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閑話休題 そういうこと?

転移魔法事件が終わった直後の話になります。

ちょっとした穴埋めと言いますか、気分転換に書いたものになります。

「やっと仮住まいが終わったか。今日からここで気ままに暮らすぞ!」


 俺は一人住まいにしてはやや大き過ぎる屋敷の前で一人佇んでいた。



 話しは数日前に遡る。襲撃事件が終わり、ギルド本部や王国の調査隊達へ調査協力という名の尋問で連日拘束され、終わった頃には身も心も疲弊していた。

 ぶっちゃけ戦っていた時の方が、数段楽だった気がする。

 ぐったりした状態で二階の会議室から降りてきて、さっさと宿へ帰って寝ようとしたところに後ろから声がかかった。


「瑞樹さん、お疲れのところ申し訳ないのですが、もう一つだけお話ししたい事がありますが……明日にしましょうか?」


「いえ……良いですよ。この際ですから、聞きますよ」


 振り向いた顔はきっと酷かっただろう。

 メリッサも呼び止めはしたがその顔を見て、明日にしようかと遠慮気味に言ったがこの際だ、面倒な事は今日のうちに済ませよう。


「実はですね、先日お決めになられた報酬の家の方ですが、入居日が決まりまして」


「…………あぁぁぁ……え、マジですか⁉︎」


 疲れのせいか、一瞬何の事を言っているのか思考が鈍ったけど、思い返していくうちに記憶が鮮明になり思わず叫んでしまった。

 と言うか、すっかり忘れていた。そっかぁ家かぁ。

 そもそも家が欲しいって言ったのは、転生する前の俺の憧れから来た要望だったんだよな。

 それが日本では遂に叶わなかったけど、この世界に来てものの二ヶ月足らずで叶うとか世の中ままならないな。


「はい、入居日は明後日からになります。明日で全ての手入れが終わりますので、当日は朝からでも大丈夫ですよ。そしてこれがその鍵です」


「ありがとうございます」


 こ、これが念願のマイホームの鍵かぁ。さっきまでの疲れが一体どこへ行ったのかと思うほど吹っ飛んで行ったぞ。

 ならば今日はさっさと寝て、明日は起きたらいろいろ買い物に行きたいね。



 そして冒頭に戻るわけだ。

 市場で買い付けた家財道具一式も既に運び込まれ、あとは近所の挨拶回りだけだ。

 と言うか、この世界ってそう言うのあるのか? その辺を誰かに聞いておけばよかったな。

 まぁやって損する事はないから、両隣数軒くらいは回るか。


「こんにちは、今日から隣の屋敷に住む事になった瑞樹と申します」


「え? 隣に住むって……え?」


 隣の家のおばさんの反応がおかしい。

 ちなみに、その反対隣の住人もそのまた隣の反応もおかしかった。初めは気のせいかなと思ったんだけど、流石にここまで来ると気になるぞ。


「あの、隣の家の人もそのような反応だったんですけど、よろしければ詳しく教えて頂けませんか?」


 俺がそう言うと、おばさんは内緒話をする様に手を当てて俺に小声で驚きの内容を話す。


「お嬢さんは知らないと思うけど、数年前その屋敷で人殺しがあったんだよ。下級貴族が住んでいたんだけど、ギルドに無理難題な依頼を出しては難癖をつけては報酬を払い渋っててね。それに耐え兼ねた冒険者が貴族を殺してしまったんだよ。それ以来、その屋敷には怨念が纏わりついてね、誰も近寄らなくなっちまったんだよ。知らずに住んんだ人も裸足で逃げ出すほどの怨念だそうだよ」


 …………完全に瑕疵物件じゃねぇか!!

 やたらと条件がいいなと思ってたんだよ。それでもギルドが抑えた優良物件だと思ってみたらこれか。

 今からでもギルドにいや、ギルマスに文句を言いに行かなきゃ。


「あれ、そこにいるのは瑞樹ちゃんじゃない?」


「……ん? あぁユミルさん、こんなところで会うなんて奇遇ですね」


 思わず声をかけられた方に顔を向けると、そこには私服姿のユミルがいた。普段から冒険者の格好しか目にしないから一瞬わからなかったぞ。

 普段キュロット姿しか目にしないから、スカート姿がすごく新鮮に見える。


「今日はオフですか? 私服姿が新鮮ですけど、素敵ですね」


「えへへ、本当? 瑞樹ちゃんに言って貰えると嬉しいな。で、ここで何してるの?」


 そう聞かれて、事の顛末を話すとユミルもガックリと肩を落として語ってくれた。

 どうもこの界隈では一番の瑕疵物件で名が知れているらしく、昼間は何もないけど夜になるとそれは酷く、悪霊が悪霊を呼んで、幽霊屋敷だとか。しかも、退治しようとした冒険者が尽く返り討ちにあっているらしい。


「ユミルさん達も参加したことあるんですか?」


「無いよ? こう言う系統は聖魔法でも、特殊な浄化魔法が必要らしくてね。マルトも使えるけど、大規模とかまでは無理かな。だから私たちもアンデッドは何とかなってもアストラル系が出る様なところはなるべく避けるよ」


 そんな屋敷を私に渡すなんてどう言うことだ? 立地条件は良いから、後はなんとかしろってことか?

 にしても一度くらいは言い返すか…………いや、ちょっと良いこと思いついた。


「ユミルさん、今夜ってお時間ありますか?」


「夜? おぉぉぉぉ⁉︎ 遂に私にお誘い? これってそう言うこと?」


「そう言うことってどういう事ですか⁉︎ 用があるのはマルトさんにです」


「えぇ⁉︎ 瑞樹ちゃんってマルト狙いだったの⁉︎ 凄い意外だよ」


「狙ってません! お願いをしたいんです! 今夜、ちょっとした依頼をしたいので連れてきてもらって良いですか?」


「なーんだそういう事かぁ……そは良いけど、頼んで連れてくる私にはご褒美はないの?」


 ユミルは暴走するとなかなか止まらんな。

 まぁ確かに連れて来てもらうんだから、ちょっとくらいは何かあった方がいいか。


「わかりました。無事に終わったら新しくオープンしたケーキ屋さんがるのでそこで奢りましょう」


「よっしゃぁ! 俄然やる気が出て来たぁ! じゃあ今夜ちゃんと連れてくるから待っててねぇ!」


 そう言ってユミルは一目散に走って行ってしまった。

 いや、スカートで走るなよ。しかも外見は清楚系なのに走る姿が冒険者とか、彼氏が見たら一気に冷めそうだな。

 いや、そもそも彼氏いるかわからんし。


 まぁこれで無事に連れて来てもらえれば、瑕疵物件については目処がつくとして、あとはギルマスに趣旨返しだな。

 これはこれでちょっと楽しみになって来たぞ。

 待っててね、ギルマス。







すいません、前後編になります。

明日中に後編を上げますので、よろしくお願いします。

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