権力ってのは
「わかった、その者をこちらに呼ぼう。おい、カルットを呼んでくれ」
本部長は自分の後ろに控える部下に命令し、呼びに行かせた。
その間、嫌らしい顔を隠そうとしないまま、俺に語りかけてきた。
「いやいや、済まないね。私たちもその件は追っているのだが、なかなか逃げ足が早くてね。そちらへ回せる人員が足りないのだよ」
「そうなのですか? それなら協力すれば、早く捕まえれるのでは無いのでしょうか?」
「おかしな事を言う女だな。我々の利点は団結力。自分勝手な烏合の衆が入ったところで、足手まといが増えるだけだ。この間のオーク達の襲撃の件も我々の団結力が生んだ勝利だからね」
いや、冒険者にもパーティーってのがあるんだけど……。
それに、何か自分に酔ってるな……。
あれか、警備隊自体を自分の手足の如く使いたいから、お前らは自分らで何とかしろってか。
その癖形だけ人を送って、こっちにも支援したよって言いたいのか。
だけど、そうはさせない。
「よく言いますね、頑張ったのは駐屯軍であって、警備隊では無いですよね? それに冒険者はあの時は正面で止めていてくださる軍の方の代わりに、側方で遊撃に出ていましたよ。別に警備隊の方が無能とは言いません。その間、街の警備も必要でしたから。ですが、適材適所を無視した事はあまり言わない方がいいと思いますよ」
「フン、ランク『E』ごときがよく吠えるわ。そのランクだと遊撃にも参加さえてもらえてないのに、まるで自分ごとの様に言うな」
そりゃ参加したからな。と言うか、俺がキングの首を跳ねたんだし。
「本部長殿、瑞樹は参加しています。参加どころか集落の襲撃にも参加し、その上たった一人でオークキングを討ち取ってます」
俺が何かを言う前に、ベリットが差し込んできた。
隣にいるケニーやトニーは今は驚いているけど、そのまま信じると思う。
けど、あの本部長には話半分にしか聞こえないと思うぞ。
「ふん、何を言うかと思えば……その言葉のどこを信じろと言うんだ? ベリットよ、嘘をつくなら、もっとそれらしい事を言うんだな」
ほら見ろ、こうくるのは予想済みなんだよ。
こう言う自分の肩書や権力に居座っている奴っていうのは、得てして次の展開が決まって来るんだよ。
「要するにベリットさんの言うことが、真実だとわかればいいんですか?」
「そうだな、お前にそれなりの証言が取れる後ろ盾でもあれば、望む人数を出そう」
言ったな。
その言葉忘れるなよ?
本来、こう言う後出しって言うのはあまり好きじゃ無いし、メルから貰っていきなり使うのも躊躇うんだけどな。
俺はスカートのポケットからある者を出す。
「では、宣誓します。私はベリットさんの証言の通り、オークキングの討伐を私自身が行い、それをギルドマスター、デンと、アレンドリア領主に報告したことを、この銀時計の下に宣誓します。なお、討伐の一部始終は、メルトリアお嬢様が単眼鏡で確認済みです」
夕食会が終わった明くる日に、メルから直接持たされた銀時計。
アレンドリア家の紋章が入った銀時計は、信頼された一部の人しか持たされていないらしく、故に見せればその人物の証言はアレンドリア家が証言したものと同義と言うことだ。
だから本来は、使い所が難しい物なんだけどな。
あれだ、時代劇に出て来る印籠だ。
「き、貴様。その銀時計をなぜ持っている⁉︎」
なぜって、メルから直接下賜されたものだけど。
そんな事知るわけ無いわな。
「当然アレンドリア家から下賜されたものですけど。それも確認してくださって結構ですよ? まぁ否定して下さっても結構ですけが……」
「ぐ……何人必要だ……?」
ま、そうなるよね。
権力を知っている人から見れば、銀時計の前で否定すれば、アレンドリア家に牙を剥くのと同義だからな。
こう言う傘に着るような事はあまり好きじゃ無いけど、同じ土俵に立つ場合は、最も有効な手段だな。
「十人で結構です。ですが、新人ばかりと言うのは勘弁して下さいね」
「わかった。先程呼んだカルットと言う奴に伝えておく、話しは以上だ。下で待っていろ」
それだけ言うと、本部長は俺たちを部屋から追い出した。
それから少しして、部屋からすごい物音が…………あぁ、悔しくて物に当たってるね。
権力にものを言わせる奴は、さらに上から押し潰されるんだよ。
あ、これブーメラン来るかも?
「お帰りなさい。話しはどうでした?」
「少しだけゴタゴタしましたが、概ね上手く行きました。人員としては、十人ほど借りれますよ」
「瑞樹ちゃんがそれだけでいいって判断すれば大丈夫だね。内容はまだ聞いてないけどね」
そうだった。それなのに無償で信じて来るユミルは凄いと言うか、重いと言うか。
「冒険者の皆さん、お待たせしました」
そう言って向かってきたのは、本部長から呼ばれた人員だろう、ちょうど十人だ。
「初めまして、代表の瑞樹と言います」
「どうも、俺はカルットと言います」
そうして、お互いに自己紹介すると、別室を借りて今回の作戦の概要について話し始めた。
「さて、今回の件について把握出来ている人はいますか?」
ふむ、マルトとケニーとトニー。
それに警備隊の人が数人。
「では、今回の作戦の目的ですが、通常の物盗りとは別に売上金を狙った強盗が発生していまして、その犯人を捕まえるのが目的です」
「その強盗を捕まえるだけが目的なのか? その割には大掛かりな気がするんだが」
まぁちょっと気になることがあってね。
とは言わずにはぐらかす。
「それが強盗団の可能性がありましてね。追った先を包囲したいと思います」
こんな大きな街の中で強盗団がいるのかわからないけど、嘘も方便だ。
「作戦内容は実にシンプルです。このトニーと言う少年の協力の元、囮作戦を行います。トニーに数日奪わせ、やり易い状況を思わせておいて、犯人は直接もしくは間接的にトニーから奪うかのどちらかを行うので、そこを捕まえてください」
とまぁこんな感じで、凄く簡単だ。
このメンバーの他にもあと数人来るけど、それは明日合流するからその時に話すさ。
って言うか、警備隊員以外に伝えることがあるんだけどね。
自分で書いていて、この話しはさくっと終わらせたいんだけど、そう言う物に限って長々続くと言うね……。
これからもよろしくお願いします!




