世話焼き
「そうですか、我らの姉さんが遂に王都に進出ですか。今思えば遅いくらいですね……けど俺たちはいつまでも応援してるっす!」
「「「おう! 応援してるっす!」」」
「あ、ありがとう」
大通りのど真ん中で叫ぶのは、ワイズ達『猫の額』である。俺を姉さんと慕い、色々とお願いを聞いてくれる気のいい奴らだけど、出会った当初は、ギルドからも他の冒険者からも煙たがられる荒くれ者達だったらしい。
それを俺が公衆の面前でワイズを潰してからと言うものすっかり大人しくなり、寧ろギルドに積極的に協力するようになってしまったと言う事だ。
それで今ではどうなったかと言うと……。
「何を言いますか、俺らがランク『B』パーティーになれたのも一重に姉さんの愛の鞭があってのことです! お礼を言うのは俺らの方っすよ!」
そう、何とベリット達よりワイズ達の方が先にランクが上がったのだった。
二年前の事件でベリットやユミルも活躍したが、ワイズ達も裏では偵察任務をこなし、オークキング二体を相手に避難の為の時間稼ぎをしたのだ。勝てないまでも、ランク『S』の魔物相手にあそこまで動けたんだ、昇格してもおかしくは無い。
ベリット達も昇格してもおかしくは無いと思うんだけどな。
「そして、困った事があれば何でも言ってください、ドブさらいから要人暗殺まで何でもやってみせますよ!」
ちょっっっ!! 往来の真ん中で何てこと言うんだ!! 誰も殺したい奴なんていねょ!!
「お、往来の真ん中で不適切な言葉を使うのはやめてください……けど、確かにお願いしたい事があるので、食事を取りながら話しましょう」
一般人からの不審者を見るような視線を潜り抜け、裏通りにある食堂でテーブルを囲んで本題を切り出す。
「お願いと言うのは、私が王都に行っている間、私のパーティー『エレミス』の世話をして欲しいのです」
「姉さん、世話というのは?」
「ただ、相談に乗り、分不相応な依頼を受けないように声をかけて欲しいだけですね」
そう俺がいうと、ワイズは顎に手を当て少し考え込む。それが何を考えているかは俺にも予想はつき、次に来る言葉もわかる。
「姉さん……姉さんの気持ちもわかります。ですが、冒険者と言うのは基本的に自己責任です。ランクで依頼の制限こそありますが、討伐依頼ともなれば現場で何が起ころうと、たまたまそこに居合わせない限り助けることは不可能です」
そう、全ては自己責任だ。
だからワイズ達にこんな事を言うのはお門違いで、過保護なのもわかる。
自己責任と言いながら指名依頼なのを理由にパーティーを一時的にとは言え、離脱する俺は無責任じゃ無いのか?
考えが堂々巡りして、何を食べてどんな味かも判らずに店を出る。ワイズ達を納得させるだけ材料が少なすぎる。
そんな俺を見て、ワイズ達は普段は俺を敬う様に接しているが、今回はまるで自分の子供を見るような優しい目をしていた。
「リーダー、あの言い方は意地悪ってものですぜ。瑞樹の姉さん、リーダーの言うことも間違っていないんですが、自己責任が全てじゃ無いっすよ。後輩を導くのも先輩冒険者の務めってもんっすよ!」
『猫の額』のメンバーの一人がそう語ると、ワイズが後頭部に拳骨を食らわす。どうやら美味しいところを持っていかれたようだ。
「俺の台詞を取るな! まぁ、そう言うことです姉さん。 アドバイスくらいは出来ると思いますから、心置きなく向かってください。それで、出発はいつですか?」
「ありがとう、それで十分です。出発は五日後です」
「じゃあその時は見送りに行きますんで!」
見送りか、そう言えばこの指名依頼って満了期間とか無いのか? もしかして解決するまでとかそんな途方も無い事言い出さないよな……?
とりあえずこの考えは横に置いておこう、最後はモールさんの所か。
ここからそんなに離れてないから、顔を出しておこう。
「こんにちは、モールさんはいますか?」
「おや、瑞樹さん。会長ですか、呼びますのでお待ち下さい」
そう言って店を任されていたうちの一人が奥へ行ってモールさんを呼びに行った。
ぶっちゃけ、ここの店構えを見ただけでも端の冒険者は入るのを躊躇するだろうな。
俺の場合は顔見知りだったりするから普通に入っていけるけど、もう少し店構えをアットホーム向けに出来ないものだろうか?
「おぉ瑞樹さん、お久しぶりです。今度の王都行きの便でご一緒してくださるとか」
「お久しぶりです、モールさん。えぇ、荷物の次いでで構いませんので、乗せて行ってくださればと思いまして」
「それはこちらとしても願ったりです。瑞樹さんの強さはベリットさん達からだけでなく、この街を救った一人として、知る人ぞ知る存在となっていますよ」
本人の知らない所でそんな事になっていたのか。
じゃあさっきのワイズ達といた時の視線はそれだったのか? あまり目立ち過ぎるのは控えたかったんだけど、守る為にはしょうがなかった部分もあったからなぁ。
「そ、そうですか。乗せて行ってくれる代わりに護衛はしますので、任せてください」
「はい。それと当日は、往復する為にあと二組ほどパーティーをつける予定なのでよろしくお願いします」
そりゃぁ往復となるとこっちで依頼した方が無駄は無くなるよな。誰が来るのか判らないけど、あまり揉め事は起こしたく無いね。
これで、挨拶は全部か?
あとは入念に準備だけしておこう。
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