残像……じゃ無いな
サリアと言う受付嬢に案内されて通されたのは、お約束のギルマスの部屋。そこで待っていた人物の姿に驚きを隠せなかった。
「お主が瑞樹だな?」
「…………は、はい、瑞樹と言います。えっと……初めまして?」
俺の挨拶に疑問符が付くのも仕方が無いと言うものだ。
目の前にいるのはどう見てもハルトナにいるギルマス、デンそのものだからだ。思考停止を何とか免れて絞り出した言葉の真意を理解したデンのそっくりさんは、俺の疑問を自分から話してくれた。
「ハルトナではデンが世話になったそうだな。ワシの名はダン。デンとは双子でワシが兄だ」
そう言う事か……どこかに違いがあっても良さそうなのに、ここまでそっくりだと逆に一人二役でもしているのかと錯覚する。
「そう言う事でしたか。ハルトナではギルマスに大変お世話になりました」
「気にするな、それが仕事だ。で、早速だが書状を読ませて貰った。確認だが、二年前の転移魔法陣の事件は貴様が指揮を取ったんだな?」
「そうですね。殆どなし崩し的にですが、私が中心となって動いてました」
「この書状によると、デンが幾つかフォローを入れているとは言え、その行動力や指示が的確だったが故に、大森林での魔物の進行と鉱山の被害の両方が最小限で済んだと書いてある」
おいおい、そんな事が書いてあるなんて聞いてないぞ。しかも話しが盛りすぎじゃないか?
確かに自分でも貢献できたとは思っているけど、それは皆が動いてくれたお陰でもあるんだし。
「いえ、それは……」
「謙遜するなよ。そうやって動いてくれたのも、貴様自身が行動で示してくれたからじゃ無いのか?」
そうなのか? 俺もどちらかと言えば脳筋の方だから、自分から突っ込んでいく方だと思っている。
「もしそうだとしたら、先陣を切る指揮官は長生きできませんね」
「ランク『S』の魔物の首を一刀両断したと書いてあるぞ? フンッ、こんな奴が早々に死んでたまるか」
そう言いながら不適に笑う姿は、見た目は同じでも性格はこっちのギルマスの方が高圧的でもう一癖ありそうな感じだ。
それはそうと、ギルマスの目の前にある書状には一体どれだけ俺の事が書かれているんだ?
ハルトナにいた二年間の事を丸々書いてるんじゃ無いだろうな……?
「話しを戻そう。向こうでも聞いているだろうが、王国から協力要請と言う名の依頼が来た。二年も経ってようやくと思うが、その間はこっちは先手を打って十二分に調査できた。と、言いたい所だが、冒険者ギルドでも事態が動いてな、先月あたりから帝国へ偵察に出た奴らが帰って来ていない。本来なら今回の調査までで得た情報を王国に必要経費込みで吹っかけようと思ったんだがな……それは一先ず保留にしといて、貴様には王国から派遣される人員とギルドから出す人員と共に帝国へ入れ」
「表向きは皆で帝国の様子見ですか?」
「いや、優先度の問題だな。偵察に出した奴らが戻らないところを見ると、帝国に察知された可能性もある。それを踏まえて、帝国内の動きがどう変わったかを調べろ、それが第一優先だ。その次に偵察に出た奴らの救出だ」
凄い簡単に言うけど、疑問に思った事が幾つかあるからそのまま聞くけど、返答によってはこの依頼を断ざるを得ないくなるかも。
「いくつか質問をいいですか?」
「言ってみろ」
「帝国の内部を調べた資料は読ませて貰えるのでしょうか? それを知っているのと知らないとでは、向こうでの調査の期間に差が出ます」
「無論だ。しかし、その情報を王国から派遣された奴等どころかギルドから出す奴らにも言うなよ? どこから情報が漏れるかわからんからな」
言いたい事はわかるけど、俺が上手い事他の人達を誘導して調べて回るしか無いのか……面倒臭いな。
と言うか、さっきから何で俺ばかり色々背負う感じで話しが進んでるんだ?
確かに情報源は少ない方がいいんだろうけど、共有したほうが、後での精査が楽なんだけどな。じゃないと手分けして手に入れた情報が古い物ばかりだったら無駄足だろう?
「そうですか……それと付随して、情報が共有出来ないと言う事は行方不明者の救出は私が単独で行うと考えても?」
「単独で出来るならな。その辺りも自分で考えてみたらどうだ?」
うわぁ、何かムカつく。確かに先行調査した方が事がスムーズに進むのは確かだけど、無駄に仕事を増やしたのは自分じゃ無いのかな?
さっき自分で言ったよね? 帝国に察知された可能性があるって。
恐らく今は二年前の件もあるから言ってこないとしても、それがいつまでも通せるとは限らない。
寧ろ、転移魔法陣の事件など無かったことのように難癖を付けてくる可能性がある。
そうなった時に、王国は依頼を出す前からギルドがやらかしていたと言う事実を知ってどう動くかだ。
そして、捕まった冒険者をギルドはどうするか。
「と言う事は、王国は何も知らなかったとして、ギルドも預かり知らないと言う見解も出せると言う事ですよね?」
トカゲの尻尾切り…………本当にバレるのを恐れるなら、帝国や王国が抗議してもギルドは非情な選択を取るはずだけど……どうする?
「……」
「……」
「貴様……」
「私は即興で考えを出しましたが、ギルマスの意見を聞きたいですね。」
初対面で本当はこんなやり取りはごめんだけど、まずは自分の立ち位置と責任の所在だけは確立しておきたい。
「まず初めに言っておくが、ギルドが冒険者を見捨てるような事はない。さっき言ったようなことになった場合の対処も考えてある。それと、行方不明者の救出は何も貴様一人でやれとは言わん。別働隊を動かして、そっちと動いてもらう時もあるから覚えておけ」
「そう言うことなら」
俺は緊張を解いて笑顔で答えるが、反対にギルマスは険しい顔を解かないまま言葉を付け加えた。
「あと、貴様……」
「私には瑞樹と言う名前があります」
さっきから貴様、貴様と失礼すぎる。呼び捨てで構わないから最低限名前で呼んでくれよ。
「瑞樹よ、指名依頼を出している以上、ギルドの庇護下にあるのは確かだが、ワシを含め余り周囲を煽るなよ? さっきのはワシから煽ったのは認めるが、王都では様々な派閥争いが横行している。それに巻き込まれれば面倒な事になるくらいわかるだろ?」
「そうですね……但し、向こうから来た場合は相応に返しますので……」
「なるべく穏便にな……三日後に王国から派遣される人員と、ギルドから派遣する人員を紹介するからその時にまた来てくれ」
「わかりました。ではまたその時に」
そう言って俺が出て行ったギルマスの机の上にサリアの煎れたお茶が置かれた。
「あの瑞樹って言う娘、本当に強いのでしょうか?」
「あぁ強いな……サリアは判らんかもしれんが、あの会話中ワシはずっと瑞樹の魔力量や実力を探ろうとしたんだがな、何一つさせて貰えなかった」
「それはどう言う?」
「上位の冒険者ともなれば、初見の魔物を見た場合、相手の実力を探ろうとするもんだ。今の王都じゃそんな事出来る奴はごく少数だがな。でだ、それをワシは瑞樹にやろうとしたんだが、見事に返された……」
「返された? それはいつですか?」
「煽られた時だな……あれでランク『C』は詐欺だな。けど、三日後の他の連中の顔色が楽しみだ」
そう言って不気味な笑いをするダンの顔は、ハルトナのデンとは双子でも似つかない笑い顔だった。
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