出発の朝
残りの五日は焼きそばのおじさんの時と同様に、よく通ったお店に顔を出しつつ報告をしてのんびりと過ごした。
そして出発日の早朝、ギルマスを真ん中にいろんな人が見送りにきてくれた。
「瑞樹ちゃんや、この手紙を渡しておこう。この中には今回の指名依頼の写しと、本部のギルドマスターへ宛てた手紙が入っとる。そしてもう一通は瑞樹ちゃんが持っておくように。そっちは本当に困った時に出すと良いぞ」
そう言って二通の手紙を俺に渡して来た。内容は俺の事をよろしくと言った感じかな? あまり詮索してもしょうがないか。
「わかりました、ありがとうございます。所で、この指名依頼って期間は長いんですかね……?」
「何とも言われんのう、何せ相手は南の大国、リザイン帝国じゃからのう……。場合によっては年単位になるかものう……」
うそん……。
ギルマスも言葉を濁していたけど、最悪の場合戦争って事だよな……。それだけは避けたい所だし、これは本部にも聞いてみた方がいいな。
「なるべくなら、そうなる前に帰って来たいですね」
「一応その旨も手紙には認めておいたから、安心しとくれ。ほれ、他の者にも挨拶をして来るのじゃ」
メリッサや『雀の涙』や『猫の額』、そして『猫の手』まで見送りに来てくれていた。
いや、嬉しいんだけど、これで僅か数ヶ月で戻って来たら何だか恥ずかしい気分になるのは俺だけなんだろうか……。
そんな中気になるのは、アレンやマリン、ケニーがいない事だ。今日出発すると言う事は伝えているはずだけど、何かあったんだろうか?
「ワイズさん、アレン達は?」
「あぁ、姉さんと会った後に相談に乗ったんですが、その後は会ってませんね」
そうか、あの時行った言葉だって意地悪で言ってみただけで、引っ掛けだったしな。
要するに、俺抜きで相談して決めた答えに反対はしないって事だ。
「そっか、じゃあ皆さん行って来ます!」
『行ってらっしゃ〜い!』
色んな人に見送られて馬車の方に向かう。
今回は混成依頼という事で、モール商会の荷馬車ニ輌と王都に向かう乗合馬車の二輌、合わせて四輌を四つのパーティーで護衛して行く。
全体的な進行速度は多少遅くなるが、それぞれで向かうより安全性は格段に上がるからどちらも断る理由は無い。
「モールさん、そして皆さんもよろしくお願いします」
「瑞樹さんが同行して下さるなら、今回の旅は約束されたも同然です。荷馬車の中に専用の席を設けていますので、そこに座って下さい」
「まぁ俺らも瑞樹がいてくれる事で楽が出来るから、よろしく頼むぜ! はっはっは!」
「あなた達の方がランクが高いんですから、しっかりお願いしますね! フフフフ!」
モールさんと挨拶し、護衛に付くパーティーの人とも軽口を言い合う。
俺がいたからと言って楽はさせんぞ?
そして先頭の馬車馬に鞭が入り、ゆっくりと動き出す。あの三人に会わずじまいで出発したのが心残りだったけど、それが答えならしょうがない。
王都までの道のりはおよそ十日間、その間に点在する小さな村や町に立ち寄るから何か楽しみくらいあるだろう。
と、思っていたんだけど、一日目の宿場町で早くもオチがついて来た。
「さて、私が何を言いたいのかわかるかな? アレンにマリン、そしてケニーまで……」
「「「ははははは……」」」
宿屋の一階にある食堂のテーブルの向かいに、乾いた笑いで誤魔化そうとする三人組がいた。
そりゃぁ見送りに来れるわけないよな。一番見送りに来て欲しかった件の三人は、実は乗合馬車に既に客として乗り込んでいたんだからねぇ。
「王都との間にある森が俺らには実力不足だって言うなら、ついて行くにはこれしかないかなって……」
「これなら王都まで見送りに行けるかなって……」
「往復の運賃は全て自腹だ。決して安くはないが、三人で決めた事だ。そしてこれが瑞樹に対する俺らの見送りだと思って欲しい」
そっか……自分たちの実力不足を把握し、考えた結果なら何も文句は言うまい。
「わかった。なら、もう少しだけ一緒に旅をしようか。私が護衛するから気楽に旅をしてね」
そう言うとマリンが俺に抱きついて来る。三人で決めた事に怒りはしないよ。
ただ、見送りにいなかったのが少し寂しかっただけだ。それと同時に別れがほんの少しだけ延びた事に嬉しくもある。
この三人に出会えて本当に良かった。
まだ始まってもいないけど、早く依頼を終わらせて帰りたいね。




