だろうと思ったよ!
「あの〜これは……」
俺はハルトナの街の門の脇にある小屋の中で、兵士達に囲まれて尋問を受けていた。
「モールさんすいません。こればかりは俺たちも職務なんで」
身分証を持たない俺は、ベリットやモールさんの説得も虚しく、小屋へ連れてこられたと言うわけだ。
職務に忠実な事で……。
お約束という訳じゃないけど、やっぱり名前や出身地を聞かれるよな。
この辺りは、生まれ変わっても変わんない訳だし定番なんだが、まさか日本の地方都市の生まれと言う訳にもいかないし。
「えっと名前は瑞樹で、エンガイアの東海岸の片田舎の出身なんですけど……」
事前にマルトに地名と場所を聞いておいてよかった。
「わかった。じゃあこれは仮入門証で、身元はベリットさん預りにするから早い所再発行する様に。再発行先に仮入門証を渡しててくれ」
「わかりました。ありがとうございます」
一人で来たら入るのにもっと手こずっただろうな。
そう思うと、あそこで出会えたことに感謝だな。
女神エレンはそんな計算はしてなかっただろうと思うが。
「ではモールさん、我々の依頼は防壁の中までと言うことなので」
「今回はありがとうございます。次回もご指名するかもしれませんので、よろしくお願いします。」
「ではご贔屓に」
「瑞樹さんも、ありがとうございました。もし良ければモール商会をよろしくお願いします」
「はい、ここまでありがとうございました」
あの人、会長さんだったんだ。
自ら動き回るなんて、アクティブな人だな。
「さて、瑞樹の身分証なんだが、遺跡探索で無くしたんなんなら、冒険者だということだよな? なら冒険者ギルドか」
あ、そう言う設定だったっけ。
俺が頷くと、ベリット達に連れられて冒険者ギルドへ向かったんだが、街の規模に比例してか、ギルドの建物も結構大きい。
そのど真ん中の扉を堂々と入って行く四人の後を、俺もついて行く。
「あ、お帰りなさい、ベリットさん。その様子ですと、無事に完了した様ですね」
「まぁな、あと少し野暮用を頼まれてくれよ」
ベリットがそう言うと、ユミルが俺の背中を押し、カウンターの受付嬢の前に出してきた。
「この子、瑞樹ちゃんって言うんだけど、依頼中に身分証無くしちゃったらしくて、再発行して欲しいんだけど」
「構いませんけど…………滅茶苦茶可愛い子ですね。ユミルさん、どこで拾ったんですか? 私にも一人くださいよ」
一家に一台の家電じゃねーんだぞ……
だが、気安いやり取りが出来るくらいには、ベリット達が信頼されていることがわかったから良いとしよう。
「初めまして、メリッサと言います。じゃあ再発行するので、この紙に名前を書いて下さいね」
おっけー、おっけー。
……字、書けるのか? そう思ったが、その辺りは特典の賜物か、字の読み書きは問題無く出来るっぽい。
そう言えば、普通に話せるもんな。なんで今まで気づかなかったんだろう……。
「可愛い子は、字もかわいいですね」
そんな事知らんがな……
「では、このカードに血を一滴貰いますね。再発行ですと、ちゃんと今までのランクと討伐記録も戻ってきますので、問題ないですよ」
あ……それやばくね?
この世界に来たばかりで、無くしちゃったとか言ったけど、遺跡探索の嘘がバレてスパイ容疑かけられるとか?
そんな心配をしてたら、案の定と言うか受付嬢が固まった。
やっぱ嘘がバレたのか?
「どうしたんだ、メリッサさん。…………なんだこれ……」
「ウソ……」
「いや、カードは嘘つかないぞ?」
「ならこれは真実という事でしょう……」
訝しんだベリットや他の三人も、再発行されたカードを覗き込んで驚いた顔のままで固まった。
どうしたんだろう?
「あの、何か…………?」
ここは大人しく、下手に出たほうがいいだろうと恐る恐る尋ねると、何故かメリッサさんも恐る恐る尋ねてきた。
「瑞樹ちゃんは見たところ、最近冒険者になった感じですか?」
空に転移された時からをそうと言うなら最近だな。
「このカードはご本人が実際に魔物を討伐された数が出るんですけど……」
要領を得ないな。
何が言いたいのかよく判らんからカードを受け取って見ると、俺も固まった。
あぁなる程…………そう言うことね。
要するに天界で修行した時の数もカードに出てきちゃってるんだな……
武神ガレルや魔法神アレフとの修行した時に倒した数も含まれていた。
やっぱお約束かよ!




