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俺、夢見る乙女!

 二つのパーティーが睨み合う。

 そしてその間で困り果てる俺……。

 これは想定外だわ。


「ちょっと待ってください。まずはワイズさん、私は舎弟なんて必要ありませんし、望んでもいません。そしてベリットさんも私はこの街に滞在すると言いましたけど、一緒に行動するとは言ってませんよ?」


『そんな〜⁉︎』


 そんなとか子供か!


「二人の気持ちは嬉しいですが、私はまだここへ来たばかりですので、もう暫く落ち着いてから色々考えさせてください」


 と言うかただの保留だ。

 そう言って俺は冒険者ギルドを出て一目散で宿へとんぼ返りをした。

 ぶっちゃけ手紙を受け取って、ろくなことしないうちに戻ってきたな。

 で、その手紙の内容はっと…………。


『言い忘れてましたが、私宛にお手紙書くとちゃんと届きますから、必要なことがあれば遠慮なく書いてくださいね〜』


 ご都合主義バンザイ!


『俺の置いてきた荷物を送ってください。極力自然に!』


 ギルドに来たと言うことは、ギルドに出せばいいのか。

 また行くのか?

 行かざるを得ないよな……。


「ふむ、流石にもういないね」


 恐る恐る再び訪れると、他の冒険者も出払ってホールは閑散としていた。


「あら瑞樹さん、先ほどもいましたよね? どうしました?」


 メリッサさんが声をかけて来たから、そのまま手紙の発送をお願いした。

 冒険者ギルドは荷物の管理・保管・運送も請け負っており、その護衛も依頼で出せるから一石二鳥って所だ。

 

「お手紙ですね? 送り先は…………はい、瑞樹さんもまだまだ夢見る乙女なのですね。確かに受け取りました!」


 ちょっと待て、今どんな解釈をした?


「まだまだ聖夜はずっと先ですけど、今のうちにお願い書くのも悪く無いですよね!」


 聖夜とか、クリスマス的なものがあるのか。

 それは置いといて、これ、手紙を出す度に妙な誤解を受け続けなければならないのか?

 …………悪夢だ。

 もっと別の方法ないのか?


 次に出すまでの課題として考えておくとして、簡単な依頼でもこなそう。


「本当ならもっと上級のでも良さそうな気がしますけど、取り敢えず下から順番にやりましょうか」


 そう言ってメリッサに出された依頼書のうち、二つを提出した。


 一つ目は薬草の採取。

 これなら街から少し行った丘の上や、山の中に生えているからいつでも取りに行けるだろう。

 それに【常時依頼】だから、受けなくても一定量採取して出せば勝手に完了してくれるらしい。


 二つ目は街の巡回警備だ。

 これは前日に受付して、当日は街の守衛本部に集まる事になっている。

 そこで様々な区画に振り分け、警備に当たる。

 あれだ、国が民間の警備会社に依頼するようなものか。


 まずは薬草採取。

 薬草の種類は把握しているからそのまま丘まで行くと、疎らではあるがそれなりに生えていた。

 そのせいか、俺と同じ歳であろう冒険者の何人かが採取に勤しんでいた。

 

「君は見ない顔だね」


 少年が話しかけてくる。聞いてみると、冒険者になる前から何年も採取をこなしていて結構詳しかった。

 お陰で今日の採取はそれなりに捗りそうだ。


「そう言う事なんですね、ありがとうございます。なら私は……」


「お、俺と一緒に採るといいぞ! 俺の名はアレン」


「わかりました、では一緒に。それと私の名前は瑞樹です」


「瑞樹か……」


 心なしか少年の顔が赤い…………

 ははぁぁ〜〜ん……

 けど、すまないね少年。俺は誰にも靡かないぞ?




「キャ〜〜〜〜〜‼︎‼︎」


 採り始めてからそろそろ撤収かな、と思ったタイミングで悲鳴が上がる。

 何事かと思って見てみれば、豚の様な頭を持った魔物が暴れ回っていた。


「あれってオークだっけ?」


「今のうちに君は逃げんるんだ!」


 何で? って聞く前に思い出した。

 そうか、あれは初心者には結構辛いんだっけ。


「アレンさん、下がってください」


 そう言うと俺はオークに向かって走り出す。

 一人の少女に向かって今まさに斧を振り下ろそうとした瞬間、俺の刀が一閃した。

 仰向けに倒れたオークの体とは別に頭部が転がって行く。


「大丈夫ですか?」


 少女に気を使い、手を差し出すものの、どうやら腰が抜けて立てなくなったらしい。

 まぁ初心者には少し刺激が強かったかな。




「ありがとうございます! マリンと言います!」


 暫く休憩して、少女は何とか立てる様になり、俺に礼を言ってきた。

 しかし、そこには少女だけでなく、他の駆け出しの少年少女や、まだ未登録の年少組まで詰めかけてきた。

 そこには俺への尊敬の眼差しの他に、もう一つの目的があった様だ。


「ところで瑞樹、このオークはどうするつもりだい?」


 そう、このオークの行方だ。

 登録しているものはまだ日銭が何とか稼げても、家の手伝いで来ている年少組は家計の足しになるものなら何でも欲しいだろう。

 こう言うのはあまり甘やかしてはいけなと言うけど…………こう言うのは日本人の性とでも言うのかねぇ……。


「わかりました、小さい子から順番に均等配分します。その代わり各自自分でちゃんと持って帰ってくださいね」


 みんなの視線が集まる中、そう呟くと、一斉に歓喜の声が上がる。

 現金な奴らだなぁ。

 まぁこう言う笑顔も良いもんだよね。


 解体をアレンやマリンに手伝って貰い、全員に行き渡る頃には陽が傾き始めていた。

 街に入るときに少しだけ守衛に問い詰められたが、俺がオークの頭を差し出すと、納得してくれた。

 昨日の守衛達がいたお陰でもあったしな。



「あ、お帰りなさい瑞樹さん。ってそれは何ですか?」


 見てわからないか、オークの頭だ。

 メリッサさんに丘の上でオークと遭遇したことを話すと、一緒に来ていたアレンとマリンも証言してくれた。


「これは逸れオークですね。丘の向こうの森に集落ができている可能性がありますね……」


 なるほど、それであの丘に一頭で現れたのか。


「瑞樹さんありがとうございます。すぐに上に掛け合って来ますね」


 何が掛け合うのかわからないが、俺らの手続きもそこそこに、階段を駆け上げって行った。

 さて、俺も宿に帰って明日に備えようかね。

 そう思ってアレンとマリンにお礼を言って別れようとしたら、入口からうるさい連中で塞がれた。


「姉さん! オークが出たって本当ですかい⁉︎ って既に倒した後ですか! さすがっす!」


「瑞樹ちゃん、オークに襲われなかった⁉︎ 今すぐにお姉ちゃんがぶっ殺して来てあげるよ! もう倒した後なのね? 流石だわ!」


 ワイズとユミルが俺の目の前で勝手に騒いで勝手に完結している。


「えぇ、もう終わった後なので、今のところは大丈夫ですよ」


 そう言って安心させようとしたが、二人は急に真面目な顔に戻る。


「いえ、瑞樹ちゃん、問題はこれからよ」


「姉さん、これからが問題ですぜ」


 聞いてみると、集落ができたと言うことは、女を拐う可能性が大きいということだ。

 それでメリッサさんは、偵察任務を緊急で出す為に上司に掛け合いに行ったのか。


 なるほど、明日以降が騒がしくなりそうな気がするよ……。


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