配されていた様だ。

 どうやら昨日の俺の叫びが気になっていたらしく、他のバイトの子達が店長に相談してくれていた様だ。

 いい子達だ、心配かけてごめんよ。


「それでも心配だわぁぁん。そうだわ、帝都に行って買い出しをお願いできるかしらぁぁん? 往復で一週間程度だけれど、気分転換にはちょうどいいかもしれないわねぇぇん」


 ほほう帝都か、図らずともチャンスが来たとも言えるか。

 合法的に行けるのならついでに情報も拾って行きたいものだ。


「その申し出は嬉しいのですが、私でも?」


「いいって事だよ、後の事は先輩達に任せなさい!」


「そうね、瑞樹はこの数週間でずいぶん頑張ってくれたわ。だから観光とでも思って羽を伸ばして来なさい」


 うぅ、いい子達だな。俺このままこの店でバイト続けたいな!

 けど、今の俺は王国の冒険者で指名依頼中だ。これらが全部終わったらまたここに来させてもらおう。


「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせて貰います」


「わかったわぁぁん! なら仕事は午前中だけにして、午後からは支度にはいってねぇぇん!」


 そう言った店長は、衝撃波でも出そうなウィンク向けるが、今の俺は皆んなの優しさ成分触れて全く気にならなかった。

 さて午前中だけでもバイトに精を出しますか!

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