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そう言う裏が……?

「では、改めて名乗ろうか。私のなはソレイユ・ホールゲン・マイバッハ。マイバッハ公爵家の次女で、王国第一王女の近衛騎士隊隊長と言う任を任せられている」


 座ったままで失礼と付け加えながらも、ソレイユは恭しく頭を下げる。それを見た俺達も頭を下げる。公爵家と言う身分の高い人に頭を下げられるなんて中々無い事だろう。

 俺達三人にとっては一生に一度あるか無いか何だろうな。

 そしてソレイユがミューゼルの方を向いて自己紹介を促す。公爵家の自分が初めにしたのだからそれに習ってやれと言う事だろう。


「改めまして、ミューゼル・フォン・オルネイトですわ。オルネイト子爵家の三女になりますわ。実家にて剣の才能を見出されて、三年前に冒険者になりましたの。個人ランクは『B』ですが、それももう剥奪ですわね……」


 やばい、色々と聞いてみたいことはあるけど、まずは自己紹介だ。


「えっと、私は瑞樹・渡良瀬。ハルトナで冒険者をやっています。本来はもっと遠くの地の出身ですが、まぁ事情があってハルトナを拠点にしています。ランク『D』パーティー『エレミス』のリーダーをやっていますが、今は指名依頼の最中ですので、こちらのアレンに代行を任せています」


「お前、姓があったのか。ひょっとしてどこかの貴族か?」


 そんな訳あるか! そう言えば、この世界は貴族と一部の人以外は苗字が無いんだっけ。迂闊に名乗ってしまったけど、誤魔化すしか無いか。


「私の故郷では割と誰でも姓を名乗れるのよ。貴族と同じと言うわけにはいかないけど、自分の住んでいる土地柄や地名に因んで付ける人もいるわね」


「そうなのか、最後は俺だな。俺の名はアレン。ハルトナで生まれて育った冒険者だ。親は無く孤児院で育った。パーティーランクも個人ランクも『D』だ。……ってすいません。敬語を忘れてました……」


「いや、構わない。ここには私を含めて四人だ。誘ったのも個室部屋にしたのもそう言う事情があってのことだ、気にしないでくれ。ミューゼルも構わないだろう?」


「はい、勿論です。アレン様、この場では敬語は不要です。私には、普段でも普通に話されて構いませんわ」


「お、おう」


「さて、一通り自己紹介も終わったことだし、まずは、瑞樹。そちらの経緯をます教えてもらえるかな?」


 そう言われて俺は門で会った以降の行動をソレイユに話した。指名依頼の内容は伏せつつも、アレン達と出会うまでの内容とざっと話す。


「そうか、君は指名依頼で王都に来たと言うことは、私と門で会った後、直接キルド本部に行ったと言うことで間違いないか?」


「そうね、あの後チャラい優男に本部に案内されたわね……」


 アレン、「お前って誰にでも絡まれるんだな……」って目をするのは止めろ。俺だって好きで絡まれているわけじゃない。


「はははは、瑞樹の容姿じゃしょうがあるまい。その黒を基調とした服さえどうにかしたら更に寄ってきそうだな」


 いや、地味じゃ無いだろう。黒を基調としつつも、細部にまでこだわったデザインと機能性、そして女神エレンが厳選した(はず?)高級生地。

 あのお頭(おつむ)が残念な女神が用意した割にいいものをくれたと思っている。俺としてもお気に入りの一着だ。


「ちなみにアレンも直接ギルド本部に?」


「似たようなもんだな。事情は知っていたから、後かから追いかける形で本部に行ったな」


 ソレイユの質問の意図が初めはわからなかったけど、この後の言葉で衝撃の事実が明らかになる。

 なるほど、これはハルトナから直接来た俺らじゃわからないわけだ。


「そうか、それならしょうがない。先に確認しておくが、王都には本部の他に冒険者ギルドが『王都西部支部』と『王都東部支部』があるのは知っているか?」


 俺とアレンは同時に頷く。名前までは知らなかったけど、本部を頂点にして三角形の様に配置されているのは知っている。


「ならいい。そして改めて言わせて貰うと、王都の残りの二つのギルドは、ハルトナと同じ体制で、本部だけが浮いていると言うことだ。明日以降行ってみるとわかるが、装備は派手だが、雰囲気はハルトナと同じ感じだぞ」


何だと……⁉︎ 王都のギルド全てが本部みたいな感じだと思ってた。これは先入観と言う色眼鏡で見てしまったミスだ。ちゃんと確認してから考えないと、後々大きなミスへと繋がっていたかもしれない。ソレイユに感謝だ。


「なる程…………では改めて聞くけど、ソレイユ。貴方は何派? ここまで私たちに話してくれると言うことはまず貴族派では無いと考えていい?」


 この国の派閥は大まかに三つある。君主専制の国王派。貴族特権を強めようとする貴族派。そして貴族が(まつりごと)を行うが、市井の意見を積極的に聞き、民に寄り添う事で国の発展に貢献する民主派。

 王都での最大派閥は勿論国王派だ。しかし残りの二派閥もそこそこいるがハルトナの様な地方だと民主派のメルが納ている、ハルトナは残りの二派閥は少数だ。

 おっと話が逸れた。


「そうだな、マイバッハ公爵家は勿論国王派だ」


 だよな、王家に準ずる者なら考え方も国王派になる。

 けど、それだと俺達をここに呼んだ理由がおかしな方向に行ってしまう。と言うことは、この台詞にも続きがあるだろう。


「けど、それは表の顔で、実の所、隠れ民主派だ」


 じゃ無いと、友好的にこの場に呼ばないよな。騙し討ちという線もあったかも知れないけど、あの門の一件から察するにそれは無いと踏んでいる。


「隠れってのはソレイユだけって事?」


「私ともう数人いるが、まだそれは伏せておこう。代わりと言うわけじゃ無いが、経緯を話そう」


 ソレイユが言うには、自身も初めから民主派と言うわけじゃなかったと言う事だ。

 数年前、とある事情でハルトナに行った際、辺境だと侮っていた街の繁栄っぷりに心底驚かされたそうだ。

 しかし、それにはギルドが絡んでいたと言うことがわかった。ソレイユも王国と冒険者ギルドの関係を知っているが故にハルトナの経営手法に疑問を持ちつつも滞在中に観察してわかったことが一つだけあった。


「国王派と民主派が一つになれば国は更なる発展をするのでは無いかと言うことだ。今の国王になって五年……今はまだだ目に見えなくとも、水面下で少しずつ腐り始めていることは確かだ。寧ろ目に見えた時には既に手遅れになることは間違いない。…………その原因の一人が、今のギルド本部のマスターのダンだ」


 ここであのギルマスが出て来るのか。あぁも判り易く動いているのは背後に何かいるのは間違い無いんだけど……


「それで、ここまで聞かせて、私に何かして欲しいからじゃ無いのかな?」


「察しがいいな。寧ろ既に瑞樹は既に陽動に嵌められていると言っていい」


 ……どう言うことだ?


「そこをもっと詳しく」


「ハルトナは二年前、帝国から転移魔法陣で魔物を嗾けられただろ?」


 けど、明確な証拠が無くて抗議もできなかったな。


「それで二年経ってようやく王国経由でギルドが調査に乗り出した経緯を知りたく無いか?」


 要領が得ないな、それは初動が遅れたとは違う理由ってことか?

 俺は苛立ちを隠しながら頷き返すと、ソレイユは力のある眼差しで言った。


「瑞樹をハルトナから引き離して帝国へ調査をさせている間に、もう一度ハルトナを襲わさせて今度こそ壊滅させる事だ。しかもその目的がハルトナのギルドマスターであるデンと現在の領主であるメルトリアの殺害。そして帝国へ依頼しているのが、貴族派とダンだ」


 驚きすぎて、何から答えて良いのかわからない。

 アレンとミューゼルも同様だ。まさか、自分たちの模擬戦の話からこんな大きな事を聞かされるとは思ってもみなかっただろう。

 そしてまさか二年前のあの事件の裏がそんな事になっているとは思いもしなかった。

 三日後には嫌でも顔を出さなきゃいけにのに、どうしたものかなぁ……?


「それって、明確な証拠とか持って先に押さえる事は出来ないの?」


「厳しいな。確かな情報筋なんだが、証拠や現場を押さえているわけじゃないからな」


 先手を打てないか相談してみたけど厳しそうだ。

 なら、この情報をデンに渡して王都でも警戒してもらうしかないか。


「会ったばかりで、不躾なお願いになるかもしれないけど。信用できる知り合いで、ダンを見張る事ができる人がいたら紹介して欲しいんだけど」


 先手を打つのが難しいなら、せめて監視を付けることくらいしか出来ないか。

 しかも、俺には王都に知り合いがいなから、今日初めて会ったソレイユにしか頼めない。それもソレイユの言う事を全て信じきっての事だ。


「いない、事はない。と言うか、その情報をくれた人物がそれにあたる。だから引き続き、監視をお願いすればやってくれるだろうが……」


 その続きを、ソレイユは言わない。

 言わない理由は、駆け引きが下手な俺にもわかる。


「……ソレイユが望むものが私にはわからないから、取り敢えずは貸し一つでいい?」


「あぁ、構わない。これで十分だ」


 恐らく、俺が何を提示しても首を横に振って、これを言わせたかったんだろう。

 王都の門で会って俺の何を感じたのかはわからないけど、脳筋な俺に無茶なお願いだけおは勘弁してほしいところだ。

 そして後になってわかった事だけど、俺がお願いしなくてもソレイユは元々ダンをずっと監視していて、潰すつもりだったらしい。

 要するに、俺はタダで貸しを与えてしまったわけだ。

 自分の間抜け具合に、頭が痛いよ。

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