瑞樹とダン
投稿が遅くなって申し訳ございません。
先週末、本職の方で熱中症にかかってしまい動けなくなっておりました。
今年は梅雨明けが遅い中、いきなりの高温にやられた格好となってしまいました。
皆様もこまめな水分補給や適切な体温調整など管理には気を配ってください。
「……戻ったか……一応聞いておこう」
夕方と言うには既に日が暮れて夜になろうと言う時間にギルド本部の執務室で依頼完了の報告で訪れると、その第一声は何故か含みのある物だった。
恐らく俺が失敗でもして泣きついてくるのを期待していたのだろうが、そうは行かない。
「そうですね、こんな具合です」
俺はギルマスの第一声に対しそれだけ言うと、マジックアイテムのポーチから抹殺対象の折れた剣、焼け焦げたギルドカード、切り取った髪、そして『焼けた首』を机の上にどんと置く。
それらを出した瞬間、髪と肌が焼ける何とも言われぬ臭いが部屋に充満した。
「うっっっ……」
俺は淡々と取り出しギルマスは目を細めるだけだけど、記録係で同席している女性職員は口元を押さえて走って出て行ってしまった。
それはそうだろう、俺のポーチの中は時を止める。『焼けた首』と言うのは文字通りだ。ギルマスの前で出したそれは、今でも多少燻っているくらいだからいつ収納したかは推して知るべしだ。
「お主も女なら少しは配慮したらどうだ?」
出て行ってしまった女性職員を目で追いながら呆れた声で言う。
まぁ確かに目を覆いたくなるくらいだ。実際に俺もこれをポーチに入れるのを躊躇ったし、そもそも焼くというのもどうかと思ったがこれもやむを得ない事だと思って割り切った。
「そう思われるなら、この依頼を女の私に振るのさえどうかと思うのですが? その配慮をなさらないギルマスにどうこう言われる筋合いはないと思うのですが」
「むぅ……そ、それでその首は対象のミューゼル・フォン・オルネイトの物で間違いないか?」
自分は女じゃ無いのかと非難めいた声で抗議する俺に対し、不利と判断したのか話を無理矢理すり替えてきた。
「えぇ、勢い余って焼いてしまいましたが、その戦闘で無事だった髪と所持品、そして判別が難しいですが頭部も切り取って持ってきました」
「や、焼いてしまっただと? 確かに所持品はあの女の物だろうが、なぜここまで焼く必要があった?」
それは聞かれるだろうと思った。
何せ顔立ちから女性だと思う程度で、それが本人だとわからない位に焼いてしまっているのだから疑われるのは無理もない。
けど、その材料も持ってきてある。
「なぜ? それはギルマスが選んだ見届け人のせいとでも言いましょうね……」
そう言って俺はもう一度ポーチに手を伸ばす。
さっきと同じ様に折れた剣、ギルドカード、そして今度は男と思われる焼けた頭部を机の上に置いてやった。
「こ、これはもしや……」
「そうです。ギルマスが選別した見届け人のイニアスです。私が依頼遂行中、最後の最後で裏切りこちらに刃を向けました。なのでミューゼルもろとも焼き払いました」
「そうか……それは手間をかけさせた」
「人選に不服を唱えるつもりはありませんが、今回の裏切り者の処分の件は不問として頂きたく思います」
「わかった……」
さすがのギルマスも机の上に焼けた頭部が二つも並んでは、目を逸らしながら返事をするしかなかった。
いや、俺もこんなのを二つもポーチに入れたくなかったし、ましてや目の前に出したくもなかった。
「ではこれで依頼は完了という事でよろしいですね?」
「その前に……ここ二日ほど貴様の周りに不審な輩はおらんかったか?」
「不審な? いえ、特にはいなかった気がしますが。それが何か?」
最後の最後でギルマスが俺に妙な質問をする。まぁその意図はわかるけど、そこはあえて惚けて見せる。
「そうか……ならこれで完遂だ。報酬は下で貰え……」
「ありがとうございます。では明後日また伺います」
俺はサインを貰って執務室を出て一階の受付へ向かった。
これで俺のやれる事は終わったし、本来の依頼の準備に入ればいいかな。
ーダンの独白ー
「ふぅ……」
俺は深くため息をつき天井を仰いだ……あれは女の皮を被った悪魔だ。
そもそも今回の依頼はちょっとした脅しのつもりで奴に振ったのだが、まさか本当にやってのけるとは……あまつさえ首だけ持って帰るなどと……いや、悪魔ですら生温いな。
今更な言い訳だが、本来はベルドス家の暗殺者が主導として我々冒険者ギルドから見届け人を出し、捜索依頼の出ているオルネイト家との帳尻を合わせる予定だった。
それを無理に言ってあの女に振った。最初に会った時からなかなか隙を見せない女だから、どこかで頭を押さえてやろうと思っていて押しつけたわけだ。
ハルトナのギルドマスターである俺の弟デンの推薦状や、二年前の事件の調査報告書を見る限りだと実力は折り紙付きだがそこは所詮魔物相手だ、生身の人間であれば詰めが甘くなると踏んでいた。そこを最終的にベルドス家の暗殺者が完遂して俺の耳に先に入れば主導権を握って操り人形にしてやる計画だったんだが……
しかし、現実はそううまくいかない、なんてものじゃ無い。むしろ想定外だ。
まさかオルネイトの娘の首のみならず、見届け人に同行させたイニアスと言う男まで殺すとは……
一度でも見知った人間ならば殺すのを戸惑うと思ったが、躊躇なく首を斬り落としているのは、例え焼けた首だとしてもその容赦の無さは伝わってくる。
デンの奴、あんなのをどうやって制御していたんだ……クソッ
そしていまだに机の上に並んだ二つの首。
奴に持っていけと言おうとしたが、遺品として遺族に送り届けなければならないから思いとどまった。
幸か不幸か、死んだ二人は家出娘と、貴族の末弟で爪弾き者だ。死んだ際の言い訳などどうにでもなる。
「……おい、いつまで廊下で立っているつもりだ? 早く入ってこんか!」
「はい…………ひぃぃ!!」
初めに出て行った記録係の女が、俺の机の上に並んだ二つの首を見て腰を抜かしてしまった。
一つで吐いたことを思えば、二つで腰が抜けただけと思えばマシな方か……
「この二つの遺体と遺品を家族の元へ送れ。文面は賊にでも襲われたと書いておけ」
「わ、わわわわわわわ私がですか⁉︎」
「誰でも構わん、すぐにかかれ」
「は、はぃぃぃ!!」
ただ箱に詰めて送るだけだから誰がやっても変わらん。
これでベルドス家の依頼とオルネイト家の捜索依頼の件は終わった。後は、帝国に行く五人を送り出すだけだ。
それまで少しだけ休ませて貰おう。
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