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闇だな

 ギルドに紹介してもらった宿屋の一室で寛ぎながら、ハルトナを出発する前のことを思い返す。

 実は皆と挨拶する合間を縫って、女神エレンに手紙を送っていたりもしていた。別にこの二年間全く送っていないわけじゃないけど、結構久しぶりだ。

 久しぶりなのも理由がある。

 俺がハルトナに来て直ぐに色々な出来事が起きたのも全て女神エレンの仕業だと言うのだ。


『瑞樹君が退屈しないように、私がイベントを用意しました〜。負荷実験とでも思ってくださいね〜』


 あの転移魔法陣の事件の直ぐ後にまた手紙を送ったら、そんなふざけた回答が来た。

 女神様のさじ加減一つかよ! 女神様の気分で周りの人達を殺されては堪らない。

 だから……


『俺が人生を終えるまでは自然に流れを見守っていてください』


 思わず送ったこの手紙以降、返信が来なくなった。そこから平穏な日々が続いたものだから、ついつい女神エレンのことを忘れていたんだよ。

 そして、二年ぶりに手紙を書いたわけだ。


『また何か企んでいませんよね?』


『何もしていませんよ〜? 怒られたくないですからぁ。暫くは観察だけにしておきますねぇ』


『わかりました、そう言う事にしておきます。あと、俺の身長が伸びないのは新しい体の仕様ですか?』


『はい、そうですよぉ〜。可愛いのでそう言う事ですよぉ』


 最後の文面だけなぜ字がブレてるんだ……? やっぱり何かしたのか?

 これ以上は聞きたくない気がする。それに、このやり取りの為に手紙を受け取るメリッサが、俺を微笑ましく見るのに精神が耐えられない。


 そんなやり取りをして、そこそこ平穏に王都まで着いた。

 そして、ギルマスとの挨拶も終えて宿屋も確保したけど、まだ日はそんなに傾いていない。なら、もう一度ギルドに行くか。

 と言うか、ギルドにやり忘れていたことがある。





「すいませんサリアさん、伝言を頼みたいのですが」


 ギルドに戻ってきてカウンターにサリアがいたから真っ直ぐにそっちに向かう。今王都で唯一の知り合いはこの人だけだ。


「あ、瑞樹さん、どうしましたか?」


「もし、地味な格好をした男二人、女一人のパーティーが来ましたら、私の泊まっている宿屋を教えて構いませんので、夕方待っていると伝えてください」


 俺がそう言うと、何かピンと来たのか少し考えたあと、神妙な顔で答える。


「ひょっとして、その三人組の内の一人の名前はアレンじゃ無いでしょうか?」


「知っているのですか?」


「知っていると言いますか、少し前にここに来たのですが……その、ラウンジにいたパーティーの一人がその三人を煽ってですね……」


「その喧嘩をアレンが買ったのですね……?」


「はい、それで今は訓練場にいます」


「わかりました、行ってみます。ですが、誰か後から職員の方が来てくれたら助かります」


 わかりやすい構図だ。恐らく田舎者とか地味だとか煽られたんだろうなぁ。

 それをマリンが止めるのも構わずに喧嘩を買ったんだろう。売った方の実力が気になるところだけど、行ってみればわかる事だ。

 一日に二度も訓練場に行くとは思わなかった。一回目はただの散歩だったけど、今回は大事になる前に止めたいところだ。


 ギィィィン! ギギギィィィィン!

 訓練場に入る前から剣戟の音が通路にまで届く。

 おかしい、木剣じゃこんな音はしない、どちらも自分の剣を使っている証拠だ。


 勢いのままに扉を開けると、肩で息をしながらもじっと相手を睨み付けているアレンの姿が見えた。


「瑞樹!」


「マリン、受付で聞いたよ。煽られたんだって?」


「厳密に言うと少し違うな」


 俺の呼び掛けにケニーが捕捉してきた。

 どうやら俺を訪ねてここに来たら田舎者だと馬鹿にされたが一度はぐっと耐えて無視したらしい。その態度にムカついた王都の冒険者が更に自分達の故郷であるハルトナそのものまで馬鹿にされてさすがに頭にきて言い返したと言う事だ。

 なる程な、俺にとってもハルトナは思入れのある場所だけど、生まれ育った三人にとっては屈辱なわけだ。それが例え孤児院育ちであろうともだ。

 現に俺の方に来たマリンとケニーは事情を話してはいるけど、止めて欲しいわけじゃ無いっぽい。


「はぁはぁ……しつこい男ね、い、いい加減にやられたらどうなのかしら?」


 呆れた顔を隠しもせずに息を切らしながら話す少女。よく見れば、さっきの金髪縦巻きロールじゃないか。

 名前は確かミューだったか?


「ぜぇぜぇ……温室育ちで……苦労知らずのお嬢様に負けを認めるわけにはいかないからな。ここいらで地べたを這う経験をしといた方がいんじゃ無いか?」


 対するアレンも、同じように減らず口を叩きながら不適に笑みを返す。

 しかし、二人とも肩で息をしている所を見ると、そろそろ終わりが近いのがわかる。

 アレンは息を整えて相手を見据え得ると一気に間合いを詰めていった。

 しかし、それは相手も同じで、アレンと同じように間合いを詰めに行った。


 アレンと金髪縦巻きロール、同じ速度で剣がぶつかり合えば体重が乗った前者の方が打ち勝つ筈なのに、何故か打ち負けてしまった様に弾かれて飛んでしまっていた。

 しかし、アレンの勢いは死んではいなく、そのままミューの懐に入り足払いをして態勢を崩し腰に刺したダガーを引き抜いて首元に突きつける。

 しかも、ただ転ばせるんじゃ無くて、左腕でミューを庇っての動作だ。

 いつの間にそんな紳士的なことが出来るようになったんだ……?


「ま、参りましたわ……」


 呆気に取られつつも、ミューは首元に突きつけられたダガーを見て呟いた。


「そうか、怪我が無くて良かった。王都はやっぱり俺らには合わないな……友人を見送りに来ただけだから、またハルトナに帰るとするよ」


 王都の冒険者に一矢報いて気が晴れたのか、爽やかな顔で答える。マリンやケニーも同じように頷く。

 優しくミューを起こして二人のところに戻ろうとするアレンの背中に声が掛かる。


「待ちなさい! 最後の打ち合い、何故わざと弾かれたのですか? 本来なら私の方が打ち負けているはずですわ」


 そう、あれは目がいい人か、戦闘経験豊富な人、そして打ち合った両者にしか分からない出来事が発生している。

 最後の打ち合いの際、アレンは剣同士がぶつかる瞬間に握る力を緩めてわざと弾かれていた。そこから次の流れに持って行ったのは成長した現れなんだけど、本来ならそのまま打ち勝てる流れでもあった。そうしなきゃいけない事情はアレンにしかわからない事なんだけど。


「あーあれな。お前その剣、結構大事にしているだろ? 手入れの具合でよくわかる。さっきの一撃で折れて当たったら綺麗な顔が台無しじゃ無いか」


「そ、それだけの事で…………いえ、あの瞬間にそれだけの判断を……完敗ですわ。勝利と自尊心の事だけを考えていた私に対して、相手の事まで考えての行動…………貴方、お名前をお聞かせ願いますか?」


「ハルトナの冒険者アレンだ」


「アレン様……」


 様……? 今アレンに様を付けた? どうしたんだお嬢様?

 そう思っていると、俺たち三人の元にアレンが戻って来ていた。


「お、瑞樹も来ていたのか。悪いな、ゴタゴタに巻き込まれちまった……」


 アレンが申し訳なさそうに言ってくる。

 元は向こうが因縁を付けてきたんだ、それを流すか受け止めるかはアレン達の自由だ。

 しかも、それをきっちりと勝利で納めるあたり随分と成長したもんだと思う。


「気にしないで。アレンがきっちりと締めてくれたんだし、またハルトナを馬鹿にするようなことがあれば、次は私が出る番よね」


 アレンがあれだけ頑張ったんだ、次に何かあれば俺が出る番だ。だと言うのにケニーがひどいことを言う。


「瑞樹、間違っても殺すなよ?」


 そんな事するか! 俺を何だと思ってるんだ。でも向かってくる奴は半殺し程度にはする予定だ。


「ふん、騒ぎは終わったか。ハルトナの冒険者と模擬戦をやったと言うから来てみれば……」


 そんな風に雑談していると、入口からギルマスが入って来る。

 ギルマスはミューとアレンの方を一瞥してから責任者らしからぬ一言を溢す。


「この程度の小僧にしてやられるとは……優雅とは離れた存在だな。小娘は大人しく屋敷で花でも愛でておれば良かったものを、これではデンに一歩出られた感じで気分が悪いな……」


「あんたギルマスか? 何でそんなことを言う? 売られた喧嘩だが、これは正式な模擬戦だ。勝ち負けは付くが、その先に繋げるための物だ。あんたの気分がどうのなんて関係ないだろ。何でそんな事を言われなきゃならない」

 

 ちょっとした騒動だったから職員だけが来るかと思ったら、まさかのギルマスだ。

 しかもミューを貶めるような事まで言うその態度にアレンが噛みつく。


「簡単な事だ。ここが王都で、ワシがギルド本部のマスターだからだ。ワシの要望は、優雅で強い事だ。だからこの闘いのような土臭いのは嫌いでな」


「嫌いならどうするって言うんだ?」


「そうだな…………王都のギルドにはいらんな。貴様は確かオルネイト家の三女だったな、屋敷の方に一報入れておこう。明日からはお茶だけ飲んで過ごせ」


 あ、これダメな奴だ。権力を傘に着て自分の思い通りにいかないと気に食わないって人種だ。


「そんな……ま、待ってください、ギルマス!」


 俺と喋っていた時にお高く止まっていたミューも、ギルマスの一言にショックを受けている。 

 ギルマスは一言そう言うと、呼び止めようとする声を無視して訓練場から出て行ってしまった。

 出て行くギルマスを目で追いながらその権限の強さに驚きつつも、一つの疑問が湧いてきた。


 ギルマスの権力が強いと言っても、あれはやりすぎじゃ無いか? 

 って言うか何で貴族に意見が出せるんだ……?


 出発前に聞いたデンの言う、「王国とてギルドにとっては顧客の一人」と言う感じじゃ無いな。

 どちらかと言うと、対等以上な感じが見え隠れしている。何かギルドの闇を見た気がするぞ……


投稿が遅くなり申し訳ありません。

今週中にもう一話投稿しますのでよろしくお願いします。

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