あのジジィ!
そう、本来なら俺の鞄は茶色の渋い感じだったんだ。
武神ガレルとの修行時代に、倒した魔物の素材でウェストポーチを作ったんだけど……どうしてこんな可愛らしい外見になってしまったのか……。
「まぁ良いじゃないか、それにマジックバックなんだろ? 届けてくれただけでも、お前さんの師匠に感謝じゃねぇか……プッ!」
「そうだな……ククッ」
「そ、そう……性能がよけれププッ……」
「瑞樹ちゃんすっごい可愛いよ! ポーチ一つで更に引き立つとは、さすがね!」
「そ、そうですよ。瑞樹さんの可愛さがあってこそフフフッ」
「フォローするなら最後までして下さいよ!」
そんでユミルは褒めんな!
一晩悩んだ挙句、意を決して人気の無いタイミングでギルドへ向かったんだけど、どう言う訳か『雀の涙』のメンバーがいたんだ。
それを目敏いユミルに見つかり、メリッサを含めた皆の目に留まって、フォローになってないコメントが飛んできた訳だ。
「メリッサさんあなたまで笑うとは……この中にはメリッサさんが求めた素材が沢山入っていると言うのに……」
「ああああ、ごめんなさい、ごめんなさい。是非ギルドに素材を売ってください〜!」
流石に笑いすぎた自覚があるのか、メリッサは涙目になり、カウンターに乗り出して縋ってきた。
別に俺としても素材を売る事に異存はない。それだけで結構な財産になる事がわかるから。
けど、気になることもある。
「売ってもいんだけどさ、この辺りに生息していない魔物の素材とか市場に流して良いの?」
「あ〜そうですよねぇ。例えばどんなのがありますか? あ、声に出すと拙いですので、紙をお渡しします」
紙? あぁ、声に出して誰が聞いているとも限らないって奴か。
メリッサに渡された紙に、幾つか素材を書き連ねて渡す。
「ま、マジですか⁉︎」
ダメじゃん。
メリッサのその反応で、俺が声に出さなくてもダメじゃん。
慌てて周りを見渡すが、特に耳を大きくしている人を確認できなかった。
「た、大変失礼いたしました。少々お待ち下さいませ」
そう言うと、すぐ様階段を駆け上がって行ってしまった。
「で、ユミルさん達は何でこの時間にギルドに?」
「私達今さっき依頼から帰ってきたのよ」
「と言うことは、昨日会って、そのあと依頼に行ったっきりだったのですか?」
「そう言うこと。さっき報告終わった所に瑞樹ちゃんが来たってことよ。お陰で疲れが吹き飛んだかも」
「ありがとうございます。皆さんも早く休んでくださいね。」
そう言ってくれる事は嬉しいけど、早く戻って寝たほうがいいって。
ユミル達を労っていると上からメリッサが降りて来て、緊張した面持ちで話しかけて来た。
「瑞樹さん、二階へ上がって下さい。ギルドマスターが直接お会いしたいそうです」
おー…………お約束だ。
俺が「テンプレきた!」と思い、軽く目を見開いて固まっていると、周りは別の意味で勘違いしたようだ。
「ギルドマスター直々とは。瑞樹、顔を売るチャンスだな!」
「瑞樹さん、これは早々にランクアップできるかもしれませんよ!」
「しっかりやれよ、瑞樹」
「瑞樹ちゃん、何かされそうになったら叫んでね⁉︎ 何をお置いても私が飛んでいくから!」
「マスターが何かする訳無い…………じゃ無いです……か?」
言い切れないような人なのか?
まぁ行ってみればわかるか。
メリッサの案内で、ギルドマスターのいる応接室まで通されると正面には初老……どころか縁側で猫でも抱いていそうなお爺さんが座っていた。
俺の想像していたギルドマスターは、もっと強面な感じだったから少しだけ拍子抜けだ。
「思っていた感じと違ったかのう?」
そんなに顔に出ていたかな?
「そうですね。でも、怖そうな人じゃなくて良かったと思います」
「それは何よりじゃ。まぁ座っとくれ、それで早速じゃが……この紙に書かれた素材を実際に目で確かめたいのじゃが」
なるほど、実際にギルマス自身の目で確認したいと言うのか。
なら爺さんの目で真贋を確認すると良いさ。
「ではまずはヘルハウンドの牙」
「おぉ〜……」
メリッサが唸り、ギルマスは素材を手に取って確認する。
そして俺はそのギルマスを観察する。
このギルマス、見た目以上の歳って事か。
「確かに本物だの……して次は?」
「次はフロストドラゴンの翼膜です」
目にした素材に二人して唸る。
しかし、ギルマスの方は眼光が直ぐに鋭くなる。
「これも本物だの……して最後のも良いかの?」
「えぇ、最後のは……シルバーレオンの爪です」
メリッサは聞き慣れない名前にきょとんとしているが、一方のギルマスは目を見開き驚嘆している。
けど、これに関してはギルマスでもわかんないでしょ。
何せ、シルバーレオン自体が伝説級だからな。
「お主、瑞樹と言ったかの? これを修行中に手に入れたと?」
「えぇそうですね。実際に討伐しました」
「そうか………メリッサちゃんや、訓練場の人払いを頼むよ」
「は、はい!」
何事よ?
「一つ立ち会ってくれんかのう? 老い先短い老いぼれのわがままだと思って!」
よく言うわ……
「あと百年は生きそうなお爺さんに言われても、説得力ありませんよ?」
「ふぉっふぉっふぉ! 言うでは無いか。ほれ、訓練場へ行くぞい!」
「きゃあ!」
あのジジィ、通り過ぎざまにお尻触っていきやがった!
ってか、素材に何で訓練場が関係あるんだよ?
全く持ってわからん……




