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ほんっとにもう!

「瑞樹さん!」


 翌朝、巡回警備の依頼の為、守衛本部に向かう途中で昨日知り合ったアレンとマリンに出会った。


「瑞樹さんもひょっとして巡回警備の依頼に?」


 なる程、守衛本部まではもうすぐ。

 このタイミングで出会うということは、同じ依頼なんだろう。

 

「おはようございます。昨日はありがとうございました!」


 マリンが元気に挨拶をして来たところを見ると、昨日の出来事を引きずっていない様で安心した。

 むしろ、その後のお肉の配分で、昨日と今日のご飯が賑わった事に家族が感謝していたそうだ。

 まぁあの状況で独り占めは、後味悪すぎでしょ。


「冒険者の諸君おはよう。今日もよろしく頼む!」


 巡回の責任者らしき人が叫ぶ。

 毎日恒例なのだろう、手際よく班を組んで担当区画も割り振った。


「えへへ、瑞樹さんよろしくお願いしますね」


「よろしくな、瑞樹」


「フンっ、よろしく……」


 俺たちの班は、アレンとマリンそして初顔のケリーと言う、ちょっと無愛想っぽい男の子だった。

 ただ、先の二人はケリーの事を知っているらしく、少し苦手そうな顔をしていた。


「ケリー君はそんな悪い人ではないんですけど、ちょっと怒りっぽくて……」


 マリンが近くでこっそり打ち明けてくる。

 短気なのか?


「何をしている? 俺達の担当は向こうだ。さっさと行くぞ!」


 ケリーが苛立ち気に促す。

 まぁ他の班も向かった事だし、俺たちも行こうか。


「瑞樹と言います。今日はよろしくお願いします」


 俺も挨拶すると、ケリーの横に並んで歩き出した。

 班の中でもマンツーマンにしてアレンとマリンで組んでもらう。

 流石に、ケリーの事を知る二人には任せられないからな。


「で、お前のランクは?」


「ランク? 『G』ですけど?」


 そう言った瞬間にケリーが鼻で笑う。

 何がおかしかったのだろう? この依頼を受けるのには問題はなかったはずだが?


「最低ランクかよ! よくそんなんで来れたな、街の警備舐めてないか?」


 街の警備預かるのにランクは関係無いと思うが、実力を疑われているのかな?


「確かに依頼適正は『E』です。ですが、街の中であれば『G』でも問題ないはずです。それに、実力もギルドに認めて頂いていますので」


「単に武器が良いだけじゃないのか?」


 そう言って俺の刀を見る。

 まぁ確かにちょっと派手だと思う。

 漆塗りがほぼ白いから目立つわな。


「いや、瑞樹さんは確かに強いぞ。昨日、丘の上でオークを一撃で仕留めたからな」


「はい、私もそれで助けられました」


 俺の背後から声がかかり、援護してくれる。


「それこそ、その武器の性能じゃないのか?」


 まぁ見てない人に言ったところで、納得しないよな。

 その辺りは追々知ってもらう事にして、曖昧な返事で返した。



 朝市の賑わう露店でいろいろ見て回りながら時折目を光らす。

 露店商の人達も、巡回用の腕章を着けた俺達を見て声をかけてくれる。

 アレン達も顔馴染みなのだろう、笑顔で返すのを見て、俺もそれに習う。


「今日は別嬪さんも一緒か! 差し入れだ、持っていけ!」


 そう言いながら美味しそうな果物を渡してくる。

 笑顔を向けるだけで差し入れとは、役得感を感じるな。


「おじさん、それは私に失礼です! バツとして、もう一品(ひとしな)くださいね!」


 マリンは、頬を膨らませながら抗議する。

 おじさんも「マリンちゃんには敵わないな」とか言いながら差し出す。

 そう言いながら、初めから手に持っていた辺り、見越していたのだろう。

 おじさんの方が一枚上手だ。


 朝市をぐるっと一回りする頃には仕入れや買い物客も疎らになり、俺たちも噴水脇で一息入れる。

 そこで、先程差し入れで貰った果物を皆で分けたのだが、ケリーは受け取るだけで口には付けなかった。


「嫌いな物でしたら交換しますよ?」


「いや、今はお腹が空いてないだけだ」


 まぁ一人一個の配分はあるから好きにすれば良いけど。いや、余分に貰ったっ人もいたっけ。

 そう言って一息入れている最中に事件は起きる。


「引ったくりだ!」


 路地裏で声が響く。

 近道をしようとした通行人によると、後ろから荷物を取られてそのまま奥へ逃げたらしい。

 この路地は複雑ではあるが、反対の通りに抜けるには一本しかないと言う。

 と言うことは、裏路地に詳しい奴の犯行か。


「俺が追いかけよう」


「ケリー頼んだ!」


 俺はケリーと先行し、犯人を追いかける。

 しかし、幾つかの分かれ道を進んだ辺りで立ち止まった。


「どうしました?」


「…………すまん、迷った」


 うそん。

 迷わず進んでいるから、てっきりこの辺りのことを知っているのかと思ったんだけど、実はそうでも無かったのか?

 これ以上無理に進んでもドツボに嵌るし、厳しいかな。


「おーい……」


 そう思っている時に、遠くでアレンの声が聞こえる。

 俺はそれに答える形で呼び返すと、二人とも真っ直ぐこっちまで来た。


「ごめんなさい。途中で迷ってしまって、逃してしまいました」


 俺が被害者に頭を下げると、苦笑いしながら何とか許して貰えた。

 買い物の中身はそこまで大した物では無かったらしいのだが、それでも被害を出してしまった事には変わりなく、次はこんな事がないようにと、全員で頭を下げ、本部に報告する事にした。


「しかし、ケリーが裏通りで迷うなんて珍しいな」


「そうなんですか?」


 一通りの報告と書類を書いた後、今日は午前中で解散となり、昼からは三人とも別の依頼に行くそうだ。

 初めにケリーと別れ、三人で移動中にアレンが呟いた。


「実はあいつと俺は同じ孤児院出身なんだよ。見ての通り嫌味な奴なんだけど、仕事は熱心な奴なんだよな」


 それで見失った時にあんなに思い詰めた顔してたのか。

 思い詰めた顔? 何か引っかかる……けどわからないなぁ。


「よぉ瑞樹じゃないか。巡回の依頼でもして来たのか?」


 正面から歩いて来たのは、『雀の涙』の一行だ。

 だからパーティー名……

 ベリットの呼びかけに笑顔で応えると、ユミルが駆け寄って来た。


「瑞樹っちゃ〜ん! げんきにしてた? 今日から暫くの間、街の外の依頼は受けれないから気をつけてね?」


 どうやら俺が倒した逸れオークの件でメリッサが上司に相談したら、幾つかのパーティーに指名調査依頼が入ったらしい。

 そのうちの一つがベリット達だった。

 要するに、その調査報告の精査が終わるまで、ランクの低い俺らは街の外へ出歩くなと言う事か。

 まぁこればかりはしょうがない。中で出来る依頼でも見繕うかね。


「瑞樹さん、あの方々と知り合いなんですか? 凄いです!」


 ベリット達と別れた後、マリンが感動したようにはしゃいでいた。


「凄いのですか?」


「当たり前だろ? 『雀の涙』は今はランク『C』だけど、あと数年で『B』は確実と言われるほどの凄いパーティーなんだぞ?」


 ベリットやワイズのやり取りを見る限りでは、全くそんな感じに見えないんだけどねぇ。

 でも二人の目にはきっと、将来はあんな風になりたいと言う感じが見て取れるな。

 まぁ余計な事を言って夢を壊したら可哀想だしね。

 それに、知らなくても良い事だってあるよな。


 そんな二人の夢を壊さないように別れて、一旦宿に戻ると、店主のドリュウさんが出迎えてくれた。


「お、瑞樹さん。荷物が届いていますよ! 部屋に運んでおきましたから!」


 荷物? 何か注文したか思い出してみるが、心当たりがないな。

 そう思って部屋に戻ってみたら、荷物と共に手紙が添えてあった。


『荷物はギルドではなく、宿の方へ送らせてもらいました。私の機転に感謝してくださいね〜。あと今の瑞樹君に似合うと思って、デザインを変えてみました。気に入ってくれますか?』


 うん、確かに直接宿の方へ送ってくれたのは嬉しいけど、このピンクの鞄を持っていけと言うのはハードル高いぞ!

 ほんっと! 余計な事しかしないな!

 


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