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後日

「ここの焼きそば美味しいね!」


「えぇ、私のお勧めですが、気に入っていただけた様で何よりです」


 ユミルと一緒に屋台の近くのテーブルで焼きそばを食べていた。

 あれから二週間、俺の周りだけゆったりと時が流れて行った。ギルマスが気を使ったのか、意図的にあの件から遠ざけている様だ。

 それは俺だけじゃなく、あの件に関わったほとんどの人間がそれなりの報酬の代わりに、帝国関連の情報は閉ざす様にと言われた。


 鉱山から戻った次の日、ギルマスへ詳細な報告をし、その足で警備隊本部長にもお礼を言いに行くと既に詳細が伝わっているのか、俺の事を腫れ物を触る様に扱い、初めて来た時とは天と地の差だった。


 次に、鉱山で参考人として警備隊に引き渡した責任者は、当初は「俺は悪くない、巻き込まれただけだ!」の一点張りだったんだけど、徐々にその内容を明かして言った。

 やはりと言うか、メルの父親である領主と内通していて、鉱山の転移魔法陣で帝国に連れて行く橋渡し的な事をしていたらしい。

 それでも領主自身が洗脳を受けていたとは言え、裏金で懐を肥やしていたんだから救いようがない。

 国を売ったも同然だから、この後極刑が待っているだろう。

 

 そして領主は、実はあの地下の部屋の隅で死んでいた。

 俺が来た段階で生きているのを確認出来たのは、あの帝国軍人とトバスだけだった。

 けど、警備隊の人が言うには洗脳を受けていたにも関わらず、激しく戦った跡が見られてとても素直にやられたなんて状態ではなかったらしい。

 どう言う事だろう? トバスかあの帝国軍人が命令したのか?

 トバスに聞けば何か判るかもしれない。


「瑞樹ちゃん、ボーッとしてどうしたの?」


「あ、いえ何でもありません。この後、メルの所に訪問するのに手土産をどうしようかと」


「本当にぃ? この間の事まだ考えてたんじゃないの?」


 鋭いな……けどまぁこの世界に降りて来て一月ちょっとか。色んな事が怒涛の様に押し寄せて来たからこのまったりした時間が凄く貴重な様な気がする。


「えぇ、色んな事考えていました。ユミルさん達と出会ってからこの街で色んな事が起きすぎたなと……ひょっとしてユミルさんは人にトラブルを与える何かを持っているのでは?」


「えー⁉︎ それ、私じゃなくて瑞樹ちゃんの方だよね?」


「いえ、私はこれまでのんびりと暮らしていましたよ? やはりユミルさんでは?」


「のんびり暮らしていた人が、そんなに強いわけ無いじゃない。それに遺跡探索して飛ばされた人がのんびりと言われてもねぇ」


「では、お互い様。と言うことで」


「「……ぷ……あはははは」」


 そう言えばそんな設定だった。

 この設定も色々苦しいけど、俺が自分で墓穴掘らなきゃ皆忘れて行くだろう。


「で、メルトリア様の所に行くのは良いけど、今忙しくない? 大丈夫かな?」


「逆に、息抜きさせる為に尋ねると思えば良いですよ」


「そうだよね! じゃあ手土産が何が良いか考えよう」


 メルは今、多忙を極めてる。

 メルの父親が亡くなったとの一報は街中を駆け巡った。

 しかも誰かに殺されたと、どこから流れたのか判らない話しだが、核心だけはついていた。

 犯人は誰だと噂される一方で次の領主はメルトリアとなるが、まだ若過ぎると言う意見や、お婿さんを迎えるのはどうかなど、自分が領主家の一員になると画策する貴族まで出てきた。


『そんなのは要らん! そもそも私にだって選ぶ権利はある! この混乱した時こそ、貴族の本領と考えよ! 自分の事しか考えん輩などアレンドリア領にはいらん!』


 とまぁ、領主館に群がる貴族達の前で盛大に吠えたそうだ。

 格好いいな、メル。


「焼きそばとかどうかな? もしくはソラグさんとこの採れたて果物とか」


「それ良いね瑞樹ちゃん、一層の事両方買って行こうか!」


 ちなみに今日行く事はメルの使用人にだけは伝えてあるから、馬車で迎えに来てもらった。

 領主の所に訪ねに行くのだから、本来はこれが一般的だよな。徒歩とか言い出したの誰だよ?


「流石に大きいわね……て言うか私場違いじゃない?」


「大丈夫ですよ、メルは気さくで大らかな人ですから。きっとユミルさんの事も気に入ってくれます」


 珍しくユミルが弱気な事を言うから、俺がフォローを入れる。

 二人ともどこか似た様なところがあるから、きっと意気投合するんじゃないかな?


「そっか、そうだと嬉しいな。それと、ベリット達は誘わなくてよかったの?」


「あの人達はまた次回ですね」


 ベリット達、正確にはアレンとマリン、ユミルを除いた『雀の涙』の三人。そしてケニーとトニーだ。

 オークの集落の時に貸した武器を正式にあげる条件として、今回の件を手伝うと言う約束の他に、もう一つだけお願いしたい事があった。

 それをこの二週間で詰め込んで貰っている。


「ガリュウってあまり喋っているの見ないんですけど、どうなのでしょう?」


「大丈夫だよ。あー見えて面倒見はいいよ。この間覗いたけど、結構いい感じだったし。マルトもマリンに一生懸命教えてたよ」


「でも、教えるはずのベリットは自分の事で手一杯だったと」


「あははは……」


 そう、俺はベリットとガリュウにアレンとトニーに剣の稽古、マルトにはマリンに魔法の訓練をお願いした。

 この方が俺が教えるより遥かに効率が良いはずだ。

 はずだったんだけど、ベリットは俺が渡した剣を使いきれなくてこの間の戦闘で大苦戦を強いられた。

 あれが使えたらユミルの矢の一撃の後に、そのままとどめをさせれたかもしれない。

 この差は結構大きい。

 だから、この期間でガリュウに稽古を押し付けて、魔法の基礎である魔力循環を一生懸命行なっている。

 次の依頼までには何かを掴んで欲しい。

 そして、今回の件のきっかけになったトニーは今、丘の方へ行って薬草採取と言う名の奉仕活動中だ。

 本来は窃盗と言う罪を犯したんだけど、盗んだ分のお金の返金と俺たちの作戦で囮と言う危険な役をこなしたと言う事で、二週間の奉仕活動で許して貰えた。

 ケニーも一緒に参加すると言っていたが、トニーを独り立ちさせる為に遠慮して貰った。

 当初は三日坊主で投げ出すかと思っていたけど、トニーの中で何か思うところがあったのか、泣き言も言わず黙々とこなしている。

 その影には、アレンが採取をやっていた頃の歳下の子に、トニーを仲間に入れて欲しいと頼んだのも大きい。

 一人で使命感に燃えるのもいいけど、仲間と一緒に採取するのも悪くないだろう。

 アレンやマリンやケニー、そして俺の後輩となって追いかけて来て欲しいな。


「二人とも、そろそろ着きます」


 御者を兼任していた使用人の男の人から声がかかり、よく見ればすぐそこに領主館が見えていた。

 玄関の目の前で下りてホールに入れて貰うと、まだ顔は見えないけど奥の方から声が聞こえる。


「今、私が忙しいのはわかっているだろう? アポ無しの訪問など追い返してしまえばいいじゃないか」


「いえ、どうしてもと仰る方がいますので、ぜひ会って頂けたらと。それと、これは私達使用人一同のお願いでもございますゆえ……」


「どう言う事だ……?」


「どう言う事も、こう言う事もないでしょ」


 面倒臭そうな顔を隠しもせずにやってきた為。思わず俺も顔を合わせる前に言い返してやった。

 

「言ってくれるわねメル、せっかく友人として訪ねて来たのに。元気なのは良いけど、息抜きは必要でしょ?」


「おぉ瑞樹じゃないか! 私の為に来てくれたのか。そっちはえっと……誰だ?」


 そりゃそうだ、初めてだたらな。


「こちらはユミル、『雀の涙』のメンバーよ。そして私を、このエルトナの街へ導いてくれた一人でもあるわ」


「は、初めまして、アレンドリア様! わわ、私はユミルと言うしがない冒険者をやっています」


 ユミルでも緊張するんだな。

 と言うかこれが普通の反応か。俺が神様と言う天上人と一緒に過ごしたせいで、感覚が麻痺しているのか。これから気をつけないといてないのかな?


「そうか、お主がユミルか。この間の作戦は活躍したそうじゃないか。冒険者ギルドから報告が来ておるぞ」


「そんな、勿体ないお言葉を……」


「けど……今日という日は畏まらなくても良い。私は瑞樹を友人として見ている。その友人が、遊びに来てくれたのだ。そして、その友人が紹介してくれたユミルを、私もまた友人として迎え入れたい。どうだ、私の友人になってくれないか……?」


「よ、よろしいのですか……?」


「良いも悪いも、私から頼んでいるのだぞ?」


 メルとはこういう人なのだ。

 貴族として、ほんの少しどうだろうと思う所はある。故に、味方も多いけど敵もそれなりに作るだろうな。

 領主としてはまだ始まったばかりだけど、領民思いの良い領主になることは間違い無いだろう。だからこそ俺はそんなメルでい続けていて欲しいと思う。


「わかりました。ううん、わかった、これから宜しくねメル!」


 メルの二人目の友人誕生か。

 ちなみにギルマスは数えていない。そしてメリッサも数えていない。個別に感謝の意は伝わっていると聞いたけど、またの機会があれば誰かが連れて行けば良いだろう。


「この果物美味しいな。瑞樹が依頼で行った先の農園だったか?」


「本当だね、これは癖になりそうだよ」


 館のテラスで俺達の持ってきた果物を切ってもらい、お茶を楽しむ。

 何だか自分も貴族になった気分だ。

 そして予想通り、メルとユミルは意気投合し話しに花を咲かせている。

 女三人寄れば……とは言うが、そこに俺も含まれたとしても姦しいのだろうか?

 例えそうじゃなくても話しの流れは否が応でもそっち方面に行くのだ。


「そういえばメル、噂になっているわよ? 新しい領主様のお婿様は誰になるのかと」


「その話しは市井にも出回っているのか。 本当に戸が立てられないのだな……」


「そうね。けど、見合い話しも全て断っているとも聞いているわね」


 ここ最近、メルに見初められるのは誰だと女子達の間ではずっと話題になっている。

 あっちの長男は美男子だとか、こっちの長男は文武両道だとか。

 ユミルもだけどマリンの食いつきも半端ない。会う度にこの話題を振られてすっかり情報通になってしまったよ。


「あぁ全部断ったな」


「メルのお眼鏡に敵う人はいなかった?」


「まぁそう言われればそうなんだが、私には既に心に決めた人がいるからな……」


「「え……えぇぇぇぇぇぇ⁉︎」」


 まさかの爆弾発言。

 噂話にも上がってこなかった、新事実。

 メルには心に決めた男の人がいるのか。

 まぁこの世界じゃ十五歳が成人だっけ? そりゃ好きな人の一人くらいいてもおかしくは無いか。


「で、その人には告白したの?」


 ユミルの行動が生前の近所のオバちゃんに近いな。

 そのうちお節介なことしなければ良いのだけれど……。


「していない。と言うか、そいつが気付いてくれるまでは黙っているつもりだ……」


 おーおー赤くなっている。

 こんな強気なメルをしおらしくさせる罪な人は誰なんだ?


「くぅーっっ白馬の王子様の迎えを待つ気丈な女領主! これだけで焼きそば三杯はいけるわぁ」


 ユミルをそろそろ止めないと、暴走するな。って言うかなんで焼きそば基準なんだ?


「いや待ってくれユミル、この事は頼むから内密に頼む! じゃ無いと周りからの追求で私が恥ずか死ぬ!!」


「どうしよっかなぁー」


「頼むーーー!!」


 暴走するユミルに縋り付くメル。

 以前はギルマスとメルが暴走していたけど、今回は別の意味でカオスになりそうだ。

 まぁメルの息抜きとしては上々な結果だと思う。

 こう言う日常的な雰囲気を求めてこの世界に降りて来たんだけど、すぐに色んなことに巻き込まれてしまった。

 きっと女神エレンが色々画策してるんだろうなと思いつつ、この世界に馴染んでいる辺り、俺もまんざらじゃ無いようだ。

 だから、今暫くはこの状況を受け入れながら皆と楽しくやって行けれたらと、俺は思う。

  


このあたりで一区切りとなります。


若干の小休止を入れて、次の展開に移りたいと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] この街には領主一家以外の貴族も沢山いるみたいけど 爵位制度はどうなってるんだ?
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