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どこかのパーティーの冒険

 妻よ娘よ、俺は必ず帰るからな……


 帝国の山中に俺はいる。

 仲間はおらず、俺一人のみだ。いや、隣にいるのだが、先ほど息を引き取った。

 仲間の胸には俺の剣が突き立っている。

 その前にも二人失った。これで俺一人だけになってしまった。

 最後の仲間の冒険者カードを自分の鞄にしまい、突き立った剣を引き抜き鞘に納め、予備の武器として仲間の剣も貰う。ポーションは使い果たした。あれば仲間に使っている。

 俺は仲間の分まで生きる。そして、この情報を国に持ち帰らなければならない。


「国が人体実験などと……」




 帝国との国境から二日ほどの距離にある王国城塞都市ダーム、俺はその冒険者ギルドで活動しているランク『C』パーティーのリーダーをやっていた。

 普段はハルトナ方面への乗合馬車や荷馬車などの護衛依頼や、街道沿いの魔物を排除したりとランクの割にあまり危険じゃない依頼をこなしている。

 それもこれも去年結婚し、そして無事に産まれてきてくれた妻や娘の事を思っての選択だ。

 本来俺らのランクならもっと見入りの良い依頼もあるが、自分が死んだ後のことを考えると、どうしても二の足を踏んでしまう。

 メンバーももっと稼ぎたいと思っている奴もいる筈なのに、俺の我が儘に付き合ってくれる良い奴ばかりだ。

 そんな折にギルドから指名依頼を受けた。


「帝国が不穏な動きを見せている。王国からの依頼として帝国へ赴き、どんな些細な情報でも良いから持ち帰ってほしい」


 本来ギルドは国の内政事情にはあまり干渉しないものだが、隣国が不穏な動きを見せるとなると事情が変わってくる。

 自分たちの住む街が侵攻によって脅かされるとなると、こちらも手立てを打たなければならない。

 その手始めに偵察によって帝国の内情を探ろうと言うことだ。

 指名依頼というのは、その実力も買われて依頼される事であるため、通常の報酬よりも高めに設定されている。更に今回は、隣国との情勢の為とその依頼内容の為、今までの依頼の中でダントツの報酬となっていた。


「リーダー、これは受けない手は無いんじゃないか?」


「そうそう、可愛い娘さんも産まれて色々と物入りになるだろ? ならここらで一発ドンと稼いでおいて奥さんを楽させなきゃ!」


「それに、これが俺らの本来の得意分野だろ? なら、錆びて無い所を見せてやろうぜ!」


 確かに俺らはこの諜報活動で飯を食っていた、けどそれは失うものが無いと思っていた以前だからこそやれた仕事(こと)だと思っている。

 依頼書の内容を見ながら二の足を踏んでいると、両脇からメンバーの三人が背中を押してくれる。

 そうだな、愛想を尽かされない程度に稼いでおいて、サプライズするのも悪くないかもな。




 そうして妻と娘に見送られ、荷馬車の護衛として帝国領に入り、俺たちのパーティーは最初の商業都市マニルカで情報収集に努める事にした。

 情報収集にはいくつか方法がある。


「お前さん最近よく見るね、旅人かい?」


「えぇ、詩人をやっていまして。あ、これ美味しそうですね。三つほど頂けますか? この街であと数日ほど滞在した後に次の場所へ移動しようと思います」


「まいどあり! そうか。けど、帝都の方には行かないことをお勧めするよ。皇帝が代替わりしてから内政に色々動きがあったって話だからね」


「そうですか、何やら物騒な話ですね。危に近寄らずってところですね」


「そういうこった。また寄ってくれよ!」


 一つ目はその街の人間と親しくなる。これは街の人たちの信頼を得て相手の人情に訴える方法だ。

 街から街へ旅する詩人だと思わせれば、情勢の不安定な方へは行かせれないという感情が働くだろう。


「お前さん達見ない顔だな。どこのギルドだい?」


「あぁ、王国のハルトナで護衛依頼を終えたところでな。この街で何か面白そうな依頼でも受けてから戻ろうと思ったんだが……今の時間じゃ良いのがないな。しょうがない、今日は飲むとしよう。どうだい一緒に、今なら奢るぜ」


「いいのかい、俺は飲むぜ?」


「気にするな、ここで会ったのも何かの縁だ。その代わり、酒の肴代りにこの街の事でも聞かせてくれよ」


「任せな、街の事ならちょっとした事情通だぜ」


「そう来なくっちゃな、行こうぜ兄弟!」


 二つ目は冒険者ギルドと酒場だ。

 冒険者と言うのはいわば自由業。どんな依頼を主軸にしているかでソロかパーティーか、暗殺か護衛かなどで行動範囲や活動時間帯などが変わる。

 だから昼間のおかしな時間に依頼の貼られたボードを見に行ったとしても、誰も怪しむ奴などいない。

 それでも仕事が欲しければ、貼られる更新時間帯に行くか、受付に行って斡旋してもらってもいい。

 そうしないのは、そこまで生活に追い詰められていない懐の温かい奴か、人の懐を(たか)ろうとしている奴である。

 職業柄、先の街の人たちより街や国の情報などは集まりやすい。それももっと闇の深い情報だ。短期間で一番手っ取り早いのは、やはり酒の力なのかもしれない。

 しかし、その酒の力故の欠点もある。情報の信頼性だ。何せ酒の入った奴らの話だ、与太話か実際の体験談なのか、伝言ゲームで尾鰭背鰭がついている話なのか精査が必要だ。




「いらっしゃいませ、注文は?」


「オーク肉ステーキを五百グラムで」


「……焼き加減は?」


「…………じっくりこんがりベリーウェルダンで」


「カーテンの奥に専用部屋がある、そこで食いな」


「そうさせて貰う」


 三つ目は一番信頼背が高いが、お勧め出来ない『情報屋』だ。

 自分達の独自のルートで情報を集め、精査し精度の高い情報を高額で売っている連中の事である。

 利点は金さえ払えばどんな情報でもある程度の精度で誰にでも売ってくれると言う事である。

 欠点は、俺ら冒険者より闇の住人だからまず接触手段がわかりにくいことと、情報料が高額である事だ。

 奴らは情報という目に見えないものを売りにしている以上、精度という信頼を失えば飯が食えなくなる。だからこちらもある程度は信頼して取引をすることができる。……ある程度だ。


 そして日が暮れたマニルカにある宿の一室で、四人の集めた情報の精査をした結果、とんでもない事実が判明した。


「リーダー、思っていた以上の収穫ですね」


「あぁ、帝都に行かなくてもこれだけやばい情報が手に入るとはな……」


「となれば……」


「長居は無用だな」


 諜報活動の性質上、表立って派手な動きはしていないつもりだが、必要十分な情報が集まった以上、ここに留まっている理由は皆無だ。

 いつ何処で俺らの行動が漏れているかもわからないからだ。

 そしてその情報の重要度によって、俺らの取る行動も変わってくる。


「では全員、ここで精査した内容を一字一句漏らさず書き写せ。そして各個で王国領まで抜けるんだ」


「「「了解」」」


 ここからは全員で行動するにはリスクが高い。誰か一人が情報を持ち帰ればいい。

 乗合馬車に紛れる者、山の中を越える者、一旦反対方面へ向かい大きく迂回する者、リスクを承知で早馬で駆ける者など全員が別々のルートで行動する。

 俺のルートは山越えだ。街道と並行するようにある山だが、追っ手の来る様子が見て取れるから幾分かは楽だ。

 しかし、魔物に遭遇するリスクもグンと上がる。この辺りの魔物は大した強さは無いが、危険な事には変わりはない。


 そう思い警戒しながら進んでいると、山の中からでも見下ろせる街道で、一台の馬車に異変が起きていた。

 乗合馬車だろうか、幌のついた馬車が横転している。馬は留め具が外れたのだろうか、周りに居いない。


(あれは……)


 そして馬車から離れた場所で剣を構えた冒険者が魔物に囲まれているが、その姿を見間違えるはずもない。俺のパーティーメンバーだ。

 俺は自分の背負った弓を準備して狙える所まで移動し射掛ける。


「こっちだ、一気に走れ!」


「リーダー!」


 俺の援護と姿を確認して一気に駆けてくる。

 その後を追ってくる魔物に対してニ射三射と撃ち、最後の一体は剣を抜き、入れ違いざまに両断する。


「大丈夫か?」


「リーダー助かったぜ。けど、悪い知らせもある……」


 そう言ってそいつの手に持った物を確認すると、見覚えのあるギルドカードを一枚持っていた。

 そのカードを確認すると、早馬で駆ける方法の奴のだった。


「これは?」


「襲ってきた魔物が持っていたから取り返した」


 やはりと言うか、俺たちの行動が帝国に漏れていたと考えて間違いないようだ。


「それで、馬車に乗り合わせた人や護衛の冒険者達は?」


「一般人は街の方へ逃したが、冒険者はダメだった。と言うか、この報告の通りだ、帝国の人体実験は相当な部分まで食い込んでいる。襲ってきた魔物の対処中に冒険者も魔物にヘンカ……しオレ……に襲いカカってき……た」


「そうか。お前自身は大丈……? これは!」


 そう言い切る前にメンバーの方を見ると、目は釣り上がり口は裂け牙を覗かせて腕は前脚のように変化し始め、人間からどんどん遠ざかり異形の魔物の様相に変化していった。


「オ、オレハ……グガガガガガガガ……ガァァッァァァ!!!」


「自分の食べ物以外を口にしたな?」


「サ、サケヲ………モラ……ッタ……」


 そう言うことか、その中に仕込まれたな?

 しかし、まだ意識はありそうだ。どうにか元に戻る方法とかは……


「コロシテ……クレ…………」


 何を言っている。意識があるのならまだ助かる見込みはあるんじゃ無いのか?


「ムリダ……モウ……モタナイ……オレガ……オレガヒトデアルウチニ……」


「馬鹿野郎! 弱音を吐く前に気合入れろ!」


「タノム……リーダー…………ヨメサント……ムスメサンノブンマデ…………生きてくれよ!!!」


「クソッタレが……!!!」


 叫びながら仲間の胸に剣を突き立てた。

 お互いに馬鹿野郎だ、泣きながら叫ぶ奴と剣を振るう奴が何処にいる。

 このパーティーだって俺が結婚した直後に解散になってもおかしくは無かったのに、何故かそのまま着いて来てくれて最後の最後にこんな貧乏くじまで引かせてしまって。

 けど、お前らの願い通り、俺は生きて生きて生き抜いてこの情報を王国に持って帰る。

 王国まで徒歩であと四日ほど。泥水をすすってでもやり遂げて見せる。

 そして、俺の手で国と街を守って見せる。



 帝国諜報活動報告書 

 一日目、街の噂程度に違法薬物が流れているとの話だった。これは裏でチンピラが回しているかと思われたが、根はもっと深いところにありそうだ。

 三日目、街のギルドで出会った地元の冒険者の話によれば、どうも楽に強くなれる薬があるらしい。しかし、値段も法外に高くて、入手困難だと言う。その話とは別に、最近行方不明になっている冒険者もいる様だ。行方不明の件は別としても、その薬の出所や目的が知りたい。

 七日目、どんでもない事実が発覚した。情報屋の話によると、その薬の出所は帝国による物らしい。何でも魔物の因子を使った薬らしく、服用すると魔物の力の強さや素早さ、硬さを手に入れる事ができると言う。しかもその因子の種類や量を変えて出しているらしく、効能は飲んでみるまで判らない。

 そしてそれを服用し過ぎると、因子の力が強すぎて魔物になってしまうと言われ、これが行方不明のきっかけになっていた。


 脱出三日目、助けた仲間が魔物に変化した。こうなる事を危惧して、移動中は自分が用意した物以外は口にしない事を厳命したが無理だった様だ。彼が人としての心を持っている最後の願いを聞き届けた。

 最後の一人のギルドカードを回収し、これでメンバーは俺一人になった。

 

 ここからは俺の私情で書く事を許して欲しい。

 死んでいる俺からこの報告書を見つけたら、最後の願いを聞き届けてほしい。

 王国南部のダームにいるリーナとミズナと言う母娘(おやこ)に『父は頑張った。すまない』とだけ伝えて欲しい。



 願わくば、俺が皆の魂を持って帰る事を……

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