途中だけど
瑞樹「途中だけどね……」
ベルムとの模擬戦の後、宿場町の責任者にやり過ぎだと怒られ、五人全員が頭を下げて謝る事になった。
ベルムと俺は当事者だからしょうがないけど、残りの三人には申し訳なかったから、寝静まった後にこっそりと広場を魔法で元の状態に戻した。
あのままじゃ他の人も使えなかったし、宿場町全体の経営にも差し支えるかも知れなかったからな。
「瑞樹さん、ありがとうございます。夜中に広場を直して下さいましたね」
「そうなのか? あの大穴を直せるだけの魔法って凄いな」
「ベルムの技を防いだ時も思ったのだけど、魔法も凄いのね」
「うむ、俺もまだ修行が足りなかったと言う事だ。これからは走って鍛え直そう。瑞樹も一緒にどうだ?」
宿場町を出てすぐにミーリスに言われ、皆にバレることとなった。
別に見られて困るわけじゃ無いけど、あれだけ暴れた後だし大人しくしておこうと思っただけだ。
まぁその一件のお陰かはわかんないけど、食堂で絡んできた四人組はそれ以降は全く見なくなった。良いことだ。
それからハルトナに到着するまでは誰からも絡まれる事はなく順調に進んで来れたのは、行く先々で広場の使用を禁止されたのと関連があるのかも知れない。
誰かが先回りして吹聴して回ったな。
その分、ベルムからの筋トレのお誘いが激増したからむしろマイナスか。
「お久しぶりです、瑞樹さん」
「お久しぶりです、メリッサさん。先触れが来ているとは思いますが、ギルマスにお取り次ぎ出来ますか?」
「ちょっと待って下さいね」
大騒ぎしたのは初日だけで、そこからハルトナまで順調に進んだ。昼過ぎと言う半端な時間に到着したその足でギルドに向かうと、およそ一ヶ月ぶりに見るメリッサは笑顔で俺たちを出迎えてくれた。
メリッサが確認をとりに行っている間、いろんな人が声をかけてくれると帰って来た感が強い。
懐かしいって言うほど期間を開けたつもりが無いんだけど、初めての王都の割に色々起きすぎていたってのもあるんだろうな。ハルトナの雑多だけど穏やかな空間に安心感を感じてしまった。
「さすが、ハルトナで活躍しただけあって顔が売れているな」
「いえ、ここの人たちが気さくで、優しいだけですよ」
「それだけじゃなくて、実力者揃いなんだろ?」
「私も王都に行く前に聞いたのですが、そんな感じに伝わっているらしいですね」
「王都出身としては思うところが無いわけではないが、これはこれで楽しみである」
ベルムはまた何か企んでるな?
宿場町の一件以降、何かと俺に格闘での模擬戦やら短剣での勝負やら挑んでくる様になったけど、さっきも言った通り俺たちには使わせてくれなかったから基本的に素振りだけしか出来なかった。
それはある意味助かったと言えるだろう。
「お待たせしました。ギルマスが執務室にてお待ちです」
そう言われて通されたのは、既に何度も入ったことのある執務室だ。
もちろん座っているのは、王都のギルマスとは違うデンの方だ。
こうして改めて見ると結構違う。デンの方が目尻が下がっていて、何となく愛嬌がある感じだ。
「ほほ、久しぶりじゃのう瑞樹ちゃんや。王都観光は楽しめたかのう?」
「えぇ、あんなに凄いところとは思いませんでした。ただ、滞在期間が短かったので、次に行く時は長期を考えています。その際はよしなに」
「ほっほっほっほ」
「ふふふふふふ」
わかってて聞いているんだから、いい性格している。
まぁミューゼルの一件で少なからず色々と動いてくれていると考えれば、この位はさらっと受け応えなきゃな。
「それと、ソレイユ様から手紙を預かっています」
それはそれとして、少し真面目な顔でポーチから手紙を取り出してデンに直接手渡す。
デンもその名前を聞いて眉を上げるが、ひとまず受け取って内容を確認した。
「ふむ、あやつの考えそうな事じゃ。瑞樹ちゃんも気を使わせてすまんの。このお礼は今度一緒にお風呂にで」
「遠慮しておきます」
真面目に話している時にブレないなこの爺さんは。
「うぉおっほん……そして、王国からの二人と、王都の冒険者の二人じゃな?」
俺とのやり取りが終わって雰囲気を変えて残りの四人に顔を向けると、ベルム達も緊張した面持ちで頭を下げる。
俺にはよくわからないけど、ギルドマスターと言う肩書が四人を強張らせるのか? 王都の時も確かそんな感じだった。
俺の場合、デンがこんな性格のせいか、ちょっと偉いセクハラジジイにしか見えないんだよ。
「でじゃ、瑞樹ちゃん達はこのまま南下して城塞都市ダームに向かうんじゃな?」
「はい、今日はこのまま一泊して明日の朝出発ですね」
「うむ、宿はこちらで手配済みじゃ。明日まではゆっくりと休むが良いぞ」
「ありがとうございます。では失礼します」
そう言って執務室を出た瞬間、正に緊張が溶けて脱力したと言った感じで大きく息を吐いた。
「どうしたんですか、皆さん? ずっと緊張していた感じですが」
「むしろ、堂々と話していた瑞樹の方が凄いんだが。見ろよこの汗……」
ビッターに至っては、額や手のひらの汗が凄い事になっている。
「そうね、ホームがハルトナのせいなのかも知れないわね。要するに、王都のギルド本部のマスターとハルトナのマスター、この二人は仲もよく無いけど格も違うってことなのよ」
「そう言うことだ、王国騎士団の中にも届くくらいの話だぞ」
要するに肩書き云々に関わらず、あの二人は凄いって事か。
「それで、何が凄いんですか?」
「それはだな……「話を折ってすいません、瑞樹さんに手紙が届いています」」
その凄いと言う内容が気になってビッターに続きをお願いしようとしたら、メリッサに話をばっきりと折られた。
歩きながら話していたから、止めなきゃそのままギルドホールを出て行ってしまうところだったし、四人の宿屋の場所も聞いていなかったから結局戻る事にはなっただろうな。
「ありがとうございます」
受け取って誰からだろうと宛名を確認すると、女神エレンからだった。厳密には『候補』だけどな。手紙を送るやつなんて一人しかいないわけだし、俺から何かお願いがあって送ったわけじゃ無いから、逆に何が書いてあるのか気になるぞ。
何々?
『瑞樹ちゃんへ、非常に大事なお話があります。これは瑞樹ちゃんの今後に関わる事です。けれど、聞かなかったとしても死ぬわけではありませんので、瑞樹ちゃんの判断に任せます。お返事待ってます。女神エレンシューエル』
めっちゃ気になるじゃん。
判断に任せると言いながら、文面がものすごい煽ってるんだけどこれ。
ここまで言われると、逆に聞かないわけにはいかない。聞かずに後悔するより、聞いてから判断する事にしよう。
『エレンへ、大事な話とやらを聞くからとっとと話せ。瑞樹』
メリッサの目の前で百面相をしながらその場で手紙を書いてまた送った。
返信は早ければ明日の朝って所か?
「瑞樹、この後の予定はあるかしら? 良ければハルトナを案内して欲しいのだけど」
俺の用事で待たせてしまった四人で話し合った結果、夕飯までの間の時間で俺にハルトナの街を案内して貰いたいらしい。そんなのお安い御用だ。
「構いませんよ」
「大丈夫か? 無理なら言ってもいいんだぞ? 久しぶりに会う仲間もいるだろうし」
「その時は挨拶程度で済ませますので。今は指名依頼の仲間の案内をさせて下さい」
確かにベリット達『雀の涙』や、ワイズ達『猫の額』それに俺たちの『エレミス』、領主のメルもだ。
細かい所を挙げればキリがなくなる。
それにこう言うのは完遂してから「ただいま」と言いたいから、今は無理に会おうとは思わない。
……今フラグが立った気がする。
「そうか、なら甘えさせてもらおう。実は良い武器屋があれば案内して欲しくてだな」
そう言い出したのはベルムだ。
出発初日に自分の愛剣を折ってしまって以来ずっと予備の剣を使っていて、宿場町に着くたびに直せるところが無いかと探し回っていたが、遂にハルトナまでなかったと言うわけだ。
そもそも王都でも特注品の様な仕様の武器が、申し訳程度の宿場町にある武器屋でどうにかなると思う方が難しいぞ。
「思い当たる武器屋は一か所だけあります」
「おぉそれは是非案内して欲しい!」
ある意味修理できなくてずっとお預けを食らっていたようなものだ。
ベルムの食いつきが半端ない。そして顔が近い。
俺のプライベートエリアにグイグイくるベルムに引いてもらおうとした所に、案の定フラグその一が来た。
「姉さん、お疲れ様です!」
『お疲れ様です!』
「そして、そこの不埒な男に鉄拳を!」
『鉄拳を!』
「あー、ワイズさん待とうか。うん、誤解だからね?」
行く先々でこれは大変だ。早いところハルトナを出発したいな。




