予想外の者
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「お疲れ様です。まさかベリットさん達が護衛に付いているとは思いませんでした」
「おう、ありがとう。まぁモールさんの所の護衛に付けたのは狙っている部分もあったんだがな。けど、そっちのミューゼル様の追加依頼の方は完全に予測不能だったぞ」
「そうでしょね。けど、俺としてはどこの誰と知らない冒険者に護衛されるよりも、ベリットさんで良かったと思っています」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。これはハルトナに戻ったら、一層しごいてやらんとな!」
「最近は俺も強くなっているんですよ。早々にやられたりはしません!」
「はいはい、脳筋バカな語りはその辺りにして話を進めるわよ」
アレンとベリットは、お互いを労いながら脳筋な語り合いをしていたが、ユミルがこれ以上話されたら終わらなくなると悟り間に割って入った。
無事に合流を果たしたベリット達は、宿場町の大きめな宿屋の一室に集まっていた。
流石に二つのパーティープラスミューゼルの計九人も部屋には入れないから、ここにはベリットとアレン、それに止めに入ったユミルと頭脳役のマルト、そして追加の護衛対象であるミューゼルがいた。
残りの三人は一階の食堂で先に夕食をいただいていた。
「ではアレン君から事の成り行きと、僕達と合流するまでの出来事を話してもらって良いかな? それから僕達が王都でモールさん達から依頼を受けてアレン君達と合流するまでの流れを話す。お互いの情報の擦り合わせで、今後の流れを予想しておきたいからだよ」
マルトから経緯の説明を求められる。無論モールからも話を聞いているが、当事者の一人であるアレンから生の声で聞いた方がより整合性が高められるからだ。
「わかりました」
「私達の馴れ初めですわね?」
「ちょっと違うぞ」
「いや、全く違うから……」
たった一日だが、アレンに再び出会えた感激に違う方向へ行ってしまいそうになるのをユミルが軌道修正する。
そして、アレンとミューゼルが二人で今日ベリット達と出会うまでの出来事や、瑞樹が王都を出るまでの作戦を考えてくれたことを話した。
「瑞樹さんが、ですか。指名依頼中なのに負担をかけてしまいましたね」
「けど、王都を出て来れたんだし、これで大丈夫よね?」
「いえ、警戒は必要でしょう。ミューゼル様については、ハルトナに到着するまで荷台の一番前で目立たない様にしていて下さい」
「しょうがないですわね。ここで見つかっては元も子も無いですし、護衛対象の身として指示に従いましょう」
元冒険者という事から、護衛対象が自分勝手な事をされるのを嫌うのは判っているためにミューゼルもマルトの意見に頷いた。無論、アレンもこの指示には賛成だ。
「ベリットさん、明日からは俺も護衛として動きます。モールさんにも許可は貰いました。何か指示をもらえたら嬉しいです」
アレン達は乗合馬車で一日早く出発し、時間差で合流したのは何もかも任せきりにしたく無いためだ。
自分たちが起こしたトラブルで、自分達だけが無責任にハルトナに到着するわけにはいかないと言う責任感と使命感だ。この案にマリンもケニーも賛同していた。
「いい覚悟だ。モールさんの大型の荷馬車に対して四人での護衛はギリギリの数だったんだ。だが、お前ら三人が入れば十分過ぎる数になるだろう。配置については明日の朝に指示する。ハルトナに着くまで気を抜くんじゃ無いぞ」
「はい、よろしくお願いします! けど、モールさんには依頼料はいらないと言ったのに、出して貰う事になったのは恐縮な所ですが……」
そう、アレン達が合流するのは作戦上決まったこととは言え、荷馬車一台で七人の護衛は過剰とも言える人数だった。その為、アレンは事前に自分達の分は必要ないと言っていたのだが、モールは依頼料を出すと言ってくれたのだ。
「そんなの簡単な話よ。モールさんならきっとこう言うわね『これは先行投資です』ってね!」
「ははははは、違いない! 確かに言いそうだ」
「あの方なら確かに言いそうですね」
ユミルの物真似に全員が納得の意見だ。唯一その事がわからないミューゼルだけが少しだけ頬を膨らませるが、それをアレンが頭に手を置いて宥める。
「さて、ミュー。一階の食堂で晩ご飯を食べようか。明日からまた長くなる」
「はい!」
「はっっっくしょん!!」
「ちょっと、モールさん汚いですよ! 私のご飯にかかるじゃないですか!」
「本当です、風邪でも引きましたか?」
「うむ、気をつけていただかないと」
モールの突然のくしゃみに全員から非難を浴びせられる。
職業柄と言うわけじゃないが、旅の道中に病気にかからない様に健康には気を使っているのだが、なぜか突然くしゃみが出てしまった。
「風邪……と言うわけでもありませんんし、誰かが噂でもしているんでしょうか?」
「浮いた話すら無いモールさんを誰が噂するんですか?」
「余計なお世話ですよ……」
「はははは!」
二階でモールの話が出ている事など全く気づかずに食事を摂る残りの面々は、この後本当に浮いた話がないのか根掘り葉掘り聞いたがその内容はまた別の機会に。
次の日の朝、全員は宿場町の来た方向とは反対側の門の前に集まっていた。
「よし、先頭は俺、馬車の両側をマルトはケニーと、ユミルはマリンとそれぞれ組んでくれ、そして後方をガリュウとアレンだ。ハルトナに着くまではこの依頼の統括は俺がするからそのつもりでな」
「「「はい!」」」
『エレミス』の三人が元気よく返事し、それぞれのペアの先輩に挨拶をする。
そして御者台にいるモールとカナン。荷台に乗るミューゼルと、全員がいる事を確認してハルトナへの旅が再び始まる。
しかし、出発してすぐに、見知った人物と知らない人物の二人が立ち塞がっていた。
「瑞樹じゃないか、どうしたんだこんな所で。ひょっとして見送りか?」
遠くからでも見えた瑞樹をアレン達は駆け寄って行こうとした所でベリットに止められる。
「待て、アレン! ……モールさん」
「わかりました……」
ベテラン勢である『雀の涙』の四人は、瑞樹の雰囲気がいつもと違う事を見逃さなかった。ベリット達に全幅の信頼を置くモールも、呼ばれた意図を汲んですぐに馬車を止めた。
止められたアレンは未だベリット達がなぜ緊張しているか解らずにいるが、リーダーをベリットに任せている以上指示には従った。
「ベリットさん、瑞樹がどうかしたので……?」
止められた事の疑問を問おうとしたアレンだが、真横にいるベリットを見て最後まで言葉が言えなかった。
そのベリットの額には汗がびっしりとかいており、手こそ剣にかけないものの体は半身になっていつでも動ける態勢をとっていた。
「お前は動くな。……瑞樹、こんな所にまで来た用件を聞いていいか……?」
「さすがはベリットさんです。私がここに立っているだけで何となくでも意図を読んでいるのでしょうか?」
ベリットの問いかけに関心すれこそ、その内容にはあまり興味が無さげだ。
「御託はいい、聞いているのは俺だ。知っての通りハルトナへ向かう道すがらだ、素直に通してくれるか?」
「それは無理ですね。指名依頼で追加依頼をされまして…………ミューゼルさんの御首をいただきに参りました」
その言葉を発した瞬間、瑞樹から信じられない程の殺気が迸ってきた。
「ッチ、嫌な予感が当っちまった!」
それを予想していたかの様なベリットの独り言は、誰の耳にも届いていなかった。
「全員、武器を構えろ! 来るぞ!」




