依頼
再び瑞樹の視点に戻ります
「お主、オルネイト家の三女の行方を知らんか?」
集合日当日の朝、早めにギルドに到着した俺はそのままギルマスに指名依頼のための面会を希望すると、あっさりとお目通りが叶った。
てっきり全員揃うまでラウンジあたりで待たされるかと思ったんだけど、会ってみれば開口一番でさっきの言葉だ。
「二日前に訓練場で見た金髪の娘ですよね? あの日依頼会っていませんのでわかりませんね。どうかいたしましたか?」
「昨日、屋敷からいなくなったらしくてな」
「冒険者なんですから一日二日いなくなった所で問題無いのでは?」
「そうも言ってられない、オルネイト家から正式な捜索依頼が入ってな。あの三女がいなくなる少し前に、貴族の娘二人とその護衛三人が訪ねて来たらしくてな。その少し後にいなくなったと依頼書に書いてあった。それとあやつは既に元冒険者だ」
細かいなぁ……
まぁ俺にこの話を聞かせた理由がよくわからんけど、現状で聞く限りだと無事に脱出はできた様だな。
質問には嘘は言っていないから問題もない。
「それで、何故私にこの話を聞かせたのでしょう?」
大方の予想はつくけど、あえて聞いてみる。
「とぼけるなよ? 貴様、オルネイトの三女の逃亡の手引きをしただろう? オルネイト邸に尋ねた護衛の三人がこの間見た貴様の仲間なんだろう。 どうやって逃したかは知らんが、これは誘拐と同義であり重罪だぞ?」
ほら来た、そう聞かれる事は予想済みなんだよ。けどここはあえてしらを切り通す。
そうしないと逃した意味がない。
「とぼけるも何も、先ほど言った様にあの日以来会っていないのでわかりません。しかも先ほどから仰っている限りでは全て憶測ですよね?」
「あぁ、そうだな。ならその憶測であとで貴様に頼み事をするとしよう」
コンコンッ
その言葉が終わると同時に執務室のドアをノックする音が聞こえる。どうやら話に夢中になってしまった様で既に俺以外の調査に参加する人員が集まっていた様だ。
「失礼します。瑞樹さん以外の方が全員集まりました」
「わかった、中に入れろ」
そう言われて入ってきたのは男女含めて四人だけど、全員例に漏れず非常に煌びやかな装備品を身に纏っていた。
因みに内訳は、依頼元の王国からは騎士団所属の騎士の男二人で、冒険者側からは軽装で細身の男一人と純白のローブを纏った美人さんだ。
「これで揃ったな、貴様らが何故呼ばれたのかは理解していると思うが、初めから説明する。王国からの依頼で、王国南側に位置するバルダ帝国の偵察を行う。主な内容は、二年前のハルトナの事件で起きた転移魔法陣の実態調査と同時に帝国の軍事調査だ。それにはまずはハルトナのさらに南に位置する城塞都市へ行き向こうのギルドに顔を出せ。先触れは出しているから行けばわかる。何か聞きたい事はあるか?」
「はい、何故向こうのギルドへ寄らなければいけないのですか? そのまま帝国領へは入れないのですか?」
俺は素直な疑問をぶつけた。指名依頼の内容はハルトナにいる時に既に聞いていた内容とほぼ同じだ。しかし、ギルドに行く理由がわからなかった。そして俺の質問に対する他の四人の反応は真っ二つだった。
冒険者の二人は同じ疑問を持っていたのか素直に頷いたが、騎士団の二人はそんな事も知らないのかと言いたそうな顔だ。
いや、言いたそうじゃなくて騎士団の一人が俺を見下ろす様に先の質問に答えてきた。
「はん、そんな事もわからないのか。帝国とは常に緊張状態だからな、例え自由業である冒険者と言えど依頼でもない限り無断で国境を越える事はできない。国境で身分確認をされるからな。その位の情勢は調べておきな!」
上から目線の物言いはスルーするとして、要するに用も無いのに渡ってくるなと言う事か。まぁ帝国に入れれば何でもいいけど、そうなるとさらに疑問が湧く。
「はぁなる程、国境で身分確認を取られるんですよね? じゃあ騎士団の二人は冒険者でも無いのにどうやって帝国領に入るんですか?」
「………………ギルマスよ、冒険者証をどうにかならんか?」
俺に情勢がどうとか言っていた割には国境を越える術を持っていなかったと言う事か。見下しながらのドヤ顔で、更に他人に泣きついてくるとか情けないにも程があるな……大丈夫かこの作戦。
「バカどもめ、今回の作戦は最低でもランク『D』が必要だ。騎士団で持っている奴と交代するか、今から発行して明後日までに『D』に上げる事だな。因みに最初は『G』だ」
ギルマスがそれだけ言うと、騎士団の二人は慌てて一階のカウンターへ走って行ってしまた。
今から依頼を受けまくって、明後日までに『D』まで上げれるのか? まぁ無理なら交代が来るだろう。
「出発は明後日の早朝、場所はギルド本部前だ。それまでに荷物の準備をしておけ、以上だ」
それだけ言うと、残りの冒険者二人も追い出して、再び俺と二人だけになった。
「さて、さっきの話の続きだ。貴様の言い方だと、オルネイトの三女との接点は全く無いと言う事で間違いないな?」
「えぇ、そう言うことになりますね」
「ならば良かろう、さっきも言ったが貴様にオルネイト家の三女、ミューゼル・フォン・オルネイトの抹殺を依頼する」
いまいちギルマスの考えが読みにくいなと思った矢先、とんでもない事を口走った。
ミューゼルの抹殺だと⁉︎
「ギルマス、その依頼主はオルネイト家ではありませんよね? 先ほど捜索依頼が出ていると言っていたので。では抹殺の依頼は誰なんですか?」
「それは言えん……が、オルネイト家では無いと言うことだけは確かだな」
俺が低い声で慎重に質問すると、ギルマスもそれに反応する様に言葉少なめに答えた。
捜索依頼を受けたにも関わらず、抹殺依頼まで受けるってどう言うことだ? これだとどちらかの依頼が必ず失敗することになってしまう……しかし、それはギルドとしての話だ。
本命はミューゼルが命を狙われる理由だ。夕食会以降、全てをアレン達に任せてしまったから、そこからの情報が全く更新されていない。
しかし、現状そう言う依頼が来ていると言うことが事実だ。なら俺が出来るのは一つだけだ。
「…………わかりました、その依頼受けます。探し出して殺せばいいと言うことですね?」
「そう言うことだ、詳しい事はこの依頼書に書いてある。目を通した後にカウンターへ持って行け」
「わかりました、失礼します」
そう言って俺は依頼書をポーチに入れ、カウンターを通らずに外へ出てある場所に向かった。
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