瑞樹とベリット達
前回投稿できなくてごめんなさい。
本業が忙しいのを言い訳にしたくはないのですが、なるべく頑張っていきます。
俺は王都から馬を走らせ真っ直ぐ南下する。
どこへ向かっているかと言うと、もちろんギルマスから受けたミューゼルの抹殺依頼のためにモール達を追いかけている。
計画の大部分を俺が立てたために、皆がどの辺りにいるかなどは把握済みだ。そもそもモール達が出発してから俺が追いかけ出すまでの時間は半日も経っていない。加えて向こうは荷馬車だけど、徒歩の護衛がいるから移動速度はお察しだ。
だからその日の夕方前にはモール達がいる一日目の宿場町に追い付いてしまったのだ。
流石は馬、この世界で最も一般的な移動手段だ。
そして、そんな一般的な手段の割に俺は一人で馬に乗れなかったりする。さっきから格好いい事を言っているが、全部二人乗りでの出来事だ。
宿場町の少し前で馬を降りて徒歩で町に入る。
「瑞樹、今夜の宿はどうする?」
「そうですね、対象の一行は大きめの宿に泊まっていそうですし、私達は安めの宿で大丈夫そうですね」
「わかった、馬を預けれる安い宿を探そう」
俺と話しているのはイニアスと言う男で、この依頼の見届け人で同行している。
この顔と名前はどこかで聞いたことがあると思えば、王都に初めて来たときにミューゼルに訓練場で一方的にやられていた奴だ。
そして、オルネイト家に訪ねた際に出て来た話題の男だ。
初めに訓練場で会ったときに、婚約者を殺したとか言ってたのはこの事だとこの時理解した。
けど、ミューゼル抹殺を因縁のある男に見届け人をさせるとはギルマスは心底陰険な奴だな。
でもイニアスが何を思ってこの依頼を受けたのかはわからない。出発前に挨拶と少しだけ会話をしても、全て事務的な事しか答えてくれなかった。
「イニアスさん、明日は対象の一行が出発をする前にここを出て、街道の外れで待ち伏せをします。それと無用な殺生を避けるためにそれ以外は無力化させるだけに留めます」
「わかった、では早朝ここに集合で」
そう言ってイニアスは自分が用意した宿の一階で素っ気ない返事だけをして部屋に入ってしまった。
あいつの体が細いのは、晩ご飯を三食きちんと食べないせいじゃなかろうか? そう思いながら、俺も簡素な晩ご飯を食堂でいただき明日の早朝に備えて早めに二階の部屋に篭った。
「来たか、行くぞ……」
早朝、眠い目を擦りながら一階へ降りると既にイニアスが準備万端で待ち構えていて、さっさと厩舎に向かって行った。
宿場町をハルトナ方向へ出て少し、広い街道の見晴らしの良いところでモール達が来るのを待つ。
まだ朝日が登り始めたばかりだから来るのはもう暫くかかるだろう。
朝食を取らずに宿場町を出た俺は、冒険者御用達の非常食を食べながらイニアスにずっと引っかかっていた疑問をぶつけた。
「イニアスさん、聞きたいことがあるんですが構いませんか?」
「何だ?」
「私、この依頼を受ける前に事前調査をしていたら、偶然あなたの事情を知ることになりました。でも私の聞いた内容は、あなたを庇って亡くなったと聞いています。しかし、あなた自身は自分が殺したと言っていますけど……」
俺はイニアスの様子を伺うように聞いた。聞き方によっては相手を傷つけるか、不快にさせてしまうからだ。内容がデリケートすぎるが、どうにも腑に落ちない事があって我慢できなかったのだ。
「いや、あれは俺が殺したんだ」
「詳しく聞いても?」
「あぁ、俺とサンティアは貴族ではあるが、継承権としては低くてな。故に他で食っていける手段も必要だからと言って冒険者としての修行もしていた。そしてランク『E』になって討伐依頼も受けれる様になって暫く……それがちょうど半年前だ。俺のいとこのミューゼルが先にランク『D』に上がったのを見て焦ったサンティアが、俺たち二人じゃ厳しい依頼を受けて一気に上がろうと言って来たんだ。俺は止めた……けど、逆にミューゼルは煽ったんだ……」
「それを止めれなかったと……?」
「あぁ、あそこで無理にでも止めていれば。ミューゼルを諫めていれば、サンティアも思い留めてくれていたかもしれない……」
事情はわかった。
けど、言い方は悪いけど、討伐依頼を受けれる様なランクだと自己責任の部分が大きいよな。
ミューゼルも無用に煽らなければとは思うけど……けど……
「今回の依頼内容は解ってて受けたのですよね?」
「あぁ、解っている」
「まさかこれが敵討ちになると思っていませんよね……?」
「依頼が終わったら、自分で後を追うつもりだ。お前には迷惑をかけない」
いや、そんな事される時点で迷惑なんだけど……
イニアスは初めて会った時から、この台詞を言う瞬間までずっと同じ目をしている。
恐らくこの時をずっと待っていたんだろう。
そして俺が落とし所を提案しようとした時、イニアスが俺の台詞を手で制する。
「来たぞ、あの荷馬車だな」
言われて顔を向けると、大きめな荷馬車の周囲にアレンやマリン、ケニーの他に『雀の涙』の一行が確認できた。護衛対象のミューゼルは当然荷馬車の中だから、ここからは確認できない。
顔見知り同士での依頼は連携が取りやすくてアレンたちにも勉強になるとは思うけど、今回は俺が敵になると言う事はきっと想像にも思わないだろう。
「じゃあ私は依頼を行いますので、見届けをお願いしますね」
「わかった……」
俺は振り返らずに背中からの声を受け取ると、街道をゆっくり進む荷馬車の向かって歩き出す。
早朝でまだ誰も往来しない時間帯に正面から歩いてくる俺を『雀の涙』のメンバーだけじゃなくアレン達も視認すると誰ともなく声をかけ、駆け寄ろうとする。
「待てアレン! ……モールさん!」
「わかりました……」
いち早く気付いたベリットがアレン達やモールの荷馬車を制止させる。
さすがはベテラン、俺が腰の刀に手をかけ、いつでも抜刀できる状態に気づいていたようだ。
「ベリットさん……?」
「アレン、それ以上前に行くなよ? 瑞樹、こんな所にまで来た用件を聞いていいか?」
「さすがはベリットさんです。あなたなら私が来た用件と言うのは察しがつくんじゃないのですか?」
止められたベリットの顔に汗がびっしりとまとわりついているのを見たアレン達は、今この場で起きている事が尋常で無いことを悟ったようだ。
「御託はいい、聞いているのは俺だ。知っての通りハルトナへ向かう道すがらだ、素直に通してくれるか?」
俺が惚けて返答する姿に苛立ちながら探りを入れてくる。
けど、ベリットが一番わかっている事だろう、俺の手が一向に刀から離れない事を。
そして俺の次の言葉で俺が本気だって言う事を解らせる。
「それは無理ですね。指名依頼で追加依頼をされまして…………ミューゼルさんの御首をいただきに参りました」
その言葉と同時にベリット達に向かって殺気を迸らせる。
幾つもの依頼をくぐり抜けてきたベリット達は顔をしかめはするものの、各々が自分たちの武器を構え出した。
けど、アレン達は違った。俺自身が計画したのに、目の前に立ち塞がっていて殺気を放っている事にパニックを起こしていた。
「ど、どう言う事なの……? 瑞樹? 何が起きているの?」
「ッチ、嫌な予感が当っちまった!」
「ぼけっとしている場合じゃないぞ! 武器を構えろ、来るぞ!」




