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閑話休題 がんばれギルマス

「おはようございます、メリッサさん」


「お、おはようございます、瑞樹さん。き、昨日は眠れましたか?」


「えぇ、ユミルとマルトが祝いに来てくれまして、それにしてもマルトは意外と……っとボードのチェックを」


 今日は朝からギルドに向かいメリッサに挨拶をする。

 ドリュウの宿屋で明け方まで騒ぎ、ユミルは二日酔い、マルトは寝不足でそのままダウンだ。

 なので残った俺一人で、ここにいるわけだ。ちなみにパーティーとしては今日は休養日だに当ててある。

 さて、少し出遅れてるけど依頼ボードのチェックだ。この間の一件で、パーティーのランクは現状維持だけど、個人のランクは『D』に上がっている。

 そうして依頼のチェックをする振りをしてカウンターのメリッサを観察すると、何かを気にする様にそわそわしている。

 何かを気にする、じゃ無いな。確実に俺を見ているし、まだ何か聞きたそうだ。これはもう断定した方がいいだろう、メリッサは『黒』だ。

 とりあえず俺は適当な依頼を手に取り、メリッサがいるカウンターへと向かう。後ろめたいことがあるメリッサは体を強張らせて俺を見つめた。


「今日は一人でこれを受けますね」


「わ、わかりました。所で瑞樹さんはよく眠れた様ですけど、ユミルさんとマルトさんは?」


「ユミルさんは起こそうとしましたが、何やらうめいていたのでそっとしておきました。マルトさんは、ドアを叩いても無反応でしたのでやはりそのままですね」


「あ、あああの、それはお部屋に入って確認しましたか?」


「ユミルさんは声がしたのでまぁそのままですし、マルトさんは流石に男性ですから勝手に部屋には入れませんのでわかりませんね」


「⁉︎⁉︎⁉︎」


「え? どうしました?」


「どうしましたって、何で確認しなかったんですか⁉︎」


「何でって?」


「だってあの物件は瑕疵ぶっけ………あ……」


 やはり知っていたか。その上で俺に屋敷の鍵を渡したとなると、これは由々しき問題だ。ともすればギルド自体の信用問題に発展する。

 俺自身色々な人に世話になっているから、そこまで大事にするつもりはない。だからと言ってこのまま、はいそうですかと流されるつもりも無い。


「さて、その話しを詳しく聞かせてもらいましょうか? 話しにくい様でしたら別室でも構いませんよ。寧ろそうしましょうか」


「…………はい……」


 さて、メリッサの話しを簡潔にまとめるとだ。


『瑞樹ちゃんなら何とかしてくれるじゃろ!』


 と言うギルマスの一言で決まったらしい。

 もう少し詳しく話すと、ギルマス以上の実力者ならあの位の物件なら一人で何とかするだろうとの事だ。更に言うなら、あの数ある物件の全てが瑕疵物件で、結局はどれを選んでも『当たり』だったと言う。


「いや、何とかなってませんからね? そもそも私は『洗礼』と言うものを昨日初めて知りましたし」


「そそそそそんな! じゃ、じゃあユミルさんとマルトさんは⁉︎ もしかして見殺し⁉︎」


 見殺しとか人聞き悪いな……寧ろ君らの方が見殺しに近いんじゃ無いのか?


「そもそも誰があの屋敷で寝たと言いましたか。事前に判りましたので、以前お世話になった宿屋で寝ましたよ。それと、マルトさんの協力であの屋敷は浄化出来ましたので、そのまま住み始めます」


「そうですか、と言うことは皆さん無事なんですね。よかったぁ……」


 どうやらメリッサ自身も後ろめたさはあったらしい。そしてさっきの話しでもそうだが、やはり首謀者はギルマスと言う事になる。

 けど、これで裏は取れたし憂いも無くなった。


「さてメリッサさん」


「な、何でしょうか?」


「今回の件、メリッサさんにも責任を追及しようと思ったのですが、私のお願いを一つ聞いてくれるならこれ以上は追求しないとお約束します。いかがでしょう?」


「ほ、本当ですか? でもお願いって……」


「簡単な事です、このプレゼントをギルマスに渡しくれるだけでいいので」


 そう言って俺はポーチから小さな箱をメリッサに渡した。

 昨日マルト達と合流する前に雑貨屋で箱を見繕って買ったんだけど、結構それなりの装丁だから見栄えは良い。


「これをですか……一応中身を聞いても良いですか?」


「うん、中身はマジックアイテム。『身代わりのリング』と言う名前だったかな。まぁこの街に来た時からお世話になってるし、そのお礼と言っておいて。あ、あと屋敷のこと聞かれたら、特に変わったことはなかったと言っておいてね!」


 俺は一方的に話すと、そのまま部屋を後にして依頼に向かった。

 依頼内容は、まぁ街道沿いに出た魔物退治だ。さっき時間まで残る位だから報酬と割りが合わないんだよな。

 けど、俺にとっては簡単過ぎるくらいだから、小遣い稼ぎにちょうど良いしギルドにとっては不良在庫処分してくれてお互いに好都合な状態だ。

 で、のんびりこなしてギルドへ戻って来ると、メリッサはカウンターに戻ってきていた。

 そりゃいつまでもあの部屋にいるわけじゃ無いしな。


「はい、依頼終わりましたので、お願いしますね」


「は、はい。ではこちらが報酬になります。あ、あと無事にプレゼントは無事に渡せましたので……」


「判りました、では明日以降が楽しみです」


「??」


 楽しみと言って帰って行く俺の背を見送りながら、メリッサは首を傾げていた。

 迷惑を被った俺が仕返しにただのマジックアイテムを送るわけないじゃ無いか。修行時代に潜った遺跡から出てきたマジックアイテムだ。効果は折り紙付きだけど、その反動も凄く並の人なら速攻で根を上げるに違いないけど……まぁ頑張ってくれ、ギルマス。


 それから二日後に俺はギルマスに呼ばれたが……ノックをすれど反応は無し。まぁ理由は判っているんだけどね。


「あの、瑞樹さん……ギルマスは、お爺ちゃんはどうしちゃったんですか?」


 メリッサは昨日から様子がおかしい自分の祖父を心配して、その原因と思われる俺に問いかける。

 そしてその問いに俺が答える前に、廊下の向こうからふらつきながら歩いてきた。


「……取り敢えず入っとくれ……」


 中に入り椅子に座るも、その顔は酷く痩せこけており、ただでさえ皺くちゃな顔が最早梅干しの様になってしまっている。


「さて、私に何か言うことはありますか?」


「これ、どうやったら外れるのかのう……?」


 そう言ってギルマスは自分の腕を前に差し出すと、無骨ながら繊細な装飾の施された腕輪が見て取れた。

 うん、昨日俺が送った腕輪をちゃんと付けてくれるね。


「それは付けた人を守る腕輪なので外れませんよ?」


「いや、そうれは間違いじゃ無いのかのう? 今にもワシは死にそうなのじゃが……」


「瑞樹さぁぁん……」


 しょうがない、今にも泣き出しそうなメリッサに免じて説明するか。


「いえ、その腕輪は付けた人から無条件で攻撃を二回だけ守ってくれる腕輪です」


 ギルマスとメリッサはなるほどと頷いて腕輪を見る。二人とも攻撃を与えれば外れると思っているがこの話には続きがある。


「ですけど、それはある一定期間を過ぎたらの話です」


「そ、それってまさかと思うのじゃが……」


 そう、それが今現在ギルマスが陥っている症状。


「そうですね。その『下痢』の症状が終われば、腕輪の本来の性能を発揮しますよ」


 この腕輪、遺跡探索の時に宝箱から幾つかいっぺんに出てきたんだよ。色も装飾も綺麗だから、一つ付けてみて気に入らなきゃ売ってしまえばいいと思ったんだけど、実際は付けなかった。


「これ……瑞樹ちゃんも付けたのかのう?」


「いえ、遺跡で幾つか見つけたのですが、手頃な魔物を見繕って強引に付けましたよ。そこから観察して性能とかが判りました」


「あ、悪魔ですね……」


 人聞き悪いねメリッサ。どんな呪いがあるのかわからないのに、自身で試すわけないじゃ無いか。


「あ、因みにあと十日くらい続くと思うので」


「しょんなぁぁぁ…………うおおおおお」(ゴロゴロゴロゴロゴロ)


 そんな事言いつつ嘆いている暇もなく、ダッシュで廊下を出てトイレに駆け込んでいってしまった。


「まぁ十日後には後衛には協力なマジックアイテムが手に入るんだから、我慢のしどころですね。メリッサさんも一ついりますか?」


「いえいえいえいえいえ……私には結構です!」


「まぁ仕返ししたい人がいれば格安で譲るからいつでも言ってね」


 そこさえ乗り越えれば、素晴らしいマジックアイテムなんだけど、貴族や王族あたりに売れないかな?

 これを有効活用できないか考えながら帰路につき、俺はあの広々とした屋敷の有効活用方がないかと考えたけど、今の所は何も思いつかなかった。


「最近ギルマスの顔を見ないな」


「この間見かけた人が言うには、今にも死にそうな顔をしてたそうだが?」


「何か呪いのアイテムに手を出して、随分と手こずってるって話しだぜ?」


 などと根も葉もないけど、あながち外れでもない噂が広がり、一部ではトイレが常に臭くその傍らに必ずギルマスがいると言われて『う○こマスター』などと不名誉なあだ名を付けられたとか。


「のぉぉぉぉぉぉ⁉︎」(ゴロゴロゴロゴロ)


 頑張ってくれマスター。



 次回からは本編に移ります。

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