その寿命、今すぐに断ち切ってやろうか?
「素材の買取で、なぜ私が立ち合いをしなければいけないのでしょう?」
「それはほれ、瑞樹ちゃんが可愛いから、と言うことで勘弁して貰えんかのう?」
「お、お戯れを……」
た、堪えろ俺……ここでキレたら爺さんの思う壺だ!
これは絶対にわざとだ。
冷静になれ、立ち合い前からペースに乗せられるな。
「ほぅ……やりおるのう、もう落ち着きを戻すとは」
俺の様子を見て、不適に笑う爺さんも何かあるな……あの小さいナリだと、魔法使いとか? いや外見で判断はできない。
「では行きます」
まずは突進からの抜刀一閃。
軽く避けられたな。これでオークの首を跳ねたんだが、案の定マスターには届かなかった。
が、これは想定内。抜刀の勢いをそのままに右回りで捕らえに行く!
あら、これもダメか。
「良い動きじゃのう。ベリット達が助けられたと言うのも頷けるのう」
「それはどうも」
「じゃが、本気とはまだまだ程遠い気がするのは気のせいかの?」
この爺さん、どこまで俺を見透かそうとする?
何か知っているのか?
ならもう少し攻めるか……
「当たらないで下さいね……」
「へ?」
大地よ……
そう願うと、俺の足場がほんの少し盛り上がり、踏ん張りが効きやすくなる。
そして、最初と同様に突進するが、その速度は先程とは雲泥の差で、マスターに迫った。
慌てて回避するが、そうはいかない。
大地よ……
今度はマスターの足場を窪ませ、体制を崩す。
そして体制に合わせる様に逆袈裟に抜刀するが……
「【対物理盾】!」
完全に捉えたのは確かだけど、流石に素直に斬らせてくれなかった。
あの体制からすぐに魔法を展開できるってのは、並大抵じゃ無いね。
「お主、ワシを殺す気か⁉︎ 流石に寿命が縮んだぞ!」
開始位置に戻ってマスターが吠えた。
結構良い歳まで生きてるだろ。
ここに来る前の、『老い先短い老いぼれの我が儘』を聞いたじゃ無いか。
「まぁ良い、これで立ち合いは終わりじゃ。試した様で悪かったのう。また後で呼ぶから、取り敢えずお昼でも食べてくるが良いぞい」
もうそんな時間なのか。
のんびり食堂で待つとするかな。
「瑞樹ちゃんも凄かったですが、あの攻撃を受け止めるなんて流石ですね!」
「ふぉっふぉっふぉ! まだまだ若いもんには負けんぞい!」
(いや、無理無理無理!結構ワシも本気だったんじゃよ? あの娘は3割出ておったんかのう? いやはや世界は広いのう…………もしかしてあの娘、『神子』かのう?)
冒険者ギルドには、昼間は食堂、夜は居酒屋などと言う便利な場所が併設されている。
出される内容も昼と夜で少し違ってくるのだが、味はどれも結構美味しく、値段もリーズナブル。
そうなると、タイミング良く帰ってきた冒険者や休暇で暇を持て余したものなどで溢れかえり……
「やはりタイミングを外したか……」
ここ数日でわかった事だが、この戦場の様な食堂を切り盛りできるな。
見た事ないが、きっと逞しいおばちゃんが仕切ってるんだろうなぁ。
出直すの面倒だけど、ドリュウさんの所で食べてくるかな。
「すみません、もう暫くすれば、空きができると思いますが……どうしまます?」
ここもか。
ならこの街にきた時の屋台通りまで足を伸ばしてみようか。
丘へ採取に行く時は素通りしたけど、改めて見回すと様々な露店が立ち並んでいる。
串焼きやフランクフルトっぽい物、その向こうに見えるのは、牛のブロックを丸焼きして切り売りしてる。
女神エレンの作った世界は、本当にコッテコテと言うか、基本に忠実何だと思える光景だ。
いやまぁ、何をもってファンタジーの基本かと問われると困るんだけどな。
「そこの綺麗なお嬢ちゃん、オマケするから買っていってくれよ!」
「これは?」
「焼きそばって食べ物だな。一口食べればクセになる味だぞ!」
って聞かなくても見ればわかるわ……焼きそばだよ。
ファンタジーな世界に焼きそばだよ。
さっきも練り物っぽい食べ物売ってたし、ここでは粉物か。
でも馴染みの食べ物があるのは安心感がある分、新鮮味に欠けるな。
「では、一ついただきますね。で、オマケって何を?」
「そうだな、次に買ってくれた時にはもう一つサービスでどうよ?」
「上手いですね。でも、次回までちゃんと覚えてて下さいよ?」
「こんな別嬪さん忘れるわけねーよ! そっちこそちゃんと来てくれよ!」
商売が上手いな。
次は誰か連れてくるのも悪くないな。取り敢えず昼メシもゲットしたし、食べてから戻るか。
「昼食を摂るだけなのに何処まで歩き回っておった?」
「露店まて行ってたらついつい……」
結局あの後も色々食べ歩き、何とクレープ屋さんまで存在していたのだから、素直に感心したわ。
で、夢中になりすぎて、気づけば昼下がりも下がりきって、夕方近くになってしまっていた。
「して、買い取りの方なんじゃがのう。こっちの二つは構わないのじゃが、問題はこっちじゃな」
正直、やっぱりと言った感想だ。先の二つは問題ないのはなんと無くわかっていた。
シルバーレオンが伝説級なだけに、そんな素材持ち込まれたとしても扱いに困るだろうと予想はしていたが。
「これは素材というより、もはや献上品の類になるじゃろう」
聴き慣れない言葉が出てきた。
「要は、自分の強さや忠誠の証として、領主や国王への公的な賄賂じゃな」
言い方、言い方!
身も蓋もないな、領主や国王が気に入らないのかな?
その二人の顔はおろか、名前すら知らないけどな。
「わかりました。献上の予定もないので、死蔵しておきます」
「それが良いじゃろう。ロクなものじゃないしの。査定結果はメリッサちゃんに預けたから、そっちで貰っておくれ」
それだけ聞くと、俺は踵を返して部屋を出ようとしたら、ギルマスが慌てて止めに入る。
何、まだ何かあったっけ?
「まだ何かありましたっけ?」
「待て待て、ここからが本番じゃ!」
正直、嫌な予感しかしない。
絶対に厄介ごとだよこれ。
「冒険者瑞樹として、お主に指名依頼を頼みたい」
…………止めに入るまでは良しとするが、お尻を触ったまま言うセリフじゃないよな?
その寿命、今すぐにでも断ち切ってやろうか?




