サーセン
「さて瑞樹、改めて自己紹介するわね、私の名はニーナ。あっちにいるビッターとは双子の姉弟よ。パーティーとしてはあと二人いるけど、今回の場合は私たち二人ね。ちなみに、私の専門は【癒手】だけど攻撃魔法も少しは使えるわ」
「え、双子だったんですか? てっきり恋人同士かと……」
「驚くところそこなの?」
唐突に始まった自己紹介は、どうにも俺が皆に馴染めていないのではと言うニーナの計らいで、移動中に一人ずつやっていこうと言う事になった。
本来は王都を出発する際にやっておくべきだろうと思うんだけど、初日のベルムとの模擬戦のインパクトが強すぎてそのまま流れてしまったらしい。
ちなみに俺の【探索魔法】は展開中で、何か気になる事あればその都度皆に相談する事になっている。
「じゃあ次は俺か。さっきも聞いた通りだけど、ニーナとは双子で名前はビッターだ。武器はダガーで【斥候】だな。今回はダンジョンとかは無いけど、罠の発見とかもできるぜ」
次に自己紹介してきたのは、俺が一人で勘違いしていたニーナとは双子のビッターだ。二人とも俺とは対照の綺麗なブロンドでニーナ曰く、「何人も女の子を泣かせているプレイボーイよ」との事だ。
ビッター自身もその事を隠す事なく「一夜の夢」と言い放ってはあっちこっちとフラついているらしい。当然ながら特定の彼女もいない。これはそのうち刺されるんじゃないか?
「瑞樹も依頼が終わったら俺と遊ばない?」
「いえ、結構ですので……」
「このおバカ!」
「イテッ!」
ビッターが殴られている間にベルムが近づいてくる。正直ベルムに関しては剣を交えたから大体のことは知っているけれど、一応流れに乗って自己紹介をしてもらった。
「次は俺だな、まぁ今更だが【剣士】のベルムだ。王国騎士団で第一大隊の副隊長を務めている。また時間のある時に相手になって欲しい。以上だ」
簡潔だけど別に寡黙って訳じゃないし、それに趣味は筋トレとかランニングなんだろうな。宿場町とかでも暇があれば筋トレして、移動中でも軽装になって常に走り込んでいるし。
さすがにここからはそんな事はしてないけど、あまり目立つ事は控えて欲しいぞ。
「次は私ですね、ミーリスです。王国近衛隊からの出張となります。見ての通りの【剣士】となりますが、武器は細身の剣です。魔法は【身体強化】などの補助のみとなります。瑞樹のことは隊長のソレイユ様から伺っています。ただならぬ実力を持っていると聞いていましたが、間近で見て納得でした。そこでですが、この任務が終わったら王国近衛隊に入られてはいかがでしょうか? 瑞樹なら間違いなく次期隊長候補になれると思いますので」
呆気にとられる俺。って言うかミーリスってこんなに喋るんだな。ここまでの道中で話すことと言えば必要最低限勝手くらいの会話だったから。自己紹介の後半の熱の入り方と言ったら、結構な前のめり具合だ。こう言った勧誘が好きなのだろうか? それとも自分の認めた相手には語り出す方なのか。
どちらにしろ近衛隊への勧誘はソレイユ含めて二回目だけれど、残念ながら今の俺はハルトナに残してきた仲間がいるし、国に仕えるという堅っ苦しいのはごめん被りたい。
「……あーごめんなさい。ハルトナの仲間と冒険をしたいし、国に命を捧げると言う使命感はないので、お断りさせていただきますね」
「そうですか、また気が変わったらいつでも言ってください」
俺がそう言うと、ミーリスは名残惜しそうだけど素直に引き下がってくれた。
ここまでの道中で皆の人となりはわかっていたつもりだけど、自己紹介をして貰うと何だか新鮮味があってより絆が増した気がする。
そう思って満足感に浸っていると、何故か四人がこっちを凝視している。一体どうした?
「次は瑞樹さんの番ですよ」
「そうだな、その歳でそれだけ強くなった理由も知りたいな」
あ、そうか。人のを聞いただけで満足していたけど、俺の自己紹介か。
さて、そんなの久しぶりだからな。本当のことは言えないし、二年前の設定プラスアルファで話すしかないか。
「えっと、私は王国の東海岸の方の出身です。幼い頃に家族を失って一人でいる所を師匠に拾われて育てられました。そこで剣技や魔法を教えてもらい二年前に独り立ちして色々あってハルトナまで来ました。」
確かそんな設定……だったはず。どこもおかしい所は無かったと思うけど、あまり深く聞かれるとボロが出そうだから勘弁して欲しい所だ。
「東海岸の方と言うと、あれですね」
「あぁ、あれだな」
な、何だ? 以前話した時には何も突っ込まれなかったんだが、おかしな所でもあったのか?
これ以上のことは語るまいと俺が俯いていると、ベルムとミーリスがが顔を見合わせて頷いていた。
「瑞樹、嫌な事を思い出させてしまいすいません。この話は近衛隊や騎士団の中では有名で。まさかあなたが東海岸の事件の生き残りだとは思わなくて……」
え、事件? 何の話だ?
「俺が話そう。十年と少し前の事だ、まだ俺が新兵で入った頃に東海岸の村々を襲っている大規模な盗賊団がいたんだ。それらを討伐しようと王国からも兵を派遣したんだが、既に幾つかの村は壊滅していてな。最終的にはほぼ討伐は完了したんだが、死者行方不明者は多数で凄惨な事件だったと今でも脳に焼き付いている」
「俺たちも小耳に挟んだ程度には聞いた事があるが、そんな大規模だったのか」
「私も当時はまだ近衛隊にいなかったのですが、王都側ではある程度情報が規制されていたようですね」
知らなかったこととは言え、すいませんでした!
俺が捏造した経歴に史実が混ざっていようとは微塵にも思っていなかったぞ。とは言え、今さら嘘ですとは言えない雰囲気だし、ベリット達にもこれで通しているし、いずれ時間が出来たらその村々の跡地にでも墓参りに行って供養をしよう。
ん、ニーナが肩を震わせているけど何があったんだ?
「み、瑞樹! あなた、やっぱり私の妹になりなさい! 前にも言ったけど、私の事は姉と思って接しなさい。いずれ王都で私達の家族にも紹介するからそのつもりで!」
「いえいえ、大丈夫ですので……」
「いや、俺も賛成だ。瑞樹はこれからは幸せに生きる権利がある。王都で俺達と一緒に暮らそう」
いやいや、これってただの勧誘じゃないか。
さっきミーリスの勧誘を断ったの聞いていないのか?
この姉弟の押しをどうにか断ろうと思っている時、俺の【探査魔法】に奇妙なものが映し出された。
「すいません、私の【探査魔法】におかしな反応があります」
そう言って俺は街道沿いに連なる山に指をさした。




