アレン達の行動
「こんにちは、モールさんはいますか?」
「おや、瑞樹さんじゃないですか。指名依頼の方は順調ですか?」
その日の午後、俺はアレン達とは別行動でモール商会へ尋ねた。
「明後日にもう一度集合が掛かっていますので、もう少しだけのんびりですね。モールさんの戻りの出発も明後日でしたっけ?」
「そうですね。仕入れも明日で完了しますので、あとは荷馬車への積み込みだけですね。瑞樹さんも何か送って欲しい荷物などありましたらサービスしますよ」
確かに、無事に着いた一報と王都のちょっとしたお土産を送るか。
「ならハルトナのギルマスや皆にこちらの日持ちするものを幾つか見繕って欲しいのですが」
「はい、瑞樹さんの頼みならぜひとも」
「あ、あとそれとは別に送って欲しい荷物があるのですが」
笑顔で答えてくれたモールは、要望に応えるべくハルトナの皆が喜びそうなのを見繕っている所を俺が追加でお願いを出した。
その荷物の詳細を聞くと納得した様に奥へ入って行くと、一抱えくらいの木箱を出してきた。
「この位の大きさでどうでしょう?」
「大丈夫です。面倒な事をお願いして申し訳ありません」
「いえいえ、先行投資と思えば安いものですよ。これからもご贔屓にお願いしますね」
そう言って出した木箱も荷馬車の方へ持って行く。モールは出された条件と天秤に掛けるが、どうにも俺からと言う比重が大きくて二つ返事となってしまっている。それが商人としての勘なのか、打算で言っているのかはわからないけど、今は頼るしかない。
さらに次の日、アレン達三人と取り巻き二人はミューゼルの実家であるオルネイト家の屋敷に赴いていた。
ベスティとコリンが門前に現れると、顔見知りであるためかすんなりと玄関まで通される。
この二人もミューゼルの取り巻きだけあって、それぞれ男爵家の娘だ。これがただの平民であるアレン達だけが尋ねても門前払いを食らっていただろう。
「本日はお館様がお出かけになっており、お目通りはできませんが、ご友人のお二人なら大丈夫でしょう」
玄関先で出迎えてくれた執事はそう言うと、ベスティとコリンの後ろにいる三人に視線を移して尋ねた。
「失礼ですが、そちらの三人は?」
「こちらは私達の護衛です。先日の一件で私達も肩身の狭い思いをしていますので、念のためにと」
アレンとケニーは冒険者の鎧などで無くウェストコートで着飾っているものの、腰には剣が刺さっている。そして、マリンは華美な法衣にフードを被っている状態であるため、一見すると高位の修道女に見えない事は無いが、その手には杖が握られている。
コリンの言葉通り、先の二人と合わせて護衛の一人なのだろうと執事も判断した。
「そうでしたか、大変失礼しました」
執事が恭しく頭を下げると、アレン達三人もそれに倣い頭を下げる。そして、使用人を先頭に全員ミューゼルの私室へと通される事になった。
(危なかったな。ただの冒険者の格好だったら間違いなく怪しまれただろうな……)
(私も二人と同じ様にドレスが良かったなぁ)
(諦めろ、お前には似合わん。それにこの後の事もあるからな)
(何ですって……?)
(三人とも、静かになさって下さい)
小声で話す間に二階のミューゼルの私室の目の前まで到着すると、使用人は扉をノックしてミューゼルを呼び出す。
コンコン
「ミューゼルお嬢様、お客様が訪ねに来られていますが……」
「今は誰とも会わないわよ! 放って置いて!」
「どう言う事?」
「昨日とその前の晩、お館様と激しく喧嘩した様で……私どもが何度声をかけてもこの様な状態でして」
俺達と別れた後、ベスティは父親と二日間何かを話し合ったが、平行線のまま部屋に閉じこもってしまったそうだ。
「そう言う事でしたか……ミュー様、私です、ベスティです。コリンもご一緒です」
「ベスティ?……二人共ごめんなさい…………今は誰とも会いたく無いわ……」
「そんな事を仰らずに……」
「本当にごめんなさい。でも今は嫌なの……」
声が大分沈んでいる。昨日の夜どんなやりとりがあったかは知らないけど、少なくとも今は一人にして欲しいとの願いだ。
普段から尊大な態度を取っていたミューゼルが、ここまで落ち込む態度を見せると言うのがよほど珍しいのか、二人して顔を見合わせていると後ろに控えていたアレンが扉の前に出てきた。
「ミューゼル様、ご気分が優れない様ですが、二人の顔を見れば少しは晴れましょう。気分転換に皆でお茶などいかがでしょうか?」
「その声は……⁉︎ わかりました、身支度を整えますので少しだけ時間を下さい」
扉の向こうから驚く声が聞こえると、一拍して意を決した声で返答が返ってくる。そして、その返答が返ってきた瞬間、使用人含めた扉の前の全員が安堵のため息を漏らした。
「それでは皆様、ミューゼル様の身支度が整うまで別室にてお待ち下さいませ」
「流石はアレン様、ミューゼル様が見初めただけの事はありますわ。ミューゼル様の心を一声で解きほぐしてしまうとは」
「本当ですわ。取り敢えず面会が叶って一安心ですわね」
((いやいや、寧ろいつの間にそんな葉の浮いた言葉を思いつく様になった⁉︎))
昔から知っている二人にとっては別の生き物を見る様な眼差しにアレンも若干の苦笑いをしていたが、その理由に素直に答えた。
「オーグさんとアイラさんに教えて貰ったんだよ。ランクが上がれば貴族からの指名依頼も増えるから、最低限の礼節は学んでおけとね」
「アイラさんは兎も角、オーグさんが?」
アレンと一緒にこの二年でランク『A』パーティーの二人とも知り合ったが、次いでにその性格もよくわかる様になっただけに、懐疑的な見方の方が強い様だ。
「皆様お待たせしました」
使用人にそう言われてミューゼルの私室に通されると、扉の前で一礼をして下がってしまった。
「ミューゼルお嬢様は、今回はあなた方だけにお会いするそうです……どうかお嬢様をよろしくお願いします」
深々と頭を下げる使用人は、ミューゼルの世話係なのだろう。その顔には悲壮と懇願が入り混じっており、誰よりも心を痛めていそうだった。
「任せて下さい、悪い様にはしませんので」
コリンがそう言うと、残りの四人も続いて入った。
「皆さん……ご心配おかけしましたわ」
「そんな事ありませんわ。私達は元より、ミュー様に会いに行こうと仰られたのは他でもありません、アレン様なのですよ!」
「まぁアレン様が? ……あ、でもアレン様にまでご迷惑をおかけする事になろうとは……」
この提案をしてくれたのがアレンだと言うことに笑顔の花を咲かせたのも束の間、そのアレンにまでさっきの扉越しの醜態と、様子を見にきてくれた事への申し訳なさが顔に出て、また下を向くことになった。
そして、ミューゼルはゆっくりとだけど、今の自分の状況を話し始めた。
「私が帰ったその日にお父様との面会がありました。私とアレン様との一件、そしてすぐに戻らなかったことへのお叱りを受けました……」
「いや、その時点で既におかしいのだが……」
ケニーのツッコミももっともである。
アレンとの模擬戦で負けただけで何故そんなに叱られなければならないのか。
「それは……オルネイト家が武勲で上がってきたからだと思います。これが貴族同士であれば、嫁ぎ先の候補にでもなりましょうが、平民であるアレン様に負けたので……」
要するに、オルネイト家の面汚しと言われたわけだ。
それを自分ばかりか、見初めた相手までも馬鹿にされ言い返したもんだから……
『これ以上恥の上塗りをする前に、お前を嫁に出す。これから選定するまでお前は部屋から出る事を禁ずる!』
と言われた訳だ。
「アレン様、そしてマリンさんとケニーさん。危険を冒してまで私のところに来てくださり、ありがとうがとうございます。そして改めて先日の非礼をお詫びしますわ……」
ミューゼルは三人の正面に立ち、深々と頭を下げた。そして三人がが次に見たミューゼルの瞳には大粒の涙が溢れていた。
諦めたく無いけど、諦めきれないと言う感情が決壊し、遂に涙となり溢れてしまった。
「ミュー、俺はまだお前の本当の声を聞いていない。お前はどうしたい? 俺はそれを聞きに来たんだ」
オルネイト家三女、ミューゼルの意見じゃなく、一個人ミューゼルの意見を聞きたいからここに来た。
アレンの真っ直ぐな瞳を見て、今言わなければ一生後悔する。そう思ったミューゼルもアレンを見つめ返し答えた。
「私はアレン様と共に歩みたいです!」
その言葉が全員の耳に入ると、顔を見合わせて頷く。
アレン達の行動が本格化する事になった。




