二年経って、今さらか
「はい、今回の依頼もこれで完了です。順調ですね、この分ですとパーティーのランクも『C』に上がるのも近いんじゃ無いのでしょうか?」
アレンがサインを貰った依頼書を手渡し、メリッサが確認する。
この作業も手慣れたもので、俺達のパーティー『エレミス』はランク『D』になっていた。
このパーティーランクは、発足するときは全員のランクの平均値で決まるが、個人ランクとは別だ。
何故ならパーティーが休暇の時に一人で依頼を受ければ、その個人の功績になるからだ。
あまり無いことだけど、それで一人だけランクが上がる事もある。
「瑞樹さんがハルトナへ来て二年ですか。それで、パーティーまで組んで皆をここまで引っ張るなんて、素晴らしすぎます」
「それは、私だけじゃなくて皆の頑張りもありますので」
「いやいや、瑞樹ちゃん。瑞樹ちゃんの顔の広さのおかげで、私はマルトさんを師事することが出来たし、アレンやケニーも強くなれたんだよ。これはもうドヤ顔するべきだよ」
俺をドヤ顔させる前に、マリンがしてどうするよ……。
そう、俺がここに来て二年が経った。
そしてパーティーを組んでも同じく二年が経つ。
当初は連携も何もあったものじゃ無く、本当に酷かった。
依頼失敗と言う事態は俺がフォローして無理やり達成させたけど、教訓としてそのまま失敗でも良かったんじゃ無いかと思うくらいだ。
それでも何とかここまで漕ぎ着けたのは、やっぱり皆の努力の甲斐だと思っている。
アレンとケニーは連携もそれなりに取れて来た、それと同時に身長がやたらと伸びた。
アレンは俺と同じくらいから十五センチほど伸びて見下ろされる位になり、ケニーは元から高めなのに更に高くなった。
同じくマリンも、俺より頭半分くらい伸びた。そのせいで、俺が一番背が低くなってしまった。何で俺だけ伸びてない……?
「あ、そう言えば、あれから何か変化はありましたか?」
俺の脈絡のない質問にメリッサが反応する。これだけで何を意味するか判っているからだ。
前回の一件で、ギルマスは王都にあるギルド本部へ報告し、同じタイミングでメルも領主代行として国王へ報告した。
メルの方に帰って来た返事は概ね予想通りで、帝国の動向を探らせると言うものだった。
しかし、ギルマスがギルド本部から帰って来た返事は、微妙なものだった。
『追って連絡あるまで穏便にすべし』要するに何もするなよ。ってことだ。
「あったと言えばあったのですけど……まずはギルマスの部屋へ行っていただけますか?」
なんか引っかかる言い方だな。
この二年余り何も音沙汰が無かった分、逆にこの小さな変化が気になってしまう。
依頼も終わってまた数日休みに入るから、今のうちに聞いておくのもいいだろう。
コンコンッ
「ギルマス、瑞樹です。入りますよ」
「おぉ、久しぶりじゃのう。最近会いに来てくれないからデンちゃん寂しかったぞい」
寝言は寝てから言え。そもそも、一介の冒険者とギルドマスターと言う最高位の立場の人間が会うこと自体が稀なんだよ。寧ろ、一生面会する機会が訪れない人の方が多いだろうよ。
「はい、そうですか。で、何でしょう?」
「瑞樹ちゃんが冷たい……」
相変わらずめんどくせぇなぁおい!
「では今度、皆と食事でもしましょう」
「ほっほっほ、それは待ち遠しいわい」
今はギルマスと言う役職で辣腕を振るう凄い爺さんで通っているけど、引退した日にはただの面倒で迷惑な爺さんとなるんだろうなぁ……。
「さて本題じゃが、近いうちにお主には王都に出向いてもらわねばならんのじゃが」
「選択権は?」
「ないの。ある意味、指名依頼じゃ」
何でやねん、いや本当に!
「何で無いんですか? と言いますかどんな内容で、どこに呼ばれるのですか?」
「まぁ落ち着くのじゃ。それを今から説明するからの」
ギルマスが言うには二年前、帝国からの転移魔法による襲撃事件の調査を国が行なっていて、それが難航しているらしい。
そしてギルド本部に協力要請が出て、それならばと当事者の一人である俺に王都のギルド本部へ出向いてほしいとのことだ。
穏やかに過ごして来て、パーティーもようやく連携が取れてこれからって時にだ。ぶっちゃけ忘れかけてた位だ。
それも二年も経ってどうして?
「大雑把に言うと、尻尾を全く出さないから協力しろと言うことじゃ」
「大雑把すぎます。もう少し詳しく」
「ふむ、あの事件の直後、ギルド本部の連中と国の調査隊が来たじゃろ?」
それは覚えている。と言うか、呼び出されて根掘り葉掘り聞かれたな。
「こんな小娘が」とか「でっち上げじゃないのか?」などと言われたものだ。
ただ、これだけの事件がギルド内部だけじゃ終わらなく、領主まで巻き込んでの事だから流石に信じないわけにはいかなかったんだけどな。
何せ領主であるメルの父親が亡くなっているわけだし。
「来ましたね。今思い返しても、酷い言われ様でしたね」
「ふぉっふぉっふぉ、瑞樹ちゃんを見れば、最初は皆同じ感想じゃて」
この街では流石に顔が売れて来てるからそんなことにはならないけど、初見で会う度にその感想はたまらないなぁ。
「でじゃ、何せこれはテロ行為じゃ、国としても抗議せねばならんと思ったのじゃが……そこで問題が発生しての」
「問題ですか……?」
「警備隊が領主館の地下と鉱山を調べたんじゃがの、そこには帝国がやったと言う証拠が全く見つからなかったのじゃ」
二年越しの新事実だ。俺が意図的に聞こうとしなかっただけなんだけど。
いや、でも証言を言える人がいるだろう。
「オークに囚われていた女の人達や、鉱山にいたあの太った人の証言があるのでは?」
「女子達からはあまり有益な情報が得られなくての、オークに拐われたと言う記憶しか持っておらんかったのじゃ。更に言えば鉱山におった責任者…………えっと、名前を忘れてしもうた。最近物忘れが激しいのう」
そこは重要じゃないよ、俺なんか初めから名前すら聞いてないから。
「ともかく、あやつは確か尋問二日目で何者かに殺されたよ。牢屋で発見したときには、首を切られた後じゃった」
口封じか。二年越しに聞くその後の経過は、まるで昨日の事のように鮮烈に思い出される。
感慨深くも、今なおその事で燻っている。
「と言うことは、物的証拠が無いから帝国に深く追求できないでいると?」
「まぁそう言うことじゃ。とは言うても、それは国としての動きじゃ」
そうだな、その当時ギルドも連絡するまで何もするなと言ったんだ、当然何か考えていたんだろう。
「ギルマスがそうやって言うとなると、何か動いていると言うことですね?」
「まぁ本部の考えそうな事くらい判っとるよ。要するにじゃギルドとしては既に帝国の動向は抑えておると言う事じゃ」
押さえてる? て事は既に帝国内に偵察が入っているてことか?
「王国の偵察はどうなったのですか?」
「この国の偵察部隊はそこまで優秀じゃなくての、だからこそじゃよ」
「要するに、国がギルドに泣きつくまで温存していたと言うわけですね。それでこんなタイミングで連絡が来たのですか?」
「まさにその通りじゃ」
国の組織に入り込まない以上、無駄な仕事はしないってやつか……。
けどその分、帝国には随分と時間を与えてしまった気がする。
ギルド本部がこの時間をどのように考えているのかわからないけど、一歩間違えば帝国どころか自分達のいる王国からも危険視されかねないと言うのに。
「ギルド本部がどうしてこんな危ない橋を渡るのかわかりませんが……」
「そうじゃな……ギルドと言うのは国の組織じゃ無いと言うのは知っとるじゃろ? 確かに国ごとにギルドの特色はあるとは思うのじゃが、どの国のギルドでも共通点がある。それは国と言えど顧客の一人であり、利益をもたらしてこそと言うことじゃ。…………最も限度というものはあるんじゃがな……」
今回のこれは限度の範囲内なのか……?
まぁ指名依頼と言うなら、しょうがない。後は皆に何て言うか考えないとな……。
今回からまた新しい展開を開始します。
読んでの通りあの時から二年の月日が経ちました。その間の出来事や、ほかのキャラがどれだけ成長したかその時々で書いていきたいと思います。




