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本当は……

「ここのクッキー本当に美味しいんですよ!」


「私も気になってたんですよね、でもメリッサさんが言うのなら間違い無いですね」


 俺はメルの所へ向かうのに、メリッサを伴って歩いている。

 昨日の今日で私に対する態度が百八十度変わってしまった事への罰ゲームだ。

 と言っても、脅し過ぎた俺も悪いし、調子に乗ってギルマスと下らない茶番をしてしまった事へのお詫びも兼ねて、散歩へ連れ出したのだ。


「けど、私も行って大丈夫なのでしょうか?」


「公式訪問ならいざ知らず、今回は私的に訪れるから大丈夫でしょう」


 と言っても、俺も来るのは二回目で、更に私的に訪問するのは初めてだ。

 ギルマスは大丈夫だと言っていたが、貴族に対してアポなしはどうなんだろう?

 まぁ無理だったらギルマスのせいにして、お土産だけ渡して帰ろう。


「しかし、領主館が見えているのに一向に辿り着きませんね」


 俺も前回来たときは馬車で出迎えだったから、どれだけ遠いかは考えていなかったよ。

 次に来るときはもう少し、考えてから来ないとな。

 そんな事考えて歩いていると、突然領主館の正面扉が開き、血相を変えて使用人達がワラワラと出てきた。

 その中にはメルもいるが、足取りが少しおかしい。


「何か様子がおかしい、メリッサさん先に行ってますので、後から追って下さい」


「は、はい!」


 メリッサもおかしいことに気付いて、俺を先行させてくれる。

 急いで辿り着いてみると、おかしいどころじゃなかった。


「メル、大丈夫⁉︎ 出血がひどい……一体どうして?」


「わかりません。物音がしてお嬢様を発見した時には既に出血をされていて……しかも意識が……」


 話している場合じゃなかった、ポーションを!

 一本は、傷口にかけて、もう一本は何とかして飲ませないと……。


「メル飲んで! 意識を保つんだ!」


 外にかけた分は少しずつ塞がっているけど、それでも血が足りない。

 それを補うのが経口摂取したポーションだ。

 けど、気を失っている状態では飲ませれない…………しょうがない、メルよ許せ!


「瑞樹さん、何を?」


 メリッサがポーションを口に含んだ俺に疑問を投げかけるが、いちいち聞いてられない。

 そして、口移しでポーションを流し込む。少しでも飲めば、そこから回復に向かうから心配ないのだけど……。

 頼むから飲んでくれ……。

 そう願った瞬間、メルの喉が少し動いた!


「よし……これで少しずつでも回復に向かう筈だ」


「瑞樹様、ありがとうございます!」


「挨拶は後でいいから、馬車を用意して!」


「大丈夫です。先ほど取りに行かせたので、もうすぐ来ます」


 流石はメルの使用人、こんな時でも優秀だ。

 でも肝心のあの人がいない……何故だ?


「そう言えば、トバスさんは?」


「わ、わかりません、発見したのはお嬢様だけですので……」


「ト、トバスはわからない……」


 目を覚ましたのか。

 傷口は塞がったけど、流石にまだ辛そうだ。


「メル、これはどう言うこと?」


「判らない、お父様の動向を見張っていたら、後ろから刺された……地下は、ホール入って右奥だ……」


「わかった。メリッサさん、馬車が来たらギルマスに保護を求めて下さい。私はこのまま地下へ向かいます」


 俺はメリッサに予備のポーションを渡すと、そのまま領主館へ入って行った。

 さて、まずは地下へ目指さないと。と考えていたけど、それはすぐにわかった。

 血の跡……メリッサのか。

 そのまま血の跡と、言われた通りに右の通路を歩いて行くと、一番奥に不自然に壁が開いていた。閉じていたら壁と一体化して普段じゃわからないだろう。

 隠し扉か。

 そしてその奥で微かに剣撃の音が響いて来る。

 と言うことは、確実にこの奥にトバスがいるだろう。

 このまま駆け出したい気持ちもあるが、この先に何があるか判らない以上、もう少し慎重に行くべきだ。

 このまま、狭い通路で敵と出会うなら、スローイングナイフかダガーか……屋内では刀が不利になる可能性が大きい。

 持ち歩いたまま進むべきか。



 そうして進むと、剣戟の音が大きくなって、薄暗い通路の先に終わりを示す様に一際明るい部屋に差し掛かった。

 その先でトバスが戦っている様だ。

 悪いけど、少しだけ様子を見させてもらおう。


「流石に限界の様だな。けど、こっちも散々部下を斬られたんだ、爺さん一人じゃ割りに合わんから、館の娘達にも帳尻合わせてもらわんとな」


「はぁはぁ……それは……困りますね、私の趣味は……お嬢様の成長記録を……綴ることです。あの……しなやかな肢体を眺めて……日記に……記す事が……今の生きる糧ですので、……貴方のその帳尻とやらを……何としても……阻止せねば……なりませんね」


 最後の部分は格好いいけど、それ以外はただの変態だな…………。

 床に転がっている死体の数から見ても、相当頑張ったみたいだ。けど、それも限界だな。息が上がり過ぎている。

 それでも言い切りたかったのか。

 しょうがないね。


「トバスさん、交代しましょうか?」


 突然の階段からの声に二人して驚いてこっちを見る。

 トバスは援軍に喜んでいるが、逆に男の方は嫌らしい目つきに変わった。


「瑞樹様、かたじけない。この者は手練れゆえに気をつけてください」


「ありがとう。これポーションです、飲んで先に上がってて下さい」


「おいおいおい、何勝手に決めてるんだよ? その爺さんは殺すよ? そして君もね、その身体を味わった後にだけどな……」


 うわぁ、寒気が走るわ。

 この手の目つきって皆同じで、視線がどこに向いているのか丸わかりだな……。


「で、貴方は誰?」


「そんな事も知らずに、ここへ来たってのか?」


 まぁろくに話も聞かずに来たことは認めよう。

 でも、まぁわかる事が一つ。

 こいつの向こうの床の魔法陣、あれこそがギルマスの言っていた転移魔法陣だ。

 確かに記憶にあるな、修行時代にどこかの凄く深いダンジョンで、見た記憶がある。


「貴方が誰かはわからないけど……後ろの魔法陣から来たって事だけはわかった」


「ほう、これが転移魔法陣って事がわかるのか。博識だな」


 いや、事前に聞いてたし、それに一応見覚えあるから。

 まあ取り敢えず、やる事は決まっている。

 相手が油断しているなら好都合だ。


「それはどうもありが……とう!」


 そう言いながら、魔法陣に向かって魔力を込めたスローイングナイフを四本投げる。

 男が完全に油断していたのもあって綺麗に決まった、気持ちいいね。

 そして決まったと同時にナイフが光ると、逆に転移魔法陣は急速に光を失っていった。


「女! 何をした⁉︎」


 光を失った魔法陣を見て声を荒げる。


「ちょっとだけ転移を出来なくしただけです」


「チッ!」


 まぁ逃すつもりはないけど、一応保険にね。

 あとはこいつを生け捕りにするつもりだ。

 メルを傷付けたのは恐らくこいつだから殺してやりたいけど、一応情報も必要だから……ね。

 ごめんなさい。

 若干心が病み気味なので、更新が不定期になるかもしれませんが、がんばって書き上げますのでよろしくお願いします。


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