段取り八分とは言うけど
「俺らのパーティーに?」
「ケニーが入るの?」
微妙に嫌そうに言ってるのは、アレンとマリンだ。
警備隊本部へ赴いた次の日の昼ごろ、すっかり元気になった二人とギルドで待ち合わせしていた。
その際、ケニーには少し離れていてもらい、紹介するようにして加入して貰った。
その時のケニーの返事は「俺に選択権はない」だ。トニーのことで負い目があるんだろう、素直に俺の言う事に従っていた。
「そ、次の依頼は既に決まっているから。ちなみに他のパーティーと合同だから頑張ってね」
「まぁ瑞樹が言うなら入れるけど、大丈夫なの?」
人柄的なことで言うなら、今のところちょっと不安は残るけど、実力的なもので言うなら恐らく、二人と同じくらいだろう。
けど今回の依頼はどちらかと言うと、連携が大切なんじゃないかと思う。
「姉さん! お呼びにより参上しやしたぜ!」
後ろからうるさい声がギルドホールに響いたと思えば、俺の側まで急接近してきた。
暑苦しいこいつらは、オークの件で囚われていた女性達を見事に運びきった『猫の額』の一味だ。
「何でも、明日から手伝ってほしい依頼があるとかで?」
「そうだね。この件は、頭数とそれに伴った連携が必要だから」
「なる程、それなら俺らにとっても好都合。この間見せた見事な運搬力、連携に関してなら格上にも負けやしませんぜ!」
運搬力が関係あるのか知らないけど、頼りにしているよ。
さて、これで昨日居なかったメンバーが揃ったか。
これに昨日のメンバー含めて全てかな。
「もう少ししたら、『雀の涙』も合流するから」
と言っているうちに来た。
そうなると始まる、『雀の涙』と『猫の額』の睨み合い。
明日から協力するんだから頼むよ……。
とりあえず、ここじゃ話しずらいから別室に移ろう。
「じゃあ、今起きている件から話すね……」
実はこの件に関して、ギルマスと俺しか知らない案件もある。
それはこの件も、オークや領主の件と絡んでいる可能性があるってことだ。
その根拠がどこにあるのかと問われたら返答に困るけど、強盗犯がこの街から出た痕跡が無い事や、路地裏へ追い詰めたと思ったら消えてたって事もあるくらいだ。
用意周到なくせに、やることが強盗とかセコい。
それにこの件で冤罪で捕まった人が多すぎると言うことだ。
じゃあ捕まった人達はそのまま鉱山行きか…………いや待てよ……?
「まぁ作戦はわかったけど、トニーに掠め取られる役は誰がやるの?」
うん、それはもう決まってるんだよ。初めは焼きそばのおじさんにしようと思ったけど、市場の方が確実性が高いと思うから……。
「それは、ソラグにお願いしたよ」
「聞いてくれたんだ」
「あぁ、隣の野菜売りの女の人と仲良く話しているところへ、割って入ったよ」
「何か嫌な女みたいだね」
言うなよ……。
俺だってそんなに多くない時間で色々回っていたんだ。それに、ソラグがこうも手が早いとは思っていなかったよ。そっち方面の才能があるんじゃないか?
「ま、まぁとりあえず、配置については明日の朝、全員に教えるから。あとワイズ、別件で頼みたいことが出来たから、後で話すね」
「任せてくだせぇ!」
さてこれで明日から始まる作戦の段取りは整った。
皆には明日に備えて各自の準備と休息をさせる。
と言ってもまだ俺にはやる事があるしな。
「メリッサさん、ギルマスに面会をお願いしたいのですが……」
「は、はい! 瑞樹さんが来たら通すように言われてますので!」
いや、そんなに萎縮しなくてもいんじゃないかな。
昨日の一件ですっかり怯えちゃってるよ……。
ちょっと傷付いたぞ……。
「待っておったぞい」
「取り敢えず、明日からの段取りは整いました。あと、本部長の何とかって人が、ひねくれ者だって知っていましたね?」
「おぉ、あやつに会ったか。でも何とかなったんじゃろ?」
ギリギリだな。
銀時計まで出しちゃったし、後でメルにお土産でも買って訪ねるか。
「それと、ワイズを鉱山に偵察させます」
「そうか、可能性としてはあり得るからのう」
可能性が少しでもあるなら調べるべきだ。
そして、最悪を想定すると、あそこには『アレ』がある……。
それが、今回の肝だ。
「瑞樹ちゃんにここまで任せた以上、どう転んでもワシは恨みはせんよ」
そう言ってくれると助かる。
しかし、トニーを捕まえておしまいと思ったんだけど、事が大きくなり過ぎたな。
「ありがとうございます。今日はメルは領主館に居ますかね?」
「おると思うぞ。土産でも買って行ってやるといいぞい」
この間、美味しそうなお菓子を売っている店を見つけたんだ。
お土産にはちょうどいいだろう。




