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お前らねぇ……

 いや、別にお約束が嫌いって訳じゃない。

 ただ、オブラートに包んだほうがいんじゃね? って言う時もあるだろ〜よ?


 何々?

 ゴブリン 七千二百九十三体

 オーク 三千五百五十四体

 などなど……。

 修行の時に実践と称して、延々(えんえん)と魔物狩りをやらされたっけ。


「ち、因みにこの素材は…………」


 あの時は準備するまでも無く速攻で地上に送られたからなぁ……。


「転移された元の場所に置き去りですね」


 うん、嘘は言ってない。


「そんなぁ……」

 

 メリッサさんが項垂れてる。

 そんなに素材が欲しかったのか。

 連絡手段があれば何とか出来ないこともないけど……。


「おいおい、ベリット。そんなのカードの故障に決まってんだろうよ!」


 俺の後ろから野太い声がかかる。


「こんなちっこいお嬢ちゃんが途方もない数字出せる訳ねぇだろう? 故障だっつーの!」


 誰だこいつ?

 俺の百年の修行にイチャモンつけるとか酷い奴もいるな。


「どうした、俺の顔見て。相手して欲しいのか? 流石に子供相手にベッドの上はなぁ……」


 そう言いながらも、俺の身体を舐め回す様に見てくる。

 こう言う視線って本当に気持ち悪かったんだな…………勘弁だわ。

 

「ワイズ、この子は俺たちの恩人でもあるんだ。これ以上貶めることを言うなら相手になるぞ?」


 下品な物言いに流石の俺も顔をしかめると、すかさずベリット達が俺の前に割って入ってきた。

 格好いいね。

 けど、こうまで言われて俺も黙っちゃいないよ。


「みんな、ありがとう。私は大丈夫……で、ワイズさんだっけ? 何なら外で相手しようか。どうにも喧嘩が好きそうだし」


「乗った! 勝った方が言うことを聞くで良いよな?」


 オッケー、それに乗った。

 俺も挑発に乗った格好だけど、言われっぱなしも尺だしな。


 いつのまにか俺たちを囲う様に人だかりが出来ているけど、まぁ見ときなさい!

 百年の研鑽を!


 鞘を腰から半分抜く様に構えると、ワイズもバトルアックスを上段に振りかぶる。


「始め!」


 ベリットの合図で、ワイズが猛然と突っ込んで振り下ろす!

 野次馬達がもうダメだと目を瞑るが、俺はそれよりも速く抜刀し、柄から綺麗に真っ二つにしてやった。

 チョロイよ。


「バカな…………」


「私の勝ちでいいですよね?」


 これで決まりと思いきや、ワイズはワナワナと震えながら残った柄を捨て、叫びながら襲ってくる。

 こりゃヤケクソだな。

 掴まれたらひとたまりもないかもしれないが、小柄な俺はスルリと懐へ潜り込むと、「ハッ! 」っと息を吐き、そのまま鳩尾に掌底を喰らわせてやった。


「今度こそ私の勝ちですね。賭けの内容は明日またここで言いますので、では……」


 白目を剥いて痙攣しているワイズの背中に、一言語りかける。


 一瞬の静けさの後、俺の勝利宣言により一気に周りがお祭り騒ぎとなった。

 一見クールに装っているけど、結構内心はドヤ顔だ!

 どやぁ!


 そんな喧騒を背にしてギルドカウンターへ戻ると、メリッサさんが膨れっ面で待ち構えてる。


「瑞樹さん、強いのはわかりましたけど、あまり騒ぎを起こさないでくださいね?」


 まぁそうだよな。

 こう言うのは割と好きだけど、あまり頻発しても問題児扱いされるよな。


「で、再発行出来てるのでお渡ししますね。あと、預金も無事に残っていましたので、ご確認ください」


 え、預金? 何のこと?

 受け取ったカードを見ると、表には名前と今のランクである『G』、そして裏の隅っこには確かにそれっぽい数字が刻んであった。

 そこそこの額だなぁ。

 あ、でも当面の宿代はこれで確保出来たか。


 じゃあ今日の宿を探して、今後の方針も考えないといけないな。

 

「ベリットさん達で、誰かいい宿知っている人はいる?」


 真っ先に手を挙げたのは、意外にもガリュウだった。

 この人普段は無口なんだけど、一応主張はするんだね。

 そんなガリュウ達に連れて来られたのは、それなりに立派な宿屋だった。

 中に連れられて入ると、外見同様手入れが行き届いていて清潔そうな感じだ。


「オヤジ、客を連れて来たぞ。この子は丁重に扱ってくれ」


「ガリュウ、それにみんなも無事に戻って来た様だね」


 今、オヤジと言ったね。

 父親の経営する宿屋か。


「紹介する。俺たちの危機を救ってくれた瑞樹だ。小柄だが、実力は折り紙付きだ」


「なる程、それは是非お礼をしないと。初めまして、ガリュウの父のドリュウと言います。息子達の危ないところを救って頂きありがとうございます。宿の方ですが、流石にタダとまではいきませんが、お部屋のランクサービスと明日の朝食までの提供で通常お値段でさせて頂きますね」


 要は素泊まりの値段で良い部屋と食事がサービスで付くのか。

 悪くないね。

 俺はドリュウさんと握手を交わし、それでお願いしますと了承した。




「では、無事に帰還出来たことと、瑞樹との出会いを祝して……カンパーイ!」


『カンパーイ!』


 その日の夕方、ユミルに呼ばれ一階の食堂へ降りると、隅の一角にベリット達がテーブルを囲って待っていた。

 助けてもらったお礼と言って、せめて食事だけでもと言うことらしい。

 律儀な事だ。それを言ったら、街まで案内して貰った事で相殺だと思っていたのに。


「瑞樹さんは、今後はどうするんですか?」


「そうそれ、何か目的とかあったりする? それとも一度故郷へ戻るとか?」


 マルトとユミルが突っ込んで聞いてくる。

 俺はこの世界に適当に放り込まれて、今頃女神エレンが勝手にモニタリングしてるんだろうから、ぶっちゃけ目的なんてものはない。


「ユミル、そう聞くものではないぞ」


 俺が考え込んでいると、隣のガリュウから声がかかる。


「あ、ごめん。聞いちゃいけなかったことかな」


 あーなる程、この年の娘が一人でいる事の詮索だったのか。


「いえ、良いんです。そうですね、故郷も家族もずっと空の彼方ですから……」


 どちらかと言えば、俺が空の彼方に飛ばされた方だけどな。

 この辺りは今のうちに俺の身の上として、地固めしておいた方が良さそうだ。


「うっぅぅ……ごべんねぇぇ。わたじがお姉ちゃんになってあげるから、元気だそうねぇぇぇ!」


「酒臭いです!」


 マジで酒臭い!

 ユミルが泣き上戸だったとは。


「でもそうですね。特に急いでもいませんし、今後の方針を決めるにも、暫くこの街にいるのも悪くなさそうですね」


 そう言うと、ユミルを除く三人が俺の方を見て、コップを差し出して来た。

 もう一度乾杯し、飲み干す。

 この世界に来て、初めに出会ったのがこいつらで良かったとつくづく思うよ。

 ユミル? ユミルは酔い潰れて、器用に俺の膝の上で寝てるよ。



「おはよ……頭痛い……」


 翌朝二日酔いのユミルが食堂の隅で唸っている。

 お酒弱いのに、ガブ飲みするからだ。


 宿を出る前に、ドリュウさんに暫く滞在する旨を伝え数日分の宿代を払って、向かったのは冒険者ギルドだ。

 もちろん、昨日の賭けの約束だ。

 これと言って決めてないんだけど、着いてから考えるか。


「あ、おはようございます。瑞樹さん、お手紙が届いてますよ!」


 着いて昨日の今日で手紙とか、誰よ?

 心当たりと言えばモールさんとか?

 

「姉さん、おはようございます!」


『おはようございます!』


「今日もお美しゅうございます!」

 

『お美しゅうございます!』


 差出人を確認しようとすると、頭上から意味のわからない声がかかる。

 びっくりして振り返れば、昨日のワイズとその取り巻き一味だった。


「その掛け声は何なんですか……?」


「姉さんのその強さに惚れました。つきましては、俺らを舎弟にして頂きたく思い、恥を忍んでまりました。」


『よろしくお願いします!』


 えぇぇぇ…………そう言うのいらないんだけど……。


「その話待った! 瑞樹の今後の活動は、我ら《雀の涙》と一緒と決まっているのだ!」


 俺が困っていると、ギルドホールの入り口からベリット達四人が飛び込んできた。

 と言うかパーティー名だったのか……。

 暫くこの街にいるとは言ったものの、一緒に行動するとは言ってない気がするが?


「何を言うか! 姉さんと共にあるのは、俺達《猫の額》だ!」


 お前らのパーティー名も大概だな!


 あれか? 俺のために争わないで! とでも言った方がいいのか?


 おまえらねぇ……。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  良い設定かと思います。女神候補のキャラも、面白く出来そうだと思いました。 [気になる点]  せっかく面白い女神がいるので、さらにギャグ等で引き付けることが出来たのではないかと感じました。…
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