は? どゆこと?
「ごめんなさい。私の失態です……」
「何を言うか、あやつが助かったのは紛れも無くお主のおかげじゃ」
俺は一連の出来事をギルマスに報告したあと、深々と頭を下げた。
メリッサ達がギルドへ駆け込んだ時は一時騒然としたらしく、メルの保護や警備隊への応援などで慌ただしくなったとか。
確かにメルはポーションで助かったが、重要容疑者はトバスに殺されるし、更にそのトバスにはみすみす逃げられるし……。
いい所が全くなんだよな。ギルマスは俺を労って褒めてくれるが、本当にあれでよかったのか今でも疑問に残る。
いかんいかん。ネガティブになっているな俺。
ここは頭を切り替えて行こう。
「それとギルマス、鉱山へ大至急、偵察を出した方がいいかもしれません」
「もう出しておるよ。メリッサちゃんが血相を変えて飛び込んできた時には随分驚いたが、もしやと思ってワイズには既に向かってもらったわい」
エロいけど、こういう時の対応はさすがギルマスだと思う。
エロいけど……。
「そうですか、ありがとうございます。そうなると明日からの巡回の方ですが、そのまま決行でいいですか?」
「そうじゃの、そやつらの今の動きが気になるところじゃが、ひとまずそれで進めてみて、あまりに動きが無いようなら撤退したと見て間違いないじゃろうな」
強盗も帝国の刺客と見てるのか。
まぁ最悪を想定しといても損はないということだな。
「わかりました、今日のところはこれで失礼します。あと、メルのお見舞いをしたいのですが、今はどちらに?」
「それなら、一階の救護室におるぞ。瑞樹ちゃんが顔を見せれば安心するんじゃ無いかのう?」
そうか? まぁ俺で安心するなら顔出しくらいはするぞ。
それならと、メルの所へ向かおうとした時にギルマスが止める。
まだ何かあるのか?
「それと、トバス殿の事は今はまだ内密にの……」
そりゃそうだ。
刺されて体力も精神力も参っている時に、追い討ちはかけられない。
と言うか、永遠に封印しておきたい。
「…………とりあえず行方不明と言うことにしておきます」
「そうじゃの……」
バレるまでそうしておこう。
コンコンッ
「失礼します。メルの……メルトリア様の容態はいかがでしょうか?」
「おう、瑞樹か。ここは私とこいつらしかいないから好きに呼んでいいぞ」
寝てるといけないと思って気を遣って入ってみたが、意外と元気そうだった。
それでもよく見ると、顔は若干疲れているように見えるし、目が赤くなっている。
泣いていたのか?
「わかった。メル、もし良ければ当時のことを話してもらっていい?」
「そう来ると思ったぞ、私が覚えている分だけ話そう。その前に瑞樹に話していなかったが、実はな私の父上は生きていて、洗脳されていたんだよ」
「知ってる。昨日ギルマスから聞いて、その洗脳をギルマスが上書きしたんでしょ? それと、転移魔法陣も見つけたとこまでは聞いてる」
「そうか、なら話しは早い。それで私の父上は事実上デンと私の支配下だっはたずで、一定の命令以外は勝手に歩き回らないはずだったんだよ。それが瑞樹の来る少し前に、勝手に部屋を出たと思ったら、一階の隠し部屋にある魔法陣の場所に行ったんだ。」
なる程、この時点でギルマスとメルは、更に上書きされたか、ギルマスの洗脳を解かれたのを気付かなかったと言うわけか。
「それで、その後をつけて行くと、下の部屋で父上が誰かと話している声が聞こえて、そっちに集中しているうちに背後から脇腹を刺されたのだ」
「なる程、その刺した奴の顔は見たの?」
ここ! ここ重要な所!
身内同然の人間に刺されたとなれば相当なショックだと思うけど……。
「いや、咄嗟に光の魔法で目眩しをして脱出したから見てはいないな」
そっか、それならそれでいい。
今は回復に努めて欲しいな。
「あと最後に、その隠し部屋で話していた内容は覚えてる?」
「何だったかな? もう暫く準備が必要とか言ってたかな? そんなに長いこといなかったからな……でも」
「でも?」
「私が刺されて声を上げた瞬間……父上が『逃げろ!』と叫んだ気がする……」
洗脳状態でそう言うことがあるのか? そう言う系の魔法は全くわからんから、またギルマスに聞いてみよう。
とにかく、何かの準備段階なのはわかった。まだ鉱山の方にも帝国軍がいそうだし、そっちからも何か情報が手に入ればいいんだけど。
「そっか、ありがとう。メルからは何か聞きたい事はある?」
「父上がどうなったかわからないか……?」
「わからない……あの部屋に行った時には……帝国軍の人間がいただけだから」
「そうか……あと、トバスを見なかったか? 使用人に聞いても、誰も見ていないと言うんだ。ひょっとしてあの騒動で何かに巻き込まれていやしないか不安なんだが……」
「ごめん、それもわからない。何か情報が入ったら直ぐに伝えるね」
やっぱり、今はまだ真実を知るべきじゃ無いだろうな。
あの現場には数名の死体が転がっていた。その中にメルの父親がいたのかはわからない。
その辺りは警備隊に任せればいいだろう。
「頼んだ。そ、それと瑞樹…………あのな……そのな……?」
どうしたメル? 歯切れが悪いな、言いにくいことか?
いつもの感じと違い、毛布を掴んでモジモジしている。心なしか顔も赤い、何かあるのか?
「どうしたの? 言いにくいことなら、無理に言わなくても……」
「ぐぬぬぬ…………気付かんのかバカもの!」
え、ちょっと待て…………今ので何を気付けと?
俺、何かしたか……?
「え、私が何かしたの……?」
使用人の何人かに顔を向けても、呆れ返った顔をするばかりだ。
これは知っているけど、考えろって事だな。
「もういい、私は寝る! 次に会うまでに思い出せ!」
追い出されてしまった。
はて、何かしたかな?
廊下に出て何だんだろうと感んがえると、使用人の一人が見送りのついでに一言付け加えてくれた。
「瑞樹様、この国では少数ながら同性婚も認められてます故……」
は……? 今の助言? メルの件と何の関係が?
余計わからなくなったぞ……。
いや、そう言うつもりじゃなかったんですけど、そう言う流れになってしまったと言うか。




