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そこで出会う

「この場所ならすぐ着きます」


 俺はそう言いながらギルドがベルム達のために用意してくれた宿屋まで案内する。

 メリッサが用意してくれた地図と屋号を見てすぐにわかった。何故ならそこは、俺が初めてこの世界に来て初めて泊まった宿だからだ。


「到着です。こんにちは、ドリュウさんいますか?」


「おや瑞樹さん、そちらはもしやギルドからの?」


「えぇ、ギルドからの指名依頼の人達です。男女で二部屋お願いしてあると聞いていますが」


 そう言いながら後ろの四人に目を向けると、俺もギルドからの紹介状を手渡して確認してもらう。

 例え見知った相手でもきちんと確認する辺りは、真面目さの現れだと思える。


「はい、確認しました。一泊二食ですね、瑞樹さんはどうしますか? 実は以前から来るのはわかっていましたので、夕飯は数日かけて煮込んだシチューですよ」


「それはいただきたいですね。では、夕飯と朝食だけいただいて自分の家で休みます」


「わかりました。お部屋を案内している間にお食事の準備をしますので、お好きな時間に降りてきてください」


 そう言うとドリュウは他の店員に案内を任せて、厨房に入って行ってしまった。

 余程気合入れて作ってくれてるんだろうな。俺がこの二年でここで食事を摂るのを見る限り、普段は厨房係のみに任せている節がある。

 それを自ら厨房に入っているのを見ると、何かしら気合を入れて作る時はあぁやって自分も参加するって感じだな。


「お待たせ瑞樹。随分と親しげだったけど、この宿のマスターと知り合いなの?」


「えぇ、今はハルトナに家を持っていますが、それまではこの宿の一室を間借りしていましたので」


「へー、結構良さげな宿に見えるけど、良心的なお値段なのかしら?」


 ニーナが二階から降りてきて早々に俺に質問する。王都で活動するニーナから見てもそう感じると言うことは、やはりいい宿なんだろう。続けて降りてきた残りの三人も同じような質問だったからまとめて答えた。


「なるほど、助けたパーティーの一人の親父さんの宿か。縁が繋がって俺たちもこの宿の旨そうな夕飯にありつけるんだ、感謝しないとな」


 ビッターの意見にベルムとミーリスも頷く。そう言って貰えると嬉しい限りだけど、それは恐らくさっきから食堂を支配しているこの旨そうなシチューの匂いなんだろうな。

 まだ日が沈みきるまでにはもう少しかかると言うのに、宿の外にまで漂うシチューの匂いは、通りすがりの仕事帰りの人の鼻と胃を刺激して食堂の席を次々と埋めて行った。


「注文お待ちどう様、エールになります! すぐにシチューもお持ちしますね!」


 店員が持ってきたエールを受け取ると、何故か全員俺を見る。

 あ、なるほど。俺が乾杯の音頭をとれって言うんだね。


「えーこほん……それでは、皆さんとの出会い、そして全員の無事と依頼の完遂を願いまして、乾杯!」


『乾杯!』


 うーん、少し挨拶が固かったかな?

 でもこれから皆酔うんだしいいか!

 そして、シチューが運ばれて四人どころか食堂に来た人全員が舌鼓を打ちながら夕飯が過ぎて行った。





三人称視点


「瑞樹、寝ちゃったね。お酒弱かったのかな?」


「久しぶりに自分の街に戻って来たんだ、気が緩んだんじゃないか? それにしても、この寝顔だけ見てるとベルムを圧倒した女の子には見えんな」


「オークキングの首をはねた猛者も可愛いものですね」


 夜もだいぶ深くなってきた頃、テーブルの上で酔い潰れた瑞樹を見ながらそれぞれが感想を言う。

 もはやシチューパーティーと呼んでも相応しいほどの振る舞いで、食堂全体が一丸となるほどだった。

 外ではシトシトと小雨が降っており、シチューに満足した人たちは思い思いの帰る場所を目指して出て行き、今は瑞樹たちだけになってしまっている。


 そうして少しずつエールを傾けるベルム達だったが、宿に一組の冒険者が入ってきた。

 ポンチョを着ているが、店員とのやり取りを見る限り、どうやら間借りして契約しているらしく一言二言話しただけで二階へ行ってしまった。

 しかし、その中の一人が食堂にいるベルム達の存在に気づき五人を凝視している。

 ビッター達も見られていることに気づきながらも、自分たちがそんなに浮いた存在には見えず不思議に思っていたところで、視線の主が一言呟いた。


「…………あれ、瑞樹ちゃん? 瑞樹ちゃんだ!」


 突然自分たちのパーティーメンバーの名前を呼ばれ驚きはしたが、ここはハルトナで瑞樹の拠点でもあるから見知った人がいても全くおかしくは無い。

 しかし、当の瑞樹は酔い潰れて寝てしまっている以上、近づいて来る人物の面識を確認する術がない。


「現在パーティーを組ませてもらっているニーナと申します。失礼かと思いますが、名前を伺ってもよろしいですか?」


 なら先に面を割らせてしまえばよいとニーナが前に出て行った。

 ここが宿屋である以上相手も迂闊なことできまいと警戒心丸出しで声をかけた事で、相手にも不審がられていることをわざと悟らせる方法だ。これで最低限相手を近付かせないことができる。

 しかし、ニーナが警戒したのを見て声をかけた人物の仲間がすかさずフォローに入った。


「ユミル、急に声をかけたらダメだよ。警戒されちゃうじゃないか。すいません、急に声をかけてしまって。そちらで寝ている瑞樹の知人でして、僕がマルトでこちらがユミルです」


 既に警戒されてしまっているニーナに対して、謝罪と自己紹介をした。

 そう、帰ってきて早々に騒ぎ出したのは、パーティー『雀の涙』のユミルとマルトだった。

 モール商会とミューゼルの護衛を終えたベリット達は、数日の休養の後軽い依頼をこなして来た後だった。本来はもっと早くに戻って来る予定だったのだが、急な雨で戻りが遅れてしまったのだ。


「いえ、ご理解いただけたようで何よりです。それより瑞樹の知り合いなんですね。良ければ席をご一緒しませんか?」


 ニーナはそう言って他のメンバーの顔を見ると、一同に頷くのを見て肯定と判断しユミルとマルトに提案する。

 それを聞いたユミルも待っていましたとばかりに二つ返事で承諾し、ベリットとガリュウを呼びに二階へ駆け上がって行った。


「すいません、騒がしい人で」


「いえいえ、あの方余程瑞樹の事が気に入っているんですね」


「そうですね。同性と言う事もあるでしょうけど、パーティーの中で一番仲がいいのも確かですね」






「では新たな出会いを記念して、乾杯!」


『乾杯!』


 瑞樹が机の上で眠る中、王都パーティー一行がベリット達との出会いを記念して再び乾杯をしていた。

 お互いが自己紹介をした後に話の流れは自然と瑞樹との出会いになっていった。


「俺たちは護衛依頼中に囲まれて危なかった時に助けられたのが初めてだな。正直あの剣技でランク『G』だったのが驚きだったけどな」


「そうだな、俺も王都で初めて見た時はこんな少女がオークキングを討伐したとは到底思えなかったんだが……」


「けど、ベルムの大技を受け切って大剣を折った時は正直寒気がしたくらいね」


「でしょー、オークの集落を大魔法で一網打尽にして、ハルトナ防衛戦でオークキングの首を一刀両断、鉱山でオークキング三体相手に一歩も引かなかったんだから! でも寝顔の瑞樹ちゃんも可愛いよね〜。私も隣で添い寝しちゃおうかなっぁ〜へへへへ」


 まるで自分の娘の事のように自慢しまくるユミルだが、聞いてる王都組の感想は微妙であった。主に後半の意見に対してだが。


「どうりで勝てないわけだ」


「けど、戦闘に関しては不安要素は無くなりましたね」


「最年少に頼りっきりと言うのも気が引けるけど、それぞれの持ち味を生かしていくしかないわね」


 王都組パーティーでの最高戦力が自分自身だと思っていたベルムだが、ハルトナでの活躍を聞いて改めて瑞樹の強さを実感することになった。

 上には上がいると言うのはわかっていたつもりだが、それが年端もいかない少女と言うのが現実離れしていて実感が湧き難かったと言うのが四人の心情だろう。

 だが、ガリュウやマルトもそんな四人の心情を読み取ったのだろう。


「でも、あんたらも強いんだろ? なら瑞樹もあんたらのこと信用してるんじゃないのか?」


「ですね。じゃ無いとこんなに無警戒に皆さんの前で寝れませんよ」


 瑞樹がハルトナに来て以来、何だかんだで付き合って来た仲間からの意見だ。

 そんな人たちからのお墨付きを貰ったものの一抹の不安もあるのだろう、ニーナは瑞樹の顔を見て苦笑いをする。

 それを見たユミルも「ならば」と瑞樹の横に座ってほっぺを突き、起こした。


「みーずきちゃん、こんな所で寝てると風邪を引くよ?」


「ん…………あれ、私寝ちゃってましたか……ってユミルさんじゃ無いですか。それに、マルトさんやガリュウさんやベリットさんもどうして?」


「どうしてって、そりゃ拠点だしいるわよ」


「すまんな、親父の宿を贔屓にしてくれて」


「いえいえ、それより私が寝ている間に仲良くなっていた様ですね」


「もちろん、私が瑞樹ちゃんの魅力を余すことなく伝えたわ! 戦闘で無類の強さを発揮する瑞樹ちゃん、突然指揮を振られても冷静に対処するクールな瑞樹ちゃん。オフの日は、食べ歩きで美味しそうな顔のギャップ萌えな瑞樹ちゃん。どれも最高よね〜。 それでね瑞樹ちゃん……」


 そう考えれば確かにと未だアルコールが体を駆け巡り、睡眠を欲している頭を回転させながら考えている間、ユミルも予定通りの暴走っぷりだが不意に優しい声をかけると、瑞樹もそれに釣られて振り返る。


「普段と違う今のパーティーはどう?」


「そうですね、私にとっては新鮮ではありますが不安要素と言うのはハルトナに来るまでに拭い去られました。その大柄な体で先頭に立ち、敵に対して私たちの壁役になってくれるベルムさん。普段は寡黙だけど、私たちのことをちゃんと見ていてくれてフォローしてくれるミーリスさん。細やかな事に気を配り、時には前に出て雑用やいろんな人達との間に入ってくれるお姉さん的なニーナさん。常にレディーファーストなのに、いざと言う時には私達の前に出てナンパな人達から守ってくださり、道中の先々で必要な情報を仕入れてくださって、これからの依頼で必須のスキルを遺憾なく発揮してくれるビッターさん。この中で、誰が欠けても達成できないメンバーに参加できてとても幸運だと思います。私も皆に必要とされたいメンバーの一人になりたいです……」



 その質問がどう言う意図で向けられたものかわからないが、瑞樹も酔いが回っている頭で一生懸命言葉を連ねた様だ。

 しかし、その長いセリフにユミルが我慢できるはずもなくツッコミを入れた。


「真面目か! 瑞樹ちゃん、もっと簡単に一言で言うとどうなるの?」


 無茶振りである。

 満場一致でユミルのセリフが無茶振りだと認定された。

 根っこの部分が真面目な瑞樹はユミルの無茶振りにも「一言で……?」と考えだすと、一同の注目を集めた。無茶振りをしたユミルも興味津々だ。


「そうですね。一言で言うと、大好きです。これからもよろしくお願いします……むにゃ……」


 それだけ言うと、余程眠かったのか瑞樹はまた机に体を預けて眠ってしまった。


「瑞樹さんは自分が一番私たちを観てくれていると言う事に気付いていないんでしょうね」


「でも、こんなに忌憚のない『大好き』を言われたのはすごく久しぶりで悪い気はしませんね」


「ある意味、期待を裏切れないってのもあるけどな」


「明日からは年長者の凄さってのも見せていかないとな」


 四人とも思い思いの言葉を連ねていくが、共通しているのは全員が笑っている事だった。

 一番小柄で最年少であるこの少女が僅か十日で、一人一人の個性を言って回ると言うのはなかなか出来ることではない。四人は笑ってはいるが、心の奥にはこの少女にはもう心配をかけまいと言う決意が現れていたのであった。


「所で瑞樹ちゃん、私の事はどうなのかな? おーい、瑞樹ちゃん? おーい?」


「…………ぐぅ……」


 自分の感想を聞こうと瑞樹の周りを忙しなく回っているユミルだが、次に目を覚ましたのは翌朝だった。

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