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一閃

 人間と言うものの定義が何処までとするかと問われたら、正直回答に困る。が、間違いなくこいつはそれから外れるだろう。

 なぜって? これはもう人間を辞めている。 その証拠に、バルドルの言葉がさっきから何を喋っているのか聞き取りづらくなっている。


「ヲマエラヲ コロシテ サッサト ココカラ デウンダ ヲマウェラヲ クウンダ……ウワセロォォブルァァァァ」


 片言の言葉から最後には叫び声にしか聞こえなくなった。理性を失ったのか。

 さっき飲んだのは、魔物になる薬だったのか?

 意図して人間を辞めたのか、それとも辞めさせられたのか。

 どちらにしろ、こっちに被害が及んでいる以上殺さないなんて話しはない。


「残念ながら私に喰われるなんて選択肢はないんでね」


 俺がそれだけ言うと、バルドルは床を蹴り力任せに殴りかかって来た。

 頭上から振り下ろされる拳をバックステップで下がると、その拳は床を打ち抜き衝撃で部屋の大部分が一階へ崩れ落ちる。

 バランスを崩して体を打ちつけたが、ダメージなどまるで無いように立ち上がり、再び俺に拳を向けてきた。

 しかし、その尽くを避けては刀で斬る。

 けど、さっきと同じ様に、硬いゴムを切った様な感触で手応えとしてはいまいちだった。

 その証拠に表面上は斬れて出血はしているけど、そのどれもは浅く、そしてすぐに血が止まってしまっていた。

 俺も攻め切れないでいるけど、バルドルも俺に攻撃を当てられない。

 バルドルは図体がでかくなって筋力は上がった。お陰で踏み込みや拳の速度は上がったんだろうけど、そのどれもが直線的で読みやすい。

 そして小回りが利かないから動作が単調になってしまっている。

 けど、俺もいつまでもこの状態を続けたい訳じゃ無い。

 そろそろベリットやワイズ達も大方避難が終わっているだろう。

 ここじゃ狭いし、そろそろ広い所で暴れようかな。


「バルドル、貴方がどれだけ耐えれるか試させてもらうね【身体強化】」


 魔力で身体機能を大幅に強化する。

 そして………。


「ふっとべぇぇぇぇ!!」


 一気に踏み込み、鳩尾目掛けて蹴りをお見舞いだ。

 普通の女の子の蹴りなら、大したダメージにもならないだろう。

 けど俺が蹴ると、バルドルは派手に吹っ飛び壁をぶち抜いてそのまま地面を転がって行った。

 俺も後を追いかけて外に出ると、離れた場所でベリットとワイズがオークキングを他に行かせまいと足止めをし、少し離れた場所でユミルが援護をしていた。

 と言っても相手は格上、一体ならまだしも三体となるとそう長くは持たないかもしれない。

 鉱山にいた人達? もちろんとっくに逃げ出したよ。いや、一部の人達は自分らの宿舎に隠れているのがわかる。

 不用意に顔を出して巻き込まれない様にして欲しいものだ。


「ゴルゥァァァァァァァァ!!!」


 脇見をしている間にバルドルが起き上がってこっちを睨んでいる。ぶっちゃけその目には、理性のカケラも残っているとは考えにくい。


「取り敢えずぶった斬るか……」


 強化も何もなしで斬りかかった時は擦り傷程度しか負わせれなかったけど、ここからは違う。

 体内に循環する魔力を刀身にまで通わせる。

 すると、刀身が白く淡い光を放ち出した。

 どうも刀に使っている材料が非常に魔力との親和性が高く、魔力を通わせることで斬れ味が各段に増すらしい。

 らしいと言うのは、鍛治の類いの話しが俺は全く疎いからだ。

 バルドルがまたもや本能のみで真正面から突進してくる。

 ぶっちゃけ路地裏で相手した時の方がよほど面倒だったな。

 では、この斬撃でどれだけダメージが入るかお試しだ。

 単調に振り下ろしてくる拳を大きく避け、地面に大穴を開けた右腕目掛けて上段から一気に振り下ろす。


「ハッ!!」


 その瞬間、通常の状態じゃあれほど斬れなかった腕が豆腐の様に刃が通り、一瞬空振りをしたかの様な錯覚さえ感じた。

 そして、腕を斬り飛ばして尚も魔力の斬撃が後方に走って行く。

 振り下ろした刀の刃を返して斬り上げ、もう片方の腕も斬り落とす。

 その状態でバルドルを少し観察するが、流石に斬り落とされると先ほどの様に傷が全部治るわけでも無いらしい。

 こんな状態になった原因の薬が一体何なのか知りたい所だけど、今更バルドルに言葉が通じるとは思えないな。

 一応痛覚が残っていたのか、一頻り叫んだバルドルの目は憎悪の籠もった目を俺に向け、やはり俺に向かって走ってくる。

 恐怖ってものがないのか? それはそれで怖い話しだ。

 猛然と向かってくるバルドルに刀を正面に構えて、その眉間に刃を突き立てる。

 俺が動いたのは腕のみ。 突っ込んでくる相手に対して切っ尖を向けるだけで終わる。


「ガッ…………。デ、デイゴクハ…………」


 刀を引き抜くと、よくわからない言葉を話す。

 まだ意識があったのか、何かを喋ろうとしていた。


「バルドル、貴方が飲んだ薬は何なのですか?」


「グズリ……ヂ、ヂガラヴォ…………」


 その言葉を最後に目から光が消えて、何も喋らなくなった。

 ダメか……と言うか脳を壊されてまだ喋ったことの方が凄いのか。

 この遺体は後で回収するとして、次はベリット達の応援だ。

 そう思って向こうを見ると、善戦していた。

 ランク『C』では辛いかと思っていたんだけど、その鍵となったのがなんとユミルだ。


「ベリット! 撃つよ!」


「おう!」


 ユミルが叫び、ベリットもそれに合わせて射線を開けた瞬間に、一瞬にして風を纏った矢が過ぎて行きオークキングの片目を奪った。

 その隙に無意味に暴れるオークキングの背中や脇を斬り刻んでいく。

 なるほど、そうやって少しずつ削って行っているのか。

 と言うか、ベリットも俺が渡した剣を持っているのに、何で使わないんだ? 


「おう、瑞樹かちょっと手伝ってくれ!」

 

「ベリットさん、何で剣の能力使わないんですか?」

 

「簡単なことだ、いまいちわからん」


「いや、剣に魔力を通すだけですけど」


「魔力の通し方がわからん」


 うん、なる程……そうきたか。

 この件が全部片付いたら、アレン達を含めていろいろ考え直そう。


まっててくれた方、お待たせしました。

昨日は色々と立て込んで投稿できませんでした。

今後もこう言うことがあるかも知れませんが、よろしくお願いします。



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