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脱出!

随分と遅れて申し訳ありません。

「出て行って下さい!! 顔も見たくもありませんわ!! 早く出て行って下さい!!」


 アレン達五人が入室して暫く経った後、突然ミューゼルの怒声が部屋の外まで届いていた。

 何事かと、使用人達も入室を禁じられた部屋の前でオロオロするばかだったが、そのすぐ直後に扉が開きアレン達が出てきた。


「ベスティ様、お嬢様は……」


「ごめんなさい。暫くはそのままにしてあげて下さいませんか? 気分が晴れれば、ご自分から出てくると思いますので……」


「そうですか、承知いたしました。せっかく訪ねてきてくださったのに、何もおもてなし出来ずにすみませんでした……」


「いえ、こちらこそ。力になれずに申し訳ないわね」


 ベスティと使用人が互いに言葉を掛け合っていると、どこからか聞きつけた執事も現れた。


「ベスティ様、コリン様。…………門までお送りいたします」


 一言だけそう言うと、執事自ら一同を門まで案内してくれた。その間、お互いに一度も声を発することはなかった。

 執事というのは言わばオルネイト家当主の腹心、当主が屋敷に不在の間は執事が代理として任されているのである。

 この人には計画がバレてはならないと、全員が慎重なのだ。


「外に馬車を待たせてあります。御者には大通りの近くまで送って行く様に言ってありますので、ご安心ください」


「え……?」


 玄関扉を開けると、目の前には少し地味目な馬車が待ち構えていた。恐らく、使用人などが遠方へ買い付けなどに行く時のためだろう。

 御者が馬車を扉を開けて乗車を促しているが、ベスティ達は驚きを隠せないまま執事の方を見て固まっているままだ。


「皆さん、ここからは時間との勝負ですよ。お急ぎください……」


「執事さん、貴方は……」


「何も言ってはいけません。私も貴方達も何も知らないままです」


「貴方は…………皆さん乗りましょう」


 ベスティの言葉で全員意識を戻すと、口々に執事にお礼を行って乗り込む。


「ささ、護衛の皆さんも……」


 アレン、ケニーと順番に乗り込み、マリンもそれに続くが執事の前に来ると、フードを被ったまま深々と頭を下げる。何かを言いたそうだけど、その両手はローブの裾をぐっと握り締めて、肩を震わせながら馬車に乗り込んだ。

 そして全員が乗り込んだ事を確認すると、執事は御者に出発する様促し先を急がせた。


(…………お嬢様、どうかご無事で)







「ヨーゼフ…………」


「それがあの執事の名前か?」


 フードの奥からの呟きにアレンが反応を見せると、ポツリポツリと幼少の頃を語り出した。


「お爺様の代からの執事で、私が産まれてからも常に側にいて下さいました。少々厳しい所もございましたが、お父様に叱られた時は必ずヨーゼフが慰めて下さいました。恐ら、く皆さんが訪ねて来られたときからわかっていたんだと思います……」


 そう言うと、フードを脱ぎ懐から出したハンカチで涙を拭った。


「ミュー様にとってとても大事で、信頼のおける方でしたのね」


 そう、今ここに居るのはマリンでは無く、屋敷にいるはずのミューゼルだ。



 ミューゼルが自分の意思を伝えた瞬間、アレン達は手早く行動に移した。

 マリンが自分の着ているローブを脱ぎながら経緯を話す。

 もちろんその間アレンとケニーは部屋の隅で壁に向かって立たされていた。


「もし一緒に行くと決まったら真っ先に貴方をのこ屋敷から逃す手筈なんだよ。その為には誰も見ていない今が最大のチャンスなんだから」


 そしてミューゼルのドレスを脱がせて交換し、特徴的な髪型の縦巻きロールを後ろで纏めて最後にフードを目深に被せて目立たなくさせた。


「へへへ、こう言うドレス一度着てみたかったんだぁ」


「……馬子にも衣装だな」


「なにをぅ⁉︎」


「と言うか、マリンは着なくていいんだぞ?」


「良いじゃん、一度くらい」


「時間があまり無いから早くしてくれ」


「はぁーい」


 マリンがラフな格好に再び着替えると、そのままミューゼルの案内で隣の寝室に案内されて準備完了だ。


「マリンはそのまま布団に暫く隠れていてくれ」


「このベット凄い! このままぐっすり寝れそう!」


「寝たら全員の首が飛ぶと思ってくれ」


「アレン、私頑張るよ!」


 マリンのその言葉を最後にして私室に戻ると、手順で示した通り喧嘩を装ってそのまま屋敷を出る事に成功した。


「アレン様、マリンさんはこの後どうするのでしょうか?」


 ミューゼルの心配事と言えば、この後の追手もそうだが、寝室で身代わりとなっているマリンのことが気にかかっている様だ。

 自分が放った一言は後悔してないが、そのせいでアレンの仲間が置き去りになってしまっている事が引っかかる様だ。


「一応、脱出できる様なアイテムを持たせているけど、上手くいくかはマリン次第だな」




「皆様方、到着いたしました」


 いつの間にか馬車は大通りから一本外れた筋路(すじみち)に止まり、御者から声がかかり扉が開く。

 一人ずつお礼を言うと、御者は無言で一礼をしてそのまま去ってしまった。去り際にギルドの場所を聞くと、すぐ近くだと言うから恐らくそれを見越しての降ろし場所だったんだろう。


 降りてベスティとコリンを中心にして囲うように歩くが、実際はアレンが先頭で行き先を決めて歩いている。


「アレン様、このまま乗り合い発着所に行くのですか?」


「いや、ここからもう一工夫するんだよ。うちのパーティーリーダーは二重三重と保険を掛けているんだよ」


 この場ではミューゼルだけが行き先を知らず、自分は乗合馬車で脱出するものだと思っているが、不安だけが募り思わずアレンに声をかけた。


「あの瑞樹さんと言う方ですよね……?」


「あぁ、うちの頼りになるリーダーさ。瑞樹がどうかしたのか?」


「いえ、ひょっとしてアレン様の想い人なのではと……」


「…………え? いやいやいやいやいや!」


 アレンは一瞬何を言っているのかわからなかったが、ミューゼルの言葉の意味を理解すると即座に否定に入った。

 思わず聞いてしまったミューゼルもアレンの反応を見て安堵した。


「違うのですね、それを聞いて安心しました。瑞樹さんは格好は地味ですが、あの年であの美しさは反則ですわ」


「ま、まぁ俺も初めて会った時は、それなりにドキドキしたけどな。けど、それだけだ。どちらかと言えば、頼りになるリーダーだな。ちなみに身代わりになっているマリンも幼馴染ってだけだからな?」


 あの格好が地味なのかと、瑞樹のスカートの短さを思い出して言葉を詰まらせるも、今はそう言う対象じゃ無くリーダーとしての瑞樹を評価して返答した。


「次に会った時に色々お話ししたいですわね」


「そうだな、俺達もミューの事を色々聞いたみたいしな。っと着いたぞ」


 そう言って前を歩いていたアレンは一軒の店の前に立ち止まり、ミューゼル達を中に招き入れた。


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