どうやって探そう?
「主人を助けてください!」
突然頭を下げられて何のことだと思っていたら、隣にいたベスターが説明を始めた。
要するに、ダームのギルドで独自に指名依頼で帝国に偵察に行ったパーティーが帰還予定日を過ぎても戻らないからそのパーティーの身内がギルマスを通して俺たちのところに来たと言うわけか。
「突然すまんな。この方はリーナさんと言って、指名依頼で帝国に向かわせたパーティーのリーダーの奥さんだ」
確かに一日二日戻りが遅くなる程度なら期限の無い依頼ならままあることだと思う。けれど一週間となるともはや何かあったと思って間違いはないだろう。
「なぁギルマス。口が悪くて申し訳ないが、それだけの事でわざわざこの宿に来るなんておかしくないか?」
そして俺たちの声を代弁したのはビッターだった。
そう、ギルマスがわざわざここにパーティーの身内を連れて来るのはおかしい。冒険者が依頼の途中で命を落とす可能性があるなんて事は周知の事実だ。身内もその事でわざわざギルマスであるベスターに何で頼むんだ?
通常こう言った場合は、他の冒険者が依頼の途中で偶然助けるか死んでいれば遺品や冒険者カードを持ち帰ると言うのが一般的だ。
それ以外だと身内が依頼を出し、救助隊を編成してもらう方法もある。
王都の冒険者はハルトナの冒険者に比べ一段劣ると言えど、それなりに危険もついて回る。だからこそ、この場に二人が来た事に違和感しかないのだとビッターは言いたいのだろう。
「そうね、私たちも先発隊の情報があれば楽なのは確かね。でもそれと助ける手間は別よ。普通そう言うのは依頼で出すものよ。今ここで依頼するのならもちろん考えるわ」
そしてニーナもビッターの話に乗っかりベスターに話の続きを促した。今回の依頼が特殊なのがわかるだけに、情報が多い事に越したことがないのは確かだ。
ビッターやニーナそれにベルムにミーリスそして俺もだが、別に人命を軽視する訳じゃないけれど、中々難しい話だと言うことがわかっている。
理由は簡単、情報が少なすぎるからだ。向かう途中でのトラブルか、それとも任務中に見つかり捕まったか。はたまた、戻る途中で襲われたか。
それに、それだけ怪しい帝国へ向かったのに帰還予定日を過ぎてるとなると、生きているかも怪しくなる。
「お前達の言い分は最もだ。ここで俺が権限で無理に頼んでもいい結果に繋がらないのも理解している。だからお前らの可能な範囲で構わないから探し出してほしい。もちろんこの指名依頼の報酬とは別で、ダームのギルドから出す」
まぁ出すと言うのであれば問題ないし、行く先々ならそこまで支障はないだろうと全員の意見が纏まりベスターに了承する。。
まぁ同時に突っ込みどころは色々あるだろうけど、そこはひとまずはぐっと堪えて特徴を教えてもらい帰って貰った。
「色々と訳がありそうですね。厄介ごとじゃなければいいのですが」
「報酬の出所が奥さんじゃなくて、ギルドからとかな……」
「訳ありなのは奥さんの方か冒険者の方か」
「どの道受けた事には変わりはない。なら見つけ次第助けるだけだ」
ベルムの言うとおり、受けた以上は多少の手間がかかっても見つける努力をしなければならない。あとはその手間をどこまでかけるかだな。
一応探し出す当てがない訳じゃないけど、それもやってみない事にはわからないから取り敢えず皆には明日まで黙っておこう。
「あら、結構似合っているじゃない。これならもっといろんな服を着せて見たいかも」
次の日、皆と一緒に集まる時、俺はいつもとは違う格好をしてた。
昨日の説明で、俺たちは普通の護衛依頼として帝国領に入る事が決まっていた。その時の俺は全く聞いていなかったため、今のこの格好になるよう指示を聞かされたのは宿に来てからだった。
「すまん、俺が一番最後か。お、瑞樹、普通の格好も似合ってるな。いかにも商人の娘って感じだ」
いや、それ商人の娘に失礼じゃないのか? それともそう言う決まった格好があるのか?
要するに今の俺の格好は冒険者としての瑞樹じゃなくて、商人の娘や露店商のお手伝いの女の子が着るエプロンのついた地味目の服だった。
「長めのスカートが歩きにくい……」
「慣れの問題よ、それじゃあ行きましょうか」
ニーナめ、少し楽しんでないか?
「ところでよ、その助けなきゃいけない人はどうやって見つけ出すんだ?」
ダームを出てすぐにビッターが誰にとでもなく聞いてきた。
確かに可能な限り見つけたいとは思っているけど、だからと言って具体案は誰からも出ていない。
「ニーナの【探索魔法】はどれだけの範囲が見れるんだ?」
「三百メートルくらいね、けどここは平原ばかりだからから無理ね」
ビッターの問いにニーナが答える。救助隊に編成されたことがないからわからないけど、やっぱり救助に【探査魔法】は常套手段なのか。
ニーナが無理って言ったのは、恐らくこのまま街道に沿って進む上での話だろう。
護衛対象であり依頼人の商人が言うには、このまま街道に沿って帝国に入るまでは、ずっと平原になっているそうだ。
だからニーナの魔法の有効範囲内は平原だけだから目視でも確認出来ると言うことだ。
「せめてあの山まで届くくらいの範囲があればいいのだが」
そう言ってベルムが指す方を見ると、高さとしてはさほどでも無いが、街道に沿って山々が連なっている。
確かにあの山沿いに進めばニーナの魔法で中腹までをカバーできるけど、それだと不整地を行く事にもなり、魔物に遭遇するリスクも上がる。何より進んで依頼主を危険に晒す必要もないと言うことだ。
何かいい方法が無いかとベルムやビッターが悩んでいる中、何故かミーリスやニーナが俺の方をじっと見ている。その視線に耐えきれなくなり俺の方から声をかける事になった。
「な、何ですか二人して。言いたい事があると言う顔ですね」
「そうですね。では単刀直入に伺いますと、【探索魔法】は使えますか?」
「……えぇ、使えますよ。ついでに言えば、あの山までカバーできます」
それを聞いた二人は案の定と言うか、その範囲に驚きで声も出ないと言う感じだった。
それはそうだろう、【探索魔法】を使えるだけでも結構希少なのに、結構な範囲をカバーできるのだから。
しかしこの魔法も万能では無いことを付け加える。
「あ、でも私の場合人に準ずる個体と、魔物に準ずる個体の二種類しか識別できなくて、特定の人物を探すのには不向きなので……」
「それでも十分だろう。しかし、なぜ今まで黙っていた? 王都を出発してからハルトナの間にも森はあったんだ、そこで申し出てくれたらもっと効率が良くなっていたかもしれないだろう」
ベルムの言いたいことはわかる。それで移動が楽になるのなら、使うべきだろうとも思うけど。
今回の場合はニーナも使えたしな。
「それは……「私に気を使ってくれたのよね? 瑞樹は私の自尊心の為にあえて伏せておいてくれたのよ。健気な子じゃない、て言うか私たち大人が気を使われているってどうなの? ベルムもそう言うところを察してから言うべきよ」」
「むぅ……すまん」
俺が何かを言い出す前に、ニーナが庇いながら俺の心境を語ってくれた。
俺が庇おうとした人に、逆に庇われる格好になってしまった。それ以上に俺はニーナって人物を何もわかっていない事に気づく。ニーナだけじゃない、他の三人もだ。
「すいません、そしてありがとうございます」
「そうね、でもちょーーーーっと私と馬車の後ろで語り合いましょうか?」
あ、これ何か踏んじゃいけないものでもあった感じだ。




