私のせいじゃないよな……?
早速二人の家を出て向かった先は、ケニーならよく知る場所だ。
「冒険者ギルド?」
「そう。まぁここは、ただの立ち寄りなんですけどね」
そう言って二人を伴って中に入ると、まだ昼前と言うこともあってそんなに混んでいなかった。
この際だから、次いでにお昼ご飯と言うのもありかな。
「ケニー、トニーと一緒に食堂で待っててくれますか? 私も後で行きますので、お金の心配はしないで下さい。私が持ちますので」
「ここで、何をするのか教えてはくれないのか?」
「ここに寄ったのは、自分の用事と、トニーの事に関しての布石ですね」
「…………わかった。お前のことだから、後で話してくれるだろう。取り敢えず食堂で待とう」
かなり遠慮して聞いてくるな。
トニーの事もあるだろうから、下手に強気に出れないのもあるんだろうな。
言っちゃ悪いが、いつもの調子じゃないケニーがキモい。
「お帰りなさい、瑞樹さん。『雀の涙』の皆さんはまだ戻ってきていませんね」
二人と別れて、カウンターでメリッサさんに話しかける前に先に言われてしまった。
俺が行くたびにこの人は対応してるんだけど、一体いつ休んでいるんだろう?
「そうですか。それとは別件でギルマスに面会を取り次ぎたいのですが、出来ればメリッサさんも一緒に」
「ここ最近活躍されている瑞樹さんと言えど、それは内容によります。先に聞かせてもらってもよろしいですか?」
そこは当たり前か。
いくら最近頑張っているからと言っても、所詮はランク『E』冒険者。
はいどうぞと、簡単に会わせてくれるはずも無いよな。
けど、内容が内容だけに別室を希望して話す事にした。
「実は、今朝言ってた引ったくりの件なのですが、あれって売上金を狙った強盗までいるのですか?」
まずは気になっている事を確認した。
本来は街の警備隊の案件なんだけど、ギルドにまで話しが来ていると言うことは、巡回警備依頼の注意要項にも盛り込まれているんだろう。
で、今朝までメリッサがこの話題を出してきていると言うことは、まだ未解決。
下手すれば、依頼に出てくる事を予想している。
「よくわかりましたね、その通りです。朝市が終わった後に、単独もしくは二人がかりで売り上げを奪っていくと言う事件が発生しています」
「目撃証言も?」
「えぇ、フードを被ってて見えなかったそうですが、背はそんなに高く無く、兎に角足が速いそうです。瑞樹さん、話しはそれだけでは無いのですよね?」
やはり別件か。
焼きそばを買ったおじさんの話しの裏がこれで取れたかな。
トニーの言う事を信じる、と言う前提付きだけどね。
「えぇ、実は今日市場や屋台を見て回った後に、ひったくりに会いまして。そして、その犯人を捕まえました」
「本当ですか? それで警備隊に連れて行ったのですか?」
話しの流れからするとそうなるよな。
けど、その流れで終わるなら、わざわざメリッサに報告はしないよ。
「いえ、連れて行ってません。何故ならその犯人は、私の知り合いの冒険者の身内だからです」
「……瑞樹さん。たとえ瑞樹さんと言えど、庇い立てすれば罪に問われますよ?」
これも想定通りだ。
けど、何もかもばっさり切り捨てたくは無い。だから俺はここにいる。
それにまだ前哨戦だ。
「勿論、罪は罪。それは償わせるべきだと私も思います。」
「だったら……!」
「私、この街に来て、最近不思議に思っていたんですよ。窃盗事件とかあってはいけない事だとは思っています。それでも、街の端に空き家やスラムがっても浮浪者が少ないんですよね。」
「いい事じゃ無いですか」
「いい事なんですか?」
「だって、それで街の治安が保たれているんですよ?」
確かに『犯罪は悪』として一括りにしてしまえば街の安定化につながると思う。
けど、そうじゃ無いんだよ。
「なら、私がギルマスからの性的嫌がらせを訴えたら、犯罪者として鉱山送りに出来るということですよね?」
何かしらの訴えをしたら全て鉱山送りにできると言う事だよね? それを許すか許さないか、本人のさじ加減でその人の人生が暗転する。
犯罪者を擁護するわけじゃ無いけど、窃盗一つで鉱山送りはやり過ぎかなと。
そもそも目の前のメリッサやケリー、その弟のトニーもだけど、普通に『犯罪イコール鉱山送り』って図式が成り立ってないか?
「そしてメリッサさん、貴方はギルマスに『正座と一部費用の負担』と言う『罰』を勝手に与えて、性的嫌がらせと言う犯罪を有耶無耶にしましたね?」
さぁどう出る?
話している間、ずっと目を見つめてるけど、メリッサの顔が今にも泣きそうになっているのがわかる。ポーカーフェイスじゃなくって良かったよ。
けど、この辺りで落とし所も必要だ。
「メリッサさん、私は別に貴方を責めたいわけではありません。確かに悪いことは悪いし、罰は必要だと思います。ただ、全ての落としどころが一生鉱山という所に納得がいかないだけです」
「けど、それは私に言われても困ります。私が法律を作ったわけでは無いので。それはこの街の法律を作った領主様に言って欲しいですね」
「なら、メリッサさんのギルマスに与えた罰は無効ということでいいですよね? では法に則ってぎるますを訴えて鉱山送りに……」
「待ってください! わかりました、瑞樹さんの要望通りギルマスに取り次ぎます。ですから、この間の件は穏便にお願いします!」
そう言って俺が席を立とうとすると、メリッサが俺の服を掴んで懇願してきた。
俺としても事を荒立てる必要も無いし、ギルマスに取り次いで貰えるならそれでいい。
けど、ギルマスへの要望がもう一件増えたことも確かだ。
メリッサがギルマスへ取り次ぐ為に席を立ったから、俺も一度ケニー達の元へ行った。
そしてもう少しかかる旨を伝えたところで、タイミング良くメリッサからギルマスの部屋へ通された。
「ふぉっふぉっふぉ、さて瑞樹ちゃんや挨拶は抜きにして、いきなり本題でいいかの?」
いいね、俺も今回は前置きなんて要らないと思っていたところだよ。
「では、ギルマスがメリッサさんから聞いた部分は省かせてもらいます。私の要望は二つ、一つ目はギルドから警備隊への協力要請です」
「何の協力要請じゃ?」
「メリッサさんから聞いたと思いますが、私が今回捕まえた犯人は、食べるのに困った少年です。しかもその少年は、売上金の強盗には一切関与していないという事です」
まずはトニーの件だ。
トニーがやってしまった事はしょうがない。
しかし、強盗の罪まで被せられたら、それは冤罪と言うものだ。
「しかし、その証言だけではのう」
そこで警備隊だ。
正直言ってここからは、俺だけじゃ手に余るんだよ。
「私もそう思います。ですが、ここのままでは、やっていない事までその少年の罪になりかねないので……なので真犯人を釣り上げます」
「ほほう。して、その作戦は成功するのかのう?」
「長くても一週間、早いと三日ですね」
「して、ワシがその紹介状を書かないと言ったら?」
書くくせに、わざわざそれを聞いちゃうんだ。
ギルマス、目が笑ってるぞ。
笑ってないのは、メリッサだけだ。きっと結末が見えてないからハラハラしてるぞ?
なら乗るか。
「そうですね、顔の利く領主様……メルに訴えて、ギルマスを鉱山へ直行と言うところですかね」
「ぐぬぬぬ……こうなれば、いっそのことおしりと言わず……」
二人で下らない茶番劇をしていたせいで、それを真面目に受け止めてしまった一名が破綻してしまったよ……。
「瑞樹ちゃぁぁぁぁぁん!! うちのお爺ちゃんがごめんなさぁぁい!! 鉱山だけは、鉱山だけは勘弁してくださぁぁぁい!!」
あ、やば。
ギルマスと調子に乗って、本気で泣かせてしまったよ……。
しかも君ら家族だったんだ、そりゃ一生懸命庇うわな。
それでこれ、どうしよ……。
もう一方の方もも少しで書き上がりますので、もうしばらくお待ちください。
こちらの 評価や感想などもどんどんお待ちしています。
と言うかこっちが楽しくてしょうがありません……どうしよ?




