さぁ帰ろう!
無駄話も何だし、さっさとオークキングを倒すか。
俺はバルドルを倒した状態のまま、一人で二体分の攻撃を避けまくるワイズの援護に向かった。
大振りの攻撃とは言えきっちり避けて見せるとは、ワイズの奴実は凄いんじゃないか?
「ワイズ、ありがとう。そのまま下がって、ベリットの援護を」
「姉さん、よろしくっす!」
ワイズと入れ替わる様にそのまま踏み込み、納刀した刀を横一線に抜刀し二体の間を高速で抜ける。
そして、何が起きたかわからないオークキングは、俺の方を振り向こうとしたが、自分の視界が地面に向かったのを最後に意識を永遠に失った。
「まずは二体……次!」
「姉さん、最高っす!」
お前まだいたんかい! さっさとベリットを助けろよ!
向こうだって余裕ないんだからさぁ。
「ベリットは?」
「いや、俺はアイツ死んでもいいと思うんで……」
「あんたねぇ……」
俺的には、数少ない知り合いを死なせたくない。
それにこの世界で初めて出会って、俺をハルトナへ連れて行ってくれた人の中の一人なのだから。
まぁワイズが行かないと言うなら、俺が助けに入るまでだ。
「ベリットさん、加勢します!」
「おう、悪りぃな。こっちはユミルの援護で何とかなっているけど、攻め切れねぇんだわ。この辺りがランク『C』何だよな」
いやいやランク『S』相手に大健闘だと思うぞ。無事に戻ったらギルマスに昇格を推薦したいくらいだ。
ランク『E』が推薦していいのかわからないけど。
ともかく、ベリットと交代で俺が前に出ると、さっきの様子を見ていたのかオークキングの動きが止まり、寧ろ後退りを始めた。
ここで逃せば周辺に甚大な被害が出るのはわかってるんだ、必ず仕留める。
そう思った矢先、オークキングが踵を返して逃げ出そうとしていた。
「瑞樹ちゃん、私に任せて!」
後ろから声が聞こえ振り向くと、ユミルが既に射る態勢に入っていたのだが、その矢は赤々と光っており相当な魔力が込められていた。
そして、逃げるオークキングの背中を狙って渾身の一撃を放った。
「【マーシャリングショット】」
そう言って放たれた矢は、オークキングの背中へ吸い込まれるが如くど真ん中に命中した。
「ガァァァァァアァ!!!」
その一撃は貫通こそしなかったものの、オークキングの背骨を砕き、致命傷を与えるのに十分な威力だった。
凄いな、完全に格上を喰ったよ。
けど、まだ息があり立ち上がろうとしている。
このまま放置しておいてもいずれ死ぬだろうけど、ここは確実に止めをさしておきたいところだ。
そう思って近づいた瞬間、異変が起きた。
「ガァァア……ア“ア”ア“ア”……ア“…………」
最後の断末魔を終えたと思ったら痙攣し………。
「と、溶けてる……?」
体全体が叙々に溶け出し、まるでゼリーでできていたかの様にドロドロになったかと思うと、骨も残さず最後には地面に染み込んで消えて行った。
嘘だろ?
どんな魔物でも倒せば死体は残り、それは装備の素材や食肉の材料などとして扱われている。
この世界に来て日は浅いけど、こんな現象は初めてだ。
「何これ……こんなの初めてなんだけど……」
「俺もこんな現象は初めて見るな」
「姉さん、向こうの二体も溶けてなくなりましたわ」
ユミルやベリットも同じ感想ということはやっぱりこれは異常なんだな。
それに加えてワイズが戦っていた二体も同じか。
どう言うことだ……?
「瑞樹ちゃん、あれ!」
ユミルが叫んで指を差す方向を見ると、俺が戦っていたバルドルも同様に溶け出していた。
溶け出す差の原因はわからないけど、溶けてなくなったと言う事実が全ての共通だ。
「瑞樹……バルドルってやつもこうなったて事は、あのオークキング達ってひょっとして人間だったのか?」
呟くベリットの言葉に、全員が驚きの余り言葉を失った。
けど、領主館でトバスが言っていたことを考えると、これが融合された人間の末路って事なのだろう。
バルドルの様に自分からそうなったのか。それとも無理やりさせられたのか……。
この場所と、トバスの言った事を考えると答えは見えてくる。
「取り敢えず鉱山の中を調べましょう。ワイズさん、あの人と外を見張っていてください」
そう言って、遠くの方で両手足を縛り付けられて寝転がっている人物を指差す。
ベリットが連れ出した、ここの責任者だ。
あいつには聞きたいことが山ほどあるからな。まだ死なれたら困る。
「姉さんも、お気をつけて」
【ライト】
灯の魔法を使って頭上から照らす。照らされた内部を見渡して気づいたのが、中がやたらと広いと言うことだ。
オークキングの大きさを考えると、ここから出てきたのも納得できるが鉱山ってこんな感じなのか?
「私は鉱山の中のことはよくわからないんですが、内部はどこもこんな感じなのですか?」
「どうだろうな? 俺もよくわからんが、確か所々を木材で補強していたと思うぞ?」
「私もわかんないけど、あれが鉱山から出て来たって事は狭い通路は候補から外れるって事かな?」
なる程、じゃあ広い方へと行けば、オークキングが出て来た所に通じるってことか。
奥へ進み、分岐がある度に広い方へと進む。そして最終的に、大きな扉の前へ前に到着した。
いや、扉があった場所というべきか、扉が薙ぎ倒され内部が丸見えになっていた。
そしてその内部の中心には見覚えのある魔法陣が光っていた。
やっぱりか…………。
「これってダンジョンにある転移魔法陣だよね?」
「あぁそうだな……」
ベリットとユミルは今回の件は詳しく知らないのか。
ここまで手伝ってくれたんだから、ある程度事情は話すべきかな。
「これは帝国が開発した転移魔法陣です。そして秘密裏にこの国に設置していたと言うことになります」
「マジで⁉︎ て事は……どういう事?」
「これはもはやテロ行為ですね……」
「ならこの事を国に報告して、帝国に抗議するべきだ!」
本来ならそうするべきなんだろう。
けど困った事に、この場所では帝国がやったと言う証拠が見つけられていない。
バルドル達がいた建物も、滅茶苦茶になってしまってそう言ったものを見つけるのは困難だろう。
まぁ半分は俺が壊したんだけどな。
頼みの綱は領主館か。メルが調べてくれれば何か発見できるかもしれない。
「今のままではシラを切られて、お終いですね。悪ければ、言いがかりをつけられたと言われてこちらが不利になるかもしれません」
「そっか」
「取り敢えず、この魔法陣を無効化させて外に出ましょうか」
そう言って俺は領主館の時と同様に、四本のスローイングナイフに魔力を込めて魔法陣を無効化させた。
その上でベリットに魔法陣を地面ごと抉ってもらい完全に消してもらった。
何でこんな手間をかけるのか。設置型の魔法は無効化させないうちに物理的に破壊しようとすると、暴発して大惨事を引き起こす可能性があるからだ。
以前修行中に、魔法神アレフの話しを聞かずに手を出したら森が吹き飛んだなんて事があったんだよ……。
それ以来、この手順は遵守しようと固く誓ったんだ。
「いやぁバタバタしたねぇ……」
本当だよ、これでひと段落付いたんだから暫くはのんびりと過ごしたい。
そうして鉱山から出ると、警備隊のカルット達も駆け付けてくれて、この惨状を見て更に応援を呼びに行ってくれた。
「なる程そんな事が。でも凄いですね、オークキングを三体とも倒してしまうとは」
「そう、瑞樹ちゃんは凄いのよ!」
いや、ユミルが入ると話しが進まないから勘弁してくれ。
「ベリットさん達を街に戻らせたいのですが、よろしいですか?」
「構いませんよ、参考人はこちらで預かります。それと報告は冒険者ギルド経由で構いませんから、瑞樹さんも今日はもう帰って休んでください」
「良いのですか? 私は今回の指揮を任されているのですが……」
俺も本当はお腹が空いていて、何か食べたい気分だ。
けど今回の作戦の指揮を任されている以上、協力を仰いだ警備隊にだけ任せるわけにはいかない。
「ならこの場には俺らが残ろう」
背後から聞いた事がある声に振り向くと、そこには懐かしいと言うわけではないけど、出来ればもっと早めに来て欲しかった人達がいた。
「オーグさんとアイラさん!」
「すまんな、こっちも用事があってな。戻って来たら、ギルマスが大至急ここへ行けと言われてな。そしたら全部終わってたと言うわけだ。まぁ瑞樹がいれば、そりゃ終わるわな!」
どうやら依頼から戻ってきた『猫の手』の二人をギルマスの権限でここへ派遣させたようだ。
タイミング的には一歩、いや二歩ほど遅かったけど……。
「いや、わりと面倒だったんですけど……」
「苦戦したと言わない辺り、まだ余裕がありそうだねぇ。どこまで強いのさ、瑞樹」
二人とも言い様が酷いな。
でもまあギルマスが来させたとはいえ、多少なりとも気にして来てくれたんだ。
今はその行為に甘えよう。
「私はそれ程強くありませんよ。でも今回は二人の好意に甘えさせて頂きます」
そう言って笑顔で答えると、二人も笑顔で現場に入ってくれた。
「皆、ありがとう! 街へ戻りましょう!」
俺は今日一番の笑顔で皆とハルトナの街へ戻って行った。
ようやくこの話しにひと段落着きそうです。
残りは後日談とかそんな感じになりますね。




