どうするよ……?
鉱山の入り口が溶解と崩落で騒ぎになっている最中、ベリット達は昼間の男が入った建物の扉を見張っていた。
次々と騒ぎを見に行く中に、やはりと言うか、その男はいない。そりゃまぁ裏で動いてそうな奴だけに他の連中と一緒には動けんか。
そんな中、人が捌けた建物にベリットとワイズが突入する。
目標は決まっている、鉱山の責任者の確保だ。
もしくは俺が追いかけていた男でもいいけど、寧ろあいつは無力化するか、一層の事殺してしまった方がいい。
領主館の時は簡単に口を割る奴がいたから良かったけど、今朝からの行動を見ているとそれも難しそうだ。
さて、俺もベリット達と合流して手伝わないと。
いつまでも向こうに注意を外らせれるわけじゃ無い。
建物を若干大回りに迂回し、裏手の扉から入っていくと、案の定二階から大声が聞こえた。
「き、貴様、何者だ!」
「何者も何もハルトナの冒険者だよ! お前さんには聞きたいことがあるから一緒に来てもらおう」
「バルドル、バルドルはいるか!」
「あぁ、いるぞ。俺も焼きが回ったな、これは後をつけられたと考えるべきだろうな」
俺が部屋に着いて見ると、黒ずくめの男と責任者、それと護衛が二人だけだった。
四人だけと言うのは幸運な方なのかな。
「ベリットさんはそこの太った人を連れて脱出、ワイズさん達は護衛っぽい二人を抑えて下さい。私はそこの黒ずくめの相手をします」
「え、俺はあのデブを連れていくのか?」
うん、わかる。何か暑苦しそうで、重たそうだ。
更に走らせても遅いだろうし、大変だけど頼んだよ!
ワイズ達にも護衛の相手を頼むけど、作戦の説明の時に『敵は殺さずに無力化』のみと制限をつけた。
魔物や明らかな敵だとわかれば殺しちゃってもいいけど、今回はどちらかと言うと俺らが強盗っぽいしな。
「大変だと思うけど、よろしく…………」
俺もこんなデブだとは思わなかったんだよ、そんな目で見ないでくれ。
「バルドル、こんな賊どもは殺してしまえ!」
「いや、死ぬのはお前の方だな……」
まずい!
黒ずくめ……バルドルと同時に、俺も同じ動作をとる。
結果、バルドルと責任者との空間で、金属同士がぶつかる音が部屋に響いた。
それが合図となり、責任者と護衛以外の全員が動き出す。
「な、何が起きたんだ⁉︎ ひぃ……⁉︎」
瞬間的に自分のナイフが止められたと判断したバルドルは、そのままデブ、もとい責任者を殺しに床を蹴るが、その目の前に俺が立ちはだかりダガーで捌く。
「悪いですが、この人は参考人なので私たちが預かります。ベリットさんお願いします」
「おう、おっさん、死にたくなければ必死に俺に着いてきな!」
「はいぃぃぃ!」
ベリットが煽りながら部屋を出ると、その次いでとばかりに護衛達も逃げ出した。
この人達も洗脳は受けてないのか、なら残りは結構楽か?
バルドル一人に対して、こっちはワイズ率いる『猫の額』と俺の五人だ。
「形勢は決まった様なものですから、こちらの要望に応えてくれると嬉しいのですが」
「昼間にも言わなかったか? 無いと…………そうか、お前だな? 領主の所にあった転移魔法陣を潰したのは」
確かに俺だな。
そして魔法陣はここで三箇所目だ。
けど、今はこいつを捕獲したい。
「そうですね、そしてここで三箇所目です。入り口は潰したので、あなたの逃げ場はありませんよ」
再度、降伏勧告を促す。
まぁ無理だと思う。別に戦うことになってもこの状況だと問題ないしな。
「逃げ場がない? 本当にそう思うか? この俺が、何で直ぐに魔法陣で逃げなかったと思う?」
バルドルが不適に笑って語ると、不意に外から轟音と悲鳴が聞こえた。
何だ?
「あ、姉さん! 塞いだ入口を蹴破って何かが出てきやした! あれは…………オークキングです! しかも三体!!」
マジで⁉︎ と言うかどうして中から出てきた?
圧倒的有利だと思っていたら一転して窮地に陥った。
俺一人なら難なく倒せるけど、入り口に群がっていた他の連中を守りながらとかはまず無理だ。
漏れなく何人かは犠牲になる。
と言うか、バルドルどころじゃなくなった。
「さぁどうする? こうしている間にどんどん犠牲者が出るぞ? 俺に構っている場合じゃないんじゃないか?」
本当だよ、ここはワイズ達に任せて向こうへ行くべきか……。
「ワイズさん、ここは……」
「まぁそうは言うが、お前は俺の相手をしてもらうがな!」
そう叫ぶとバルドルは口に何かを入れて飲み込んだ。
今何を飲んだ? 薬か?
クソッ嫌な予感しかしない……。
「くぅぅ……来たぜぇぇ……ぐっあぁぁぁぁっぁぁぁぁ!!」
呻く様な声と共に蹲ると、背中が異様に膨れ上がり、それが首、肩、腰、腕、そして足と、元の人間という種族がら逸脱した異形の存在へと変化した。
肌も肌色から赤褐色へと変貌し、変化が落ち着くとゆっくりと立ち上がりこちらを見下ろした。
「姉さん、これは……」
「どうやら人間を辞めたようですね……足止めするから全員急いで外に出てください」
なりふり構っていられないな。
ポーチから刀を取り出し帯刀すると、そのまま間髪入れずに抜刀して斬りかかった。
しかし、オークキングの首を跳ね飛ばした刀を何とそのまま腕で止めた。
皮膚に当たっていると言うよりは、硬いゴムに当たった感触だ。
「あなた、わざとワイズさん達を逃しましたね?」
「あぁ、雑魚に要はない。俺は冒険者でいうところのランク『A』って所で、結構腕には自信あったんだけどな。それをこんな小娘にしてやられたままにはしておけなくてな」
結構プライドが高い奴だったのか。
それよりもこいつの強さはランク『A』辺りだったのか。
で、今はどんなもんなんだ?
俺ももっと本気出さないと怪我するか……。
じゃあ修行の成果ってのをこいつで試そうか。




