それはどうなんだ?
複数の馬車が隊列を組んで街道を進むこの光景は、街道では珍しくなく頻繁に目にしている。
その為か、街道の道幅はそれなりに広く作られていてすれ違いも容易だった。
「王都に行くのは初めてなんですけど、道幅が広いまま何ですね」
「王都から南の主要都市は、ハルトナと国境付近にあるダームだけだからな。少しでも交通の便を良くしようとしている現れなのかもな」
「俺らも王都に行くのは、こう言った依頼だけだな。あそこに移り住もうって奴は一旗上げようとか出世欲がある奴だな」
ハルトナを出て二日目、流石にずっと風景を見ながら進むのも退屈だから、他の冒険者の人達と話しながら過ごしている。アレン達三人は乗合馬車に乗っているから、顔を合わせられない。
そうなると自然に同じ護衛依頼を受けたパーティーの人達との会話も増える。護衛を主軸とした依頼をずっと受けているのだろうか、俺と会話をしていても目や気配は外に向いている。魔物の討伐だけが冒険者の仕事じゃないと言う事を見せ付けてくれる光景だ。
「皆さんはずっと護衛依頼を?」
「あぁ、瑞樹さんが頑張ってくれた二年前のあの時は、王都に向かっている最中だったな。ハルトナの皆が頑張ってくれたお陰で俺達は帰る場所を失わずに済んだんだ。今更だけど、ありがとうと言わせてもらうよ」
「お礼なんてとんでもないです。でも、そう言われると頑張って良かったと思います。あと、私の方が後輩ですので、『さん』付けはいりません。瑞樹と呼び捨てにしてください」
「そ、そっか」
赤くなっているけど、勘違いしないで貰えると嬉しいんだが……。見た目が年上の人や冒険者の先輩方に『さん』付けされると、何だかむず痒くなるんだよ。それなら一層のこと呼び捨てにしてもらった方がいい。ただそれだけの事なんだけどな。
「おい、リーダー、何一人で役得な事してるんだよ! じゃあ俺は『ちゃん』付けでいいかい?」
「じゃ、じゃあ俺は俺は、『たん』でいいかな⁉︎」
「『ちゃん』はいいですけど、『たん』はやめて下さい……」
この世界でそんな呼び方をされる日が来るとは思わなかった。これも女神エレンの差し金だろうか?
しかしそれは、断固として拒否させて貰おう。最低でも面と向かってそう言って来る人には拒否をし続けたい。裏で使われたり、耳に届かなければ……まぁ許そう。
護衛の冒険者達が賑やかに話している間、後方の乗合馬車の中でマリンが歯軋りをしているのを俺は知らない。
「グギギギギギギ…………私の瑞樹とあんなに仲良く話して! あんな何処の馬の骨とも知らない奴に瑞樹はやらないよ!」
「マリン危ない! それに誰も瑞樹にそんな事思っていないって! いや、思っているかもしれないけど、瑞樹なら大丈夫だから! あと馬の骨とか言ってるけど、全員俺らの先輩だからな⁉︎」
馬車を飛び降りようとしているマリンを必死にアレンが止めている。
対面で傍観しているケニーも、王都でいい人を見つけたら帰ってこないのではと思っていたりもする。
「あまり表面に出てないだけで、瑞樹のファンだったりお近づきになりたいと言う奴らは結構いたからな。となると、やはり将来の芽は潰しておくべきか……」
「ケニー、一緒にあの護衛を潰すわよ! 奇襲で仕掛ければ私たちでも行けるかもしれない……」
「ケニーまで何を言い出すんだ⁉︎ マリンも煽らないでくれ!」
乗合馬車の中は大混乱になり、事情を知らない俺は楽しそうだと思って眺めているだけだったが、後で御者の人に教えられて頭を抱える事になった。
よくもまぁ俺の事情だけでそんなに騒げるな…………今の所、誰とも付き合う予定はないから落ち着けと言いたい。
「マリン、今の所誰とも一緒になる予定は無いからいったん落ち着こうか……」
「本当だよ⁉︎ 約束だからね?」
いや、だから何の約束だ? 俺の予定は置いといて、マリンは婚期を逃したいのか……?
逆にこれはフラグか? 俺がハルトナに戻って来たら、出来ちゃった婚してたとかそう言うフラグか?
二日目の宿場町で、謎の約束をぼかしながらやり過ごして夜が更けていく。
そして今回の旅の山場である三日目がやって来た。




